第70話 変わらぬ朝
犯罪性もあるとみて美衣子の遺体は司法解剖されたらしい。その結果、彼女のお腹から赤子が発見されたそうだ。その子供が誰との間にできた子供なのかは分からず、瑠夏たちのところにも警官が話を聞きにきたが、瑠夏たちはその事実にショックを受け、大体相手の見当はついたが、何も答えられなかった。
美衣子が自殺した原因。瑠夏たち3人の中でだけ、その理由が明らかになった。
***
美衣子の葬儀には沢山の人が出席した。瑠夏たちやクラスメイトだけではなく、近所のお年寄りや小学生、それから名前も知らない後輩や先輩。美衣子がどれだけ沢山の人に愛されていたのかわかる人数の多さと、流された涙の量。
棺桶の中の美衣子を抱く彼女の母が体を2つに折って泣いているのを、瑠夏たちはただ泣きながら見詰めることしか出来なかった。
クラスメイトの中でただ1人、葉山涙だけが出席しなかった葬儀。白い煙が空へ向かい、呆気無く、美衣子は消えた。
***
美衣子の葬儀から暫く経ち、ようやくクラスメイトの顔に笑顔が戻ってきた。
「おはよー」
美衣子の席には小さな菊の花が飾られている。瑠夏は毎日その菊の花を見る度に胸が締め付けられる思いだった。どうしても美衣子をいじめていた時に菊の花を下駄箱に詰めた事が蘇って来て、苦しい。
「瑠夏、京子、奈々、おはよ!」
しおれた表情の京子と奈々が勢い良く顔を上げたのを見て、瑠夏も声の聞こえた方に目線を動かす。そこには、満面の笑みを浮かべた涙が立っていた。
「涙……」
「お、おはよう」
瑠夏と京子は何とか笑みを浮かべて返事を返したが、ただ1人奈々だけは、ふてくされた顔でそっぽを向いた。涙は奈々の態度で特に気を悪くしたような様子も無く、当たり前のように瑠夏の机に飛び乗ってそのまま3人の輪の中に入り込んでしまった。奈々と涙を交互に見ながら、瑠夏はぎこちない笑みを浮かべ、涙に話し掛ける。
「なんか涙、久しぶり……だね。なんでしばらく休んでたの?」
「え、だってどうせ美衣子が死んだから全校で黙祷とか、クラス全員で美衣子についての思い出話とかしたんでしょ? 雪山の時にそういうのやって、もう疲れたんだー。だから、そういうめんどくさいのが全部終わってから来ようかな、って思って」
「……そうなんだ。もしかして……めんどくさいから、お葬式にも来なかったの?」
「うん! 死んだんならもう美衣子の顔なんて見たくもないし〜」
涙は肩に乗っている髪の毛を片手で払い除けながら、笑みを浮かべた。
「やっぱり、こういう戦いはあたしが勝つようになってるのよね。大分長かったけど、ようやく決着がついたわ」
奈々はそれを聞いて、乱暴に椅子から立ち上がった。唇を噛み締めて、涙を睨みつける。
「……何よ」
涙がそう尋ねると、瞳に涙を浮かべた奈々は、何も言わずに廊下へ出て行ってしまった。
「ふん、変なやつ。あたしああいうタイプきらーい。根暗っていうのかな? 元々気に入らなかったのよね、あいつ」
「……」
瑠夏と京子は何も言わずに、顔を見合わせた。涙は2人を振り返って、屈託のない笑みを浮かべた。
「まあ、これ以上変なことしないならいいけど〜。でもまた調子乗ってきたら、今度は3人であいつを懲らしめてやろーね!」




