ーPlaying Magicー
フィールちゃんが倒れてから、五日目の朝。
三日三晩、寝込んでしまっていたフィールちゃんも、ようやくベッドから起き上がれるまでに回復した。
それでも、まだ安心はできない。
「フィールちゃん、もう起きて大丈夫なの?」
「うん。大丈夫だよ、ラミアお姉さま」
「身体が重く感じたりしてない?」
「うん。それも大丈夫だよ」
「急に眠くなったりしない?」
「うん。それも大丈夫」
「ご飯食べられないとかない?」
「うん。むしろお腹ぺこぺこだよ」
「本当に?」
「本当だってば。ラミアお姉さま、心配しすぎだよ」
と言われても……。
愛しの妹が三日三晩も寝込んでしまってたんだ。
それも、私のせいかもしれないのだから――。
「フィールお姉ちゃん、おでこかして」
「ちょ……ちょっと、ゼフィ?」
フィールの隣で話を聞いていたゼフィちゃんが、その小さな手を、フィールちゃんの額へぺたりと押し当てる。
きっと、ゼフィちゃんも心配なのだろう。
「うーん……」
今度は、もう片方の手を自分の額に乗せた。
「どう? ゼフィちゃん」
「うーん……。あっ! 前みたいに熱くない!」
「そうなの?」
「うん! この前は、やけどしそうなくらい熱かったけど、今日はそんなことないもん!」
「だから言ったでしょ? ゼフィもラミアお姉さまも心配しすぎだよ」
フィールちゃんは困ったように言いながらも、どこか嬉しそうに笑っていた。
「でも、少しでも苦しくなったら、すぐに言ってね」
「うん。わかった」
「ねえねえ。ラミアお姉ちゃん!」
「ん? なぁに、ゼフィちゃん?」
「今日は、一日ずっと一緒にいられるの?」
「うん! もちろんよ」
「やったぁ! フィールお姉ちゃん聞いた? 今日一日ずっと、ラミアお姉ちゃんと一緒なんだよ!」
「うん。よかったね、ゼフィ」
「フィールお姉ちゃんも一緒だよ!」
「うん。もちろん」
二人が揃って、私へ笑顔を向けてくれている。
それだけでも、胸の奥がふわりと温かくなる。
この二人の笑顔を見ることこそが、私にとって最大の幸せだ。
この至福の時を毎日、嚙み締めることができないなんて……。
フィアンマお兄様。
できれば、学園を燃やしていただきたい。
「ねえ! ラミアお姉ちゃん!」
「ん?」
「あれ見せて! あれ! 鏡から手が出てくるやつ!」
「……もしかして、鏡渡りのこと?」
「うん! あれ、すっごくきれいだったもん! フィールお姉ちゃんにも見せてあげてよ!」
鏡渡り――。
正直、今一番その魔法を使いたくない。
もし、もう一度鏡渡りを使って、この子を苦しませてしまったら……。
私は――。
「ゼフィ、今日はやめておこ?」
「えっ? どうして?」
「ラミアお姉さま、困ってるじゃん。 たぶん、今日は使えないんだと思うよ」
「……え? 今日、ダメなの?」
さっきまで、笑顔満開に咲いていた顔が、見る見るしぼんでいく。
私は、その顔にとことん弱い。
「ごめんね。代わりに今日は、もっといろんな魔法を見せてあげるね」
「いろんな魔法?」
「それって、鏡の魔法よりもきれい?」
「うん! もちろん!」
「やったぁ! フィールお姉ちゃん! きれいな魔法だって!」
「うん、楽しみだね。ゼフィ」
「じゃあ、爺のお庭に行きましょうね」
◇
アーサン・ガーデンへ出ると、柔らかな朝の光が庭一面に降り注いでいた。
そして、爺が朝の水やりをしているおかげか、小さな虹がそこかしこへと見える。
「うわぁ……虹がいっぱい。これ、ラミアお姉ちゃんの魔法?」
「ううん。これは、爺の魔法かな」
「そうなの? すごい! じいやって、こんな魔法使えたんだ!」
「恐れ入ります。ゼフィお嬢様」
失敗した……。
まさか、爺の方に興味が行くなんて……。
爺の魔法だなんて言うんじゃなかった。
「もぉ。虹は魔法使わなくても、見られるのに……ゼフィったら」
「そうなの?」
「まあまあ。それよりもゼフィお嬢様。ラミアお嬢様の魔法は、これ以上にすごいのでございますぞ」
「そうなの?! 見たいみたい! ラミアお姉ちゃん! 早く早く!」
ナイス! 爺!
「おけ。二人とも、よく見ていてね」
私はハープを胸元へ抱き、弦を爪弾いた。
♬ポロロン――。
澄んだ音色とともに、白い光が現れて、虹を駆け抜けていき、虹の道を作り出した。
「うわぁ! すごい! ねぇ! フィールお姉ちゃん」
「うん……すっごい……」
二人が手を伸ばすと、光の粒が二人の指先で弾けた。
でも二人とも。
これだけではないのよ――。
「爺。お願いね」
「かしこまりました。ラミアお嬢様」
爺も自身のオカリナを取り出して、口元へ運ぶ。
穏やかな音色が庭へ広がると、足元の土がもこもこと盛り上がった。
土の塊は、四本の脚を生やし、小さな馬の姿へと変わる。
「ラミアお嬢様」
「うん。わかってる!」
♪ポロン――。
すると光は無数の羽根へと分かれ、馬の背から左右へ広がった。
本物の翼ではない。
それでも、白い光をまとって虹の上を駆ける姿は――。
ブルルッ――。
ヒヒ―ン!
「ペガサスだ! フィールお姉ちゃん! ペガサスだよ!」
「すっごい……。虹を駆け抜けてる。まるで、絵本を見てるようだ」
ふふっ。
ゼフィちゃんは目を輝かせ、フィールちゃんも楽しそうにしている。
最高の時間だ――。
「ねえ! ラミアお姉ちゃん!」
「うん?」
「私もやってみたい! 魔法!」




