悪くない。水着は
「そういやなにも荷物持ってなかったけどどうなってるんだ?」
水着の試着のついでに、その脱いだ服を入れる防水のバッグにビーチサンダルも買ってもらった。そうして俺一人だけがまず支度を終え、二人を待つこととなった。そこで気になったのが荷物の問題だ。
わざわざ前置きをする必要はないが人間の旅行ならば着替えとかで荷物が出る。けどあの二人は。まあ散々超常現象は見てきたし、今さら不思議なことではない。
「しかし暑い……暑い……」
いくら文句を言おうと雲ひとつ無いカンカンの日差しは容赦なく照りつける。
ああ、みんなすごく気持ち良さそうだ。
「お待たせー。はっはは、暑さでぼっーとしてたな?」
アーリンに違いない声に、おう、と短く返事をしてなるべく自然に、頭をかきながら振り返る。
「へー……」
なんの感嘆か、妙な声を出してしまった。
でかい。
もはや説明不要、どれがどうすごいと言葉を並べるよりも、一見してその一言に尽きる。
「どうかな。似合ってる?」
黄色と赤の、元気が溢れているようなビキニにそのたわわなものを包み、いつもの長かったツインテールを耳が出るまで束ねてまとめている。左に右、と体の向きを変えて最後に小さく脚を交差させて手も後ろに回す。
ああ、ずるい。なんだその仕草は。そんなの、そんなの直視できるか。
「どしたー? ふふ、顔赤いぞー」
「し、しょうがないだろ。暑いからだよっ」
俺が照れてることを見抜いて勝ち誇ったようにからかってくる。
「で、どうだ。感想はまだ聞いてないけど」
俺はお世辞を言ったことはない。俺はそもそも選り好みできる男じゃあなくて、何かをするにも奥手であったから誰であってもその変わろうとする心意気を尊敬して、評価をしてやるなんて立場には無いと考えているからだ。
けど今は嫌われることなんて遠慮はしてはいけない。が、適度にはしておく。
「……悪くないです」
「むー……」
不満か。申し訳無いが仕方ないんだ。俺にはこれが限界。
「……後はヨクスだな」
「……ふーんだ。またヨクスヨクス……」
「なんだ? あの人だかり」
たくましく鍛え上げられた肉体の男がたかり、ざわざわと何かを囲っている。穏やかな雰囲気ではないようで我先にと、口論こそ無いものの筋肉の固まり同士が小競り合う。
「これじゃあ待ち合わせもできないな。万が一巻き込まれないためにも離れとくか……」
先に出て来たのがアーリンであったから、その赤い頭と俺の黒い髪でここでは目立ってはいるはずだ。
「なあ、アーリン。着替える時ヨクスといたんだろ?」
「え?」
「……あっ、いや……」
聞かなきゃ良かった。今更だが二人が俺を介さず話してたのは確か一回見ただけのはず。俺の見ていないところではどうなのか知らないけど、この関係は一番気まずいやつだ。
「ん? なんだ、ナンパだったのか。あの輩は」
今も蠢く人だかりが嫌でも目に入り、その下向きになっている視線と、隙間から覗いたか細い腕で女を囲っているとわかった。
「あれヨクスじゃん」
「へ? どこだ?」
「あそこでナンパされてる」
ナンパって、見渡す限りそんな現場は1つしか見当たらない。
遠慮をするように軽く手を振って男達の間を縫い、取り囲まれていた女性がやがて姿を表す。慣れているのか、聞き取れないがその口は流暢に動いている。
「ヨクス……だな」
俺が気づいたのと同時にヨクスも俺の顔を見て顔を晴れやかにする。
後ずさりをするヨクスになおも食い下がる男達。
「そう、あれが私の連れなんです」
なんてたぶん言ってるんだろう。目に見えてはっきりと断れる理由である俺たちの方を指差して、男達のもとから走り去る。
残された男達はまさに狐につままれた、呆気に取られた顔をする。そう。大して冴えない俺の顔を見てだ。
適当にあしらわれたな、とうっすら笑っていた者も、ヨクスが俺の肩に手を置いた瞬間にその目から光が消え失せていた。
「すみません、少し取り込んでしまって。では行きましょうか。クラッキー」
「だ、大丈夫……早速だがもうちょい人少ないところに行こうか」
生きた心地のしない突き刺さってくる視線から一刻も早く抜け出したかった。恐る恐る、ほんの少しだけ振り返ってみて目の端に移ったのは行儀悪く唾を吐く墨の入ったお兄さんだった。
「……悪くないです」
悪い女だ。全く。
チヤホヤされて嬉しいのはわかるが、あの雰囲気なら何かしらのトラブルが起きたっておかしくなかった。神ならいざとなれば危険とは無縁なんだろう。けど俺はただの人間だ。情けないけど守れる保証は無かったし、洒落にならないぐらいビビってた。
ああ、面倒ごとに巻き込まないでくれってことだよ。眼福ぐらいしても罰は当たらないよな。
感想は適当にしてヨクスの水着を間近で堪能した。高級感のある深い青色のビキニにシックな白と黒のパレオを腰に巻いている。残念ながらパレオで足腰の露出は減っていたが、くびれによってメリハリのある全体のシルエットは芸術作品のようでありながらもしっとりと汗に濡れた肌の艶かしさが共存し、俺のいずれかの本能にぐっと響く。
本当に、悪くはない。




