デート2回目 2
たとえアーリンだとしても、いまだ手を握るだけで緊張する。
始めに握手を求めたきり、アーリンはいつもの通りに戻って、やがてなんたらの前でがっしり俺の手を握る。移動のために仕方の無いことだとしてもやはり女神の方から動いてくれるのは助かる。
「ヨクスー……」
ちゃっかり俺の手が空いている方に来てはいたものの、先に行く、と断って目の前から姿を消した。
「行っちまったな。それじゃ俺らも」
「……今集中してるから」
唇をつんと尖らせ、どこか気が立っているように見える。集中すると言ったって、一旦あの港を経由するからこの往路は容易いはずじゃないか。
天空に浮かぶ港に無事到着し、人間界もとい下界行きの光る門で今度こそヨクス、アーリンと並び立つ。まあヨクスとは手を握れず、袖をつままれたが。
「離すなよ」
唯一ここではアーリンの手を握る手に力を入れる。眩しい光の中で視覚は断たれ、少しの落下の感覚と足元をくすぐる空気のクッションを感じた後、つむったまぶたに強い日差しを感じた。
「……あっつ。ここどこだ……」
気温の高さに弱音を吐きつつ見渡したそこは、見慣れない植物の生い茂っている、まさに異国らしかった。
「だいたいの目安で来ただけだからな。泳げるとこなら、って」
意外と降臨の仕組みも緩いものだと思った、が大した事故も無いのでよしとする。
「これだな。覚えとかねーと」
ここのなんたらは、後方にあった二つの石柱と虎の像のようだ。柱の方は四角く削られた、手首から肘ほどの幅の板状の石を積んでできた柱で、男の俺の背丈で約二人分ぐらいの高さだ。
それに挟まれた、虎であろう像は虎独特の模様が彫られているが、獅子舞のような丸い目に大きく開いた口を持つ、ド派手なデザインであった。
「しかし暑いな。こりゃ確かに泳ぐにはいい天気だ」
「いいね。燃えてきただろ?」
アーリンは本当に良く俺の言葉に嬉しそうに反応をする。
「じゃあ早速、この森抜けるか。ついてこーい」
参拝か観光のためかできていた道に沿って森を抜けた。前と変わらずアーリンを先頭にした小隊だ。
「本当にどこだここ……」
アスファルトの道路に出たはいいが、それだけではまだなにも判断できない。と思ったところに現地の人間が通りかかる。もちろん外国の方で、30代であろう、はち切れんばかりの体つきの女性だ。
「お、いいとこに。聞いてくるわ」
聞いてくるって、まさか外人に話しかけるつもりか。
いや。生まれてこのかた母国語しか話してこなかった俺はともかく、アーリンってまさか会話ができるのか。
「ペラペラー」
うん。普通に俺の知らない言語で会話してる。様子を見たところかなり流暢だ。これが神様効果か。
「あっちらしいぞ。わりと穴場ってやつらしい」
「そうか……その、アーリン。言葉通じたんだな」
「変な言い方だな。ま、なんてこと無いけど。神様だからな」
にしても、ああも気軽に話しかけるのはアーリンにしかできないだろう。
「あ、そうそう。ちゃんと水着は着られるところだったぞ」
「ああ。……あ?」
「あー、着いた。意外と人がいるな」
幼いとき以来、長らく海に行ったことはないがテレビで見る有名な、江ノ島やらどこそこにも負けず広い砂浜に人が溢れている。
「まずはクラッキーの水着だな。店行こ」
砂浜にはまた、立ち並ぶ売店が多数で調達できない心配は無かった。言葉も通じる。しかし、肝心なことがある。
「あのー、ここの通貨なんて持ち合わせてないんだが」
ここへ来る前に気づくべきだったが、急な計画であったのでうっかりしていた。
「お金なら持ってるし」
え。
人間しか使わないはずの通貨を持っている。いったいどういう仕組みだ。
「どれぐらいかなー」
ポツリとひとりごちて、何かを受け取るように手のひらを返して腹の前に構える。
ちゃりん、と何も無いところからアーリンの手に硬貨が数枚呼び寄せられた。銀色のものが1枚、銅の色のものが4、5枚か。
「……ごめんたぶん足りない」
「だろうな」
硬貨を乗せる手がプルプルと震え、その硬貨の数と種類も何となく察することができた。
「無理しなくていいって。泳がなくてもほどほどには付き合えるし」
海だからといって必ずしも泳がなくてはいけない訳じゃあない。周りでもサングラスで連れを見ている人は多い。
「ちなみにそれはどうやって?」
「お金のこと? これは貢ぎ品だ。貢がれたの物品をこうして同価値のものに変換できる。……違うからな、出費があったしまだ大きな神事の前だから、今だけなんだよ」
人望ならぬ神望か、はたまた信仰が薄いのではと誤解されないように事情を話すアーリン。出費とはやはり水着なのか。
「クラッキー。なら私が」
ヨクスの手には紙幣が数枚握られている。決めつけるのは良くないが、アーリンに比べると金銭に関して堅実な印象であったから驚きはしなかった。
「あっ……」
また俺がなよなよした返事をするとわかっていたのかすぐに店に走っていく。アーリンにも背中を押されて断れなかった。




