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休む暇、無し

「ギアピーネ、その格好……」

「な、なんだ。変か……」

 ちゃっかりギアピーネもビーチに相応しい水着姿であった。

「違うからな。これにはその、単に目立たないようにするだけであって、ああもう。倉木には見せるつもりなんて無かったのに」

「目立たないって、むしろそっちの方が目立つからな」

 濃紺の、小中学校の頃によく見た水着。ただスカートがデザインされていたかはイマイチ記憶が曖昧だった。

「くっ、これがスタンダードな水着だと調べたのだが……」

「うん、標準的ではあるが……なんだ、独特のじゅよ……うじゃなくて雰囲気があるんだよな」

「うう……体のラインが出るのは避けられないし……」

 もじもじとスカート部分の裾に手を伸ばし、胸元を手で隠して縮こまる。

「まあそんなことをしなくても至極健全だが……」

「……何が健全だって?」

 つい言葉に出てしまっていた。

 見た目がどうこうでなく、俺はヨクスにアーリンにギアピーネ、全員好きでも嫌いでもない。

 ヨクスやアーリンのようにアプローチを受けていると、諸々付き合わざるを得ない事情といずれ1つの区切りをつける義務感のある窮屈な関係となる。

 それに対して一方はつきまとわれ、一方は別人格に暴走されたことである意味互いの深いところを知り、こうして密会をするという一つの、秘密の共有、という点でギアピーネとはどこか気の置けない存在だ。もちろんこの密会に下心は無い。アプローチも受けていない。

 そんなきっぱりと友人以下だと割り切って、ほんの冗談らしく思ったことを漏らしてしまっていたようだ。

「い、いや、それよりもだ。それよりもいつから見てたって?」

 なんとか話題を逸らす。

「あう……こ、ここに来てからだ。あれからもう倉木の家の周りをうろついたり、盗み聞きもしていない!」

「前はしてたのか……けど、どうやってここを? あの経由するとこで見張ってたのか?」

 ギアピーネの態度からどうやら、つきまといはやめたらしい。

 だがこの広い世界、たった1つ特定のなんたらを見つけ出すのは可能であるのか。考えられるのはなんたらを利用するとき必ず経由している港にて待ち伏せるぐらいだが。

「私がついて回るのはばれるリスクが高いから、これで追跡させた。高性能のステルス機能つきだ」

 ギアピーネは肩の上に浮いた、球体に車輪型のパーツが着いた機械を見せてくる。レンズがあり、これは監視カメラということか。

「私の神器の一部で、攻撃の機能は無いがこれで監視が可能だ」

「なるほどね。これで監視を……さっきこういうのはやめたって言わなかったか?」

 見張るよりも録画機能がありそうなカメラの方がタチが悪くないか。

「ちが、倉木『は』フォーカスしてないから! あくまで対象はアーリンだ。ほら、撮っていたのを見せる……」

「いや録画機能あったのかよ。というか、どちらにせよ無断で撮影はやめておこうな」

 ギアピーネは肩を落として反省しつつ、タブレット端末を自身の「ロッカー」から取り出してすいすいと操作する。ギアピーネに関してはそれが神器なのか単なる機械なのかわからない。

「うん……俺らがいて……一緒に飛び込んでいった……」

 3人並んだ「港」の風景から始まって、海へ向かうところだ。もちろんやましいことなど無い、いたって普通の映像である。

「……もう少し続けるぞ」

 やや不思議がられたがギアピーネには強く断る権利はない。わざわざ俺も長引かせる気は無かったが、どうしても確かめておきたいことがあった。

「なに? き、着替えなんか撮ってないってば、もう……」

「……まあ、みたいだな」

 狭い店内であったため、飛び回って目立つのを避けたのか、試着室のカーテンを越えようとはしなかった。が、その代わりに地べたを走行し、かなり際どいローアングルで対象に迫っている。


「……今パンツ見てたでしょ」


「み、見てねえって。そっちがそもそもこんな角度でだな……」

 実はバッチリ見えた。もちろんすぐに他所を向いたが。

「ほら、返して。もう。こんなことで本当にフる気はあるの」

 これは。前にヨクスにも同じようなことでことで咎められたことがあったのを思い出す。その時も事故だが。仲がいいわけでもないのにどうしてこうも不機嫌になるのか。

「倉木。お前は本当にもう……」

 もごもごと口ごもりながら軽く握り拳で腹の辺りを叩いてくる。かと思うと、しゃっくりをしたように軽く揺れる。

「ホントにダメなんだからね! クラッキーってば。それじゃあ罰として私をカワイイって言って?」

 何が引き金となってしまったか、別人格のギアピーネが甘い声を出し始める。

「ここでこれか……アホなことやってる場合じゃないだろ」

「むー……クラッキーでもそんな言葉ダメなんだー。ムッと来たから意地でも放さないから」

 前の時とは違い、頬を膨らせて表情豊かに不満を表現する。そして小さな両手で俺の手をがっしり握る。

「あ。クラッキーのだ」

 何を見つけた。

 全く俺の何がどうしたって。

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