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ハプニング

「あれは……」

 森を進行する中、人が施行したであろう木で出来た長い階段があった。これまで祠から歩いてきた道があって、人の手が加わっていたことは確かであったから不思議ではなかった。しかし何故か立ち入りを困難にするように意図的に置かれた木箱のバリケードがある。

「邪魔だなぁ。なんだこれ」

 アーリンは障害を前に首を傾げている。ここに来たことがあるなら見覚えがあるんじゃないのか。

「最近来たことはあるけど『人の依る(しるし)』の場所が変わっててさ。一応この、前のとこまで見に来たけどこれは置いてなかった」

「場所が変わってる? うーん……このバリケード、は……」

 心なしか薄暗い階段はお世辞にも立派とは言えない、すっかり古くてボロボロである。となると、大方階段が古くなったから事故を防ぐために祠を移したのだろう。階段を直せばいいとも思ったが、木箱の下から覗く青々とした潰れた雑草を見る限り、まだまだこの措置がされたのはごく最近のことで、これから直すつもりなのだろう。

「一応危ないだろうから気をつけてな」

「おう。ってかその心配をするのはクラッキーだな」

 そこまで急な階段でもなく怪我を負うような岩も見られないので現地の人には悪いが黙って入らせてもらう。

「よいしょ、っと……」

 アーリンが片方の足をかけて、もう一方もかけてよじ登ると木箱の上に四つん這いになる。

 ミニスカートで。

 滅多に、いや、お目にかかることの無い、筋肉が確かに詰まっているとわかる太さの太ももは、程よく脂肪もあり、楕円形の断面を持つために相対的に肉の多い裏側を見ただけできっと反対側はまた、筋肉質なのだろうと想像が膨らむ。

 魔性の大腿部に加え、白黒の縞模様をした魔性の布もバッチリと確認できた。

「なに見てるんですか? クラッキー」

「うおぁ! ち、違う、意図して見たわけじゃあない!」

 背後から冷たいヨクスの囁きがして、甘い景色から慌てて目を背けた。悪いことを見られそうであったドキドキと、それがバレてしまった冷や汗も出てきてなんとか取り繕おうとその場でうろうろとした。

「アーリン、パンツ見えてるから」

「おおっ。悪い悪い、すぐ移動するよ」

 思っていたよりもアーリンはさばさばしていて何をしているかは見られないがガタガタと落ち着いた足音が聞こえる。

「よ、よし。次は俺が上る」

 アーリンの前例があったから、次は俺が進んで名乗り出た。ヨクスもアーリンよりも丈が長いがスカートであったため、さすがに恥ずかしい思いをさせないためにも。

 早速木箱によじ登ろうとするが体が固いため思うように足が上がらない。なんとか木箱にある板の間に足をひっかけてその上に立ち上がった。自分の運動不足を嘆きながらも、アーリンの身体能力の高さを垣間見た気がした。

「……ヨクス、手を貸すよ」

 俺でさえ一苦労はした障害であり、ヨクスの身体能力は未知だがあの格好では礼儀正しい彼女は上ることも出来ないはずだ。

「あ、ありがとうございます。では……」

 移動の時に既に手はつないでいたが、改めて顔を向かい合わせて手を握ると、ヨクスは伏し目がちになり、どこか恥ずかしい。

「一旦そこらの隙間に足をかけて……そうそう。よし、せーのっ……」

 上から指示をして手助けをしながらゆっくりと確実に木箱を乗り越えていった。

「階段も俺が先行する」

 二人を数歩下がらせて恐る恐る一段目を踏んでみる。薄い緑の苔で気を抜けば足を滑らせそうだが、腐ってはおらず中身の詰まった感触がした。十数段ではあったが最初の数段を過ぎて、ある程度の状態を把握するとてきぱき進めることにした。

 階段の半ばから確認できた光で察していたが、上った先は今一度海の見える崖にたどり着いた。道中は緩やかな下り坂であったようで海とより近くなり、潮の匂いと波の音が新たに感じられる。きらきらと波打つ海面もより多く視界に入ってきて、見下ろした大地や遠くに見えた水平線とうって変わって見てくれと言わんばかりに目に飛び込んでくる。

「クラッキー。好きだぞ」

 海を眺めていた脇からそっとアーリンが腕を組んでくる。

 本当なら返事を期待していたのだろうが、一切こちらを見る素振りも見せず、同じ方向を向いたままだ。

 アーリンはまだ関係が進展していないと自覚していた。これはただの独り言で、別に返事はいらない、とその横顔が示している。だとしたら、俺にもまだ「やめてくれ」と言う権利も無い。その場しのぎの半端な優しさは相手を傷つけるだけ。心を鬼にしてじっと押し黙った。

「さて、たっぷりと話せたし、次はヨクスに譲るよ。おーい」

 別れ際に肩をポンと叩いて、ヨクスを呼び寄せた後てくてくと俺のもとを離れていった。

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