デート2回目
「……駄目か。うまくいかねぇ」
うろ覚えで組んでみた瞑想の構えを解いて楽な姿勢になる。ヨクス達が来るまでの間、暇だという訳ではなくて、緊張をほぐしておきたかった。
そういうときは別の何かに集中をしていれば紛れるので、前回良いところまで行った黒髪の女神の姿を、肩を強張らせ、はたまた何分もかけてゆっくりと息を吐いてリラックスをして思い浮かべてみたがどうにも思うようにはいかない。
「ヨクスかアーリンか。片方だけで良いのかあの二人が揃っていたからなのか? ああも上手くいったのにはきっと神の気が関係してるんだろうが……」
「『スベスベ肌で、二人はもっと触れ合う』」
つけっぱなしのテレビに女性用化粧品のコマーシャルが流れる。男女とも俺と同じ大学生のようで、大学から休日のアウトドアの場面などが代わる代わる映り、やたらと腕を組み、抱き締め合うという内容だ。そして最後に夜景をバックに男が女の頬に触れ、キャッチフレーズで締められる。
決して憧れていたわけではなく、そういえば似たようなことがあったな、と自分の頬を触ってみた。
「……いや、恥ずかしいなこれ。思い立ってできるものじゃあないぞ」
他人に触られていると想定しただけの、リアリティーは皆無のものであったが、こんなことをしたのか、こんなことをされていたのかなんて考えたら自分で寒気がした。だが。
「なんなんだこの感じは……」
未知のことへの好奇心はあったが、それに反するあのとき感じた馴染みのある幸せが頭からじんわりと思い出される。
「俺は……『オレ』は……」
ピーンポーン。
待ち合わせの時間ピッタリにインターホンが鳴る。意外と時間が過ぎるのは早かった。
「おっす」
「……お、おはようございます」
アーリンの元気な挨拶に対して、緊張したようなヨクスの挨拶が続く。まずは謝っておかないといけない。
「よ、ヨクス。この前は悪かった。申し訳ない」
「うう……もういいんです! 早く忘れてください!」
まだ怒っていたが、早く忘れてくれ、との怒りであった。しっぺかデコピンぐらいで許されるならケリもつくし、甘んじて受け入れた。しかし、恥ずかしい思いをさせないようにもう無かったことにするのは本人が望んだとしてもこっちにはまだ罪悪感が残る。
また別のことで優しくしておこうと忘れないようにした。
「早速だけど今日は海行くぞ海。クラッキーも水着の支度だ!」
「う、海か。また唐突な。しかし、まだ時期的には早いと思うんだが」
この地域の季節に詳しいのかはわからなかったが、まだ初夏と言われるなんとなくのこの時期の気候は察することができるだろう。
「誰が国内だって?」
「あー……」
俺はまた不法入国をしてしまうようだ。
気が済むまで付き合うつもりだが、こっちにも断る権利はあるし、そもそも理由がある。
「水着持ってねえんだ。引っ越したときにわざわざ必要なものでもなかったしな」
「でも私も水着だぞ? ヨクスも」
そんなことか。
そんなことか。
落ち着け、俺。そう。そんなことだ。
今日もヨクスは白を基調とした清楚な格好で、上品に露出は少なく、その二の腕と膝は今まで見たことが無い。当然水着ならば、雑な分け方をすると、腹が隠れるか隠れないかだけだろう。腕に脚を出すのは確定している。
背は高く、女性の命とはよく言ったもので男のものとは全くの別物の甘く香る髪を揺らすヨクスは、持っているもの全てが美しかった。
アーリンは、今日も俺が貸したままのパーカーを来てきている。そしてヨクスと対照的に、バッチリ太ももを見られるミニスカート。
間近で見たからそのくらくらするような魅力は知っている。あと、初めて会ったときには持ち合わせているその豊かなものを押し当ててきた。いつも無邪気に笑う無垢な少女は、知らぬ間にその価値あるものを見せびらかしていて、こちらだけが有利になる不当な取り引きをしているような、申し訳ない気持ちになる。
まさに女の子のアーリンに加え、神事とも言えよう、期待しかないヨクスの水着など、俺は果たして耐えられるであろうか。
「もー、女の方から言わせるなよな。水着は最悪現地調達で。はい」
結局、極度に嫌がったわけでないので、アーリンの強い押しに負けて行き先は決まった。早速とばかりに腕を引かれるかと思ったが、握手を求めるように手を伸ばして待ち構えている。
「……前と同じ場所だろ?」
手を繋ぐのはまだ無理だ。今のこの仲では、勘違いをさせる。
「……ヨクスだけ、か」
「クラッキーってば、照れなくてもいいのに。ほーら」
俺の素っ気無い態度を、まるで子供のそれのようにからかう。ばしばしと背中を叩かれ、逃げるように部屋を後にした。




