第69話 決意
「では、第一発見者は貴方達ですね?」
「……はい」
瑠夏は、通報を受けて駆けつけた刑事の質問に淡々と答えていた。京子は唇を紫に染めて震えている。奈々はあの後、突然地面に倒れ込んだまま気を失った。
京子の叫び声を耳にした野次馬が集まり、崖の上にはあっという間に人だかりが出来た。
誰が連絡したのかは知らないが海上保安官も駆けつけ、瑠夏たちにタオルを渡した後、美衣子を冷たい海の中から引き上げた。そこで瑠夏と京子が目にしたものは、水分を含んで膨れ上がった美衣子の姿だった。あまりに衝撃的過ぎる光景に、思わず目を背ける瑠夏。京子は叫びながら瑠夏の腕にしがみ付いた。
優しい笑みを浮かべていたその顔は青白く変わり、髪の毛は海水で固まって頬に張り付いている。本当にこれがあの美衣子なのかと疑いたくなるような、凄まじい遺体だった。
「ええと、今回の件を事故ではなく春風美衣子さんの自殺だと考えるとしたら、何か心当たり等はありませんか? 例えば学校で酷いイジメを受けていたとか」
「……」
「あの、聞いてます?」
「……」
瑠夏は魂の抜けたような瞳で刑事を一瞥し、やがて、こう答えた。
「いえ……、何も、知りません」
「そうですか。ご協力有難う御座いました、この後少々署の方でお話伺いたいのですが、宜しいですか?」
「はい……」
「では、すぐに親御さんに連絡を―――」
警官が美衣子の体にシートを被せ、担架に乗せて運んで行く。瑠夏はぼんやりとその様子を目で追いながら、必死に下唇を強く噛む。
本当は、美衣子の精神が不安定だったことを知っている。彼女はいじめられていた。自分達も彼女を酷く追い詰めた。クラスメイトからいじめられ、親友達からいじめられ、恋人を殺され、ストーカーに悩まされ、殺人を犯した。
どうして今回、前向きに生きると決めた美衣子が自殺してしまったのか、その原因は自分達にもわからない。その事実が酷く虚しくて、辛かった。だけどもしその理由を話されていたとしても、きっと美衣子を護る事は不可能だったのではないか、そう思ってしまう。
今回の事件の全てを包み隠さず話せば、ひょっとしたら涙は捕まるかも知れない。だが、今全てを明るみに出すわけにはいかなかった。何故なら例え涙が少年院に送られたとしても、極刑が執行される事は決して無いから。
女子中学生がいじめを苦にして自殺をする、なんて所詮子供の問題。真剣に考える振りをしても、大人は心の奥でそう考えるだろう。そんな大人たちに、涙の裁きを任せるわけにはいかない。
「……るぅ」
瑠夏はぽつりと呟いた。突然出てきたその単語に、刑事は戸惑いの色を浮かべている。そんな事は気にも留めず、瑠夏は強く両手を握り締めた。
(気づかせてやる。自分の犯した罪がどんなに重いかって事を)
顔を上げた瑠夏の瞳の奥には、怒りの炎が煮えたぎっていた。




