ーFever Bloomー
「フィールお姉ちゃん……」
フィールお姉ちゃんの手が、熱い。
「ゼフィ……」
「はっ……フィールお姉ちゃん?」
「大丈夫だから……。すぐに……げんきになれるから」
私の手を握り返してきたフィールお姉ちゃん。
だけど、手の力は全く感じられない……。
こんなに、弱々しいフィールお姉ちゃんを見るのは生まれて初めてだ。
「ラミアお姉ちゃん……」
「——ゼフィちゃん?」
「フィールお姉ちゃん、元気になる?」
「……うん。まかせて。ちょっと診てみるね」
「ラミアお姉さん、ごめんなさい」
「大丈夫。大丈夫よ。フィールちゃん」
優しく、フィールお姉ちゃんの頭を撫でていた手をそっとどけると、ハープを手に取った。
「また、魔法? ラミアお姉ちゃん」
「ええ、そうよ。フィールちゃんの中を、少しだけ診ることができるの」
「すごい! まるで、お医者さんみたい……!」
「ふふふっ。じゃあ、始めるね」
ぽろん――。
綺麗で澄み切った音色から、眩くて白い光が出てきた。
「うわぁ……きれぃ」
「うふふっ」
――ぽろろーん。
ラミアお姉ちゃんが、次の音色を鳴らすとその光は、フィールお姉ちゃんのほうへ流れていき、すっぽりと身体を包み込んだ。
「すごい……」
思わず光に近づこうとした、その時。
フィールお姉ちゃんを包んでいた光の端っこが、ふわりと私の方へ伸びてきた。
そして……。
「キャッ」
ピンっと、光の一部がラミアお姉ちゃんの頬をかすった。
「ラ、ラミアお姉ちゃん?」
「いったた……」
「ラミアお姉ちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫よ。少し、光が乱れちゃった」
「ゼフィお嬢様。少々、こちらへ」
「じいや?」
後ろからじいやが私の肩に手を置いた。
「ゼフィお嬢様。このじいやと少し離れて見守りましょう」
「ええ、やだよ。私、フィールお姉ちゃんのそばにいたい!」
「ゼ、ゼフィちゃん……」
「ゼフィお嬢様。ラミアお嬢様が診ている少しだけの辛抱でございます。どうか、お願いします」
「……もしかして、私のせい?」
「ううん。違うの。だけど、ちょっとだけ、離れててね」
「……うん。わかった」
「ありがとう……。ゼフィちゃん」
ぽろん――。
ラミアお姉ちゃんは、もう一度、ハープの音色を響かせた。
今度は、さっきよりも静かな音だ。
そして、その音から生まれる光。
今度は、さっきの光と違って、無数の細い糸みたいになって、フィールお姉ちゃんの身体をそっと触れ始めた。
「————————」
ラミアお姉ちゃんは、静かにハープを鳴らし続けた。
「……うーん」
「ラミアお姉ちゃん?」
返事がない。
ラミアお姉ちゃんの顔がいつにもなく、真剣でどこか怖い。
そして、何よりも……。
かっこいい……。
「ゼフィお嬢様。あれが、ラミアお嬢様のもう一つのお顔でございます」
「うん……なんか、すごい。すごいね! 魔法って」
私もいつか、いつかはあんなふうにかっこよく魔法を使えたらなぁ。
「そんな……でも、どうして?」
「どうかなさいましたか? ラミアお嬢様」
「あ、いやその……」
「なにかわかったの? ラミアお姉ちゃん」
「うん。あのね……フィールちゃんの魔力が、ほとんど残っていないの」
「まりょく……? まりょくってなぁに?」
「魔法を使うための力のことでございます」
「魔法を使うための力……それが無いと、どうなっちゃうの?」
それを聞くと、じいやもラミアお姉ちゃんも口を閉ざしてしまった。
もしかして……?!
「もしかして……死んじゃうの?」
「ううん。そこまでではないの。でも、今のフィールちゃんみたいに熱が出たり、立っていられなくなっちゃうのよ」
「そ、そうなんだ」
私は、ベッドの上のフィールお姉ちゃんに目を向けた。
苦しそうに息をしているお姉ちゃん……。
「フィールお姉ちゃん、元気になる?」
「しばらくは、安静にして熱をさげることが大事になってくるわね」
「安静……?」
「静かに寝て、身体を休ませることよ」
静かに……。
それだけでいいのかな。
あ、そういえば――。
私が、熱を出したとき、フィールお姉ちゃんが冷たい布を額に乗せてくれたっけ。
もしかして……。
「ねえ、ラミアお姉ちゃん。冷たい布ってどうやったら作れるの?」
「冷たい布?」
「うん! フィールお姉ちゃんのおでこに乗せたいの」
「なるほどね……じゃあ、まずはこの布を桶の水に入れてみて」
「うん!」
「あ、お嬢様! そういうことでしたら、この爺が」
「大丈夫よ、爺。今は、ゼフィちゃんにお願いしましょ?」
「で、ですが……」
「いいの」
桶の中の水。
とっても冷たい。
だけど、これだけの冷たさならきっと……。
「うぅーん……!」
「がんばって! ゼフィちゃん。もぅ少し水を絞ってね」
「うぅぅんっ。わ、わかったぁ」
両手でぎゅっと絞る。
——ぽたぽた、ぽたぽた。
水が桶の中に落ちて、小さな音を立てた。
「こ、これでいい?」
「うん! とっても上手よ!」
「やった!」
フィールお姉ちゃんのおでこに絞った布を乗せる。
「ん……」
「フィールお姉ちゃん?」
フィールお姉ちゃんが少しだけ眉を動かした。
「ゼフィ………ありがとう。すっごく……きもちいいよ」
「フィールお姉ちゃん……」
「よかったね。ゼフィちゃん」
私、フィールお姉ちゃんのためになれたんだ……。
なんだか、よくわからないけど、すっごく嬉しい!
でも、どうして……。
どうして、フィールお姉ちゃんの魔力が、ほとんど残ってないのだろう。
ううん……考えてもわからない。
今はとにかく……。
とにかく、フィールお姉ちゃんのそばに居たい。
それだけだ。




