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ギアピーネ→アーリンのターン

 俺は喧嘩ほどではない、こういういざこざに巻き込まれたらだんまりだと決めていた。今後のリスクも考え、相手を適当にあしらってその場を済ませる。今のギアピーネだっていずれは飽きるだろうと、そう思っていた。

 コスプレのような水色の髪にスクール水着。普通あり得ない格好の少女の視線は、穴が開きそうなほどただ一点に向けられている。

「どうしたの?」

 どうしたの、じゃあない。まじまじと乳首を見られて無視なんてできるわけがないだろ。

「なに? こういうの好きなの?」

「なんでそうなる」

「我慢してる顔だもん。それに、早くカワイイって言ってくれれば、離れるのにー、こうしててほしいのかな?」

 生憎だがこれは本当に不快に思っている苦悶の表情だ。嬉しかったらなりふり構わず飛びついてるよ。

「手汗かいてるし。図星?」

「密着されてたら嫌でもかくさ」

「あーあ。全然反応してくれないの。……大声出すよ」

「急に脅迫に変わんな! おい、まじでやめろよ?」

「そっちこそ。次からはやらしいことしないって約束。カワイイ、って頭撫でて?」

 俺は望んでそうしたわけじゃあなく、もともとギアピーネの計画に巻き込まれただけだし、要求もいつの間にか盛られている。

「こほん。あー、あー」

 大袈裟な咳払いをしてこっちの様子をうかがう。この人格ならやりかねなかったが、そうでなくともコイツを引っ込ませるために素直に指示にしたがった。

「ほら、かわいいかわいい。……これでいいか?」

 小さな頭を毛の流れに沿って撫でてやる。柔らかく、指に絡まらない、健康的な毛髪だ。

 それからしばらく、まどろむ犬猫のように、物言わぬギアピーネの頭を撫で続けた。もちろん甘い言葉を口にしたのは初めだけであって、黙ったまま。

「……ごめ……ん」

 少女の頭がこてんと俺の胸に落ちてくる。ひとつ声が低くなり、どうやら発作はおさまったようで、恥ずかしい姿を見せた、と顔を上げられないでいる。そのせいなのか、胸の中にあるギアピーネの頭は火照っていて柔らかな毛の感触と、その収まりのいい大きさは不思議と保護欲をくすぐる。

「本当に迷惑をかけた。この通りだ。もちろん二度もこんなことがあって私には許される資格など無いとわかっている」

 砂地に頭をつけて土下座で謝ってくる。その姿こそ変わらないが、本来の彼女にこうして謝罪をされるのはどこか申し訳がない。いたたまれなくなってすぐに頭を上げさせた。

「余計なことで時間をとらせた。倉木はもう自由にしてくれ」

 本来の用事は済ませていて、これ以上は引き留めることはしない。潔く、だらだらといいわけをしないことがある意味戒めであった。


「ただいま」

 しばらく一人になって気分転換をしようと思ったのに、むしろ疲れてしまった。そして二人を待たせてしまって、アーリンは言葉にはしないが不安そうな顔をしている。

「ヨクス、ちょっといいか」


「何も言わず聞いてくれ。荷物だけ置いて帰れるか?」

「……つまりアーリンと二人きりにしろ、ということですか?」

「いやあのだな。確かにそれぞれとそういう約束はした。俺もそれぐらいなら問題なく付き合うが、ヨクス。また目立たれるのは困る」

 今さらだがアーリンを一人きりにさせてしまっていた。さっきの不審者、もといギアピーネのようにああいうのは一人になるタイミングを観察している。ヨクスも、アーリンだって面倒ごとに巻き込まれる前に対策をしておきたい。

「駄目です。下手をしたら帰れなくなるんですよ?」

「あー……それもあるけど、どうしたものか……」

「目立たなければいいなら……これでどうですか?」

 日除けのラッシュガードにつばの広い帽子を呼び寄せて身につける。確かに目立つどうこうよりもまずはヨクスが顔を隠せば少しは安心だ。


「アーリン。じゃあ行くか」

「……うん」

 アーリンは寂しそうにシャチの浮き輪をむにむにと抱いている。しおらしい女の子を見るとつい目が離せなくなるが、アーリンだってそれに漏れない。

 しかし困った。アーリンから動いてくれない限りこっちだってなにもできない。

「……うがー! おりゃりゃ!」

 先程までの沈黙を破って、突如として海水を手ですくって俺にかけてくる。たまらず逃げ出すとその反応を楽しむように笑いながら後を追ってくる。

「全く。一人だと全然面白くなかったんだぞ。待たせた、だけで許されると思うなよ」

 俺にさらなる謝罪をさせるために黙っていたらしい。ただ、それほど怒り狂っている訳ではないようで笑顔を見せている。しかし、まさに息つく間も無く水を浴びさせられこのままでは声をあげるのもかなわない。

「……じゃあこれだ!」

 アーリンが手放して足元を漂っていたシャチの浮き輪を奪い盾とする。

「あ、こら。シャチさんを返せ!」

「ぐぬぬ、こっちだってやられっぱなしでいられるか」

 どうしてこうなったかわからないがいつの間にか端から見ればいちゃついているような状況になり、追いかけ回される時間がしばらく続いた。

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