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29/29

ーZephyrー

 ―—ラミアお姉ちゃんとの夕食も終わらせて。


 そして、お風呂も結局、フィールお姉ちゃんとラミアお姉ちゃん三人で入った。




 すっごく気持ちよくて、楽しい夜だった。


 


 ……だけど。




「なんか、眠れない……」




 ベッドの上で、何度も何度も寝返りを打った。


 


 枕の位置が悪いのか。


 それとも、お布団の中が暑苦しいのか。


 


 まったく、気持ちよく眠れない。




『ウチには、ゼフィしかいないんっちゃ……』




 ——フィウメ。


 フィウメ、泣いてた。


 


 もし、私がフィウメを選ばなかったら――。


 フィウメは、私の大切な友達だ。


 この街で、この学校で初めてできた友達——。


 そんなの選ばない理由が見つからない。




 だけど――。




『もし、それがフィールちゃんと離れることになっても?』




 ラミアお姉ちゃんのあの言葉。


 


 やっぱり、私にはよく分からない。


 


 どうして、フィウメを選んだら、フィールお姉ちゃんと離れないといけないんだろう。


 


 それに――。


 正直、フィオーネ君たちに必要とされたことだって、すっごく嬉しかった。


 だけど――。




「……ゼフィ」


「ひゃいっ?!」




 突然、上のベッドから声がした。




「まだ、起きてたの? ゼフィ」


「……う、うん。でも、フィールお姉ちゃんだって」




 ——ギシッ。


 フィールお姉ちゃんが、上のベッドから降りてきた。




「……ゼフィ」


「な、なに? お姉ちゃん」


「……ゼフィの、ベッド入ってもいい?」


「え?」


「少しだけ……少しだけでいいの。ダメ?」


「ううん、ダメじゃない。ダメじゃないよ」


「あ、ありがとう」




 そう言って、フィールお姉ちゃんが私のベッドに入って来た。


 フィールお姉ちゃんと二人で寝るなんて――。


 


 いつぶりだろう。




 この暖かさに、匂い。


 フィールお姉ちゃんのだ。


 なんだか――。




 どことなく、安心する。


 


 さっきまであんなに眠れなかったのに。


 フィールお姉ちゃんが隣に来てくれただけで、少しだけ体の力が抜けた気がする。




「……ゼフィ」


「なぁに? フィールお姉ちゃん」


「……今日の授業。楽しかった?」


「うん。すっごく楽しかったよ」


「……そっか」


「また行きたいね、あそこ」


「ふふっ、あそこ。あの絵本の絵にそっくりだもんね」


「あの絵本? 何の絵本?」


「ほらあったでしょ? 私たちが五歳の頃、ゼフィが屋敷の図書室の棚の上で読んでた絵本よ」


「あー! 思い出した! あの、すっごく高い場所! それで、フィールお姉ちゃんに助けてもらったんだっけ」


「……ゼフィ、あの時はいろんなところに隠れてたもんね」


「だって、フィールお姉ちゃん。すぐ見つけるんだもん」


「当たり前でしょ。ゼフィの隠れそうなところくらい、お見通しよ」


「えぇ。それ、あの時も同じようなこと言ってたよね? なんで? なんで?」


「……ゼフィのお姉ちゃんだからよ。お姉ちゃんだから、ずっとゼフィを見てたの」


「……そうなんだ。あーぁ……。一度くらい、フィールお姉ちゃんに勝ってみたいよぉ!」


「ふふふっ」




 あ!


 フィールお姉ちゃんが笑った!


 


 やっと、やっと見れた……。




「ねえ、ゼフィ」


「なぁに? フィールお姉ちゃん」




 さっきまで笑っていたフィールお姉ちゃんの顔が、少しだけ曇ってしまった。




「……フィウメちゃんのこと、好き?」


「え? うん。好き、大好きだよ」


「そっか……」




 しばらく、フィールお姉ちゃんは黙ったままになってしまった。




「フィールお姉ちゃん?」


「……ゼフィ、あのね。私ね、すっごく嬉しいの」


「嬉しい?」


「えぇ、嬉しいよ。だって、あなたに。私の妹に、初めての友達ができたんですもの。嬉しくないはずないわ」


「フィールお姉ちゃん……」




 そういえば、さっき。


 ラミアお姉ちゃんにも言われた気がする。


 嬉しいなぁ。


 


 こんな風に思ってくれているお姉ちゃんが二人もいるなんて――。


 


 だけど――。




「ねえ、フィールお姉ちゃん」


「うん?」


「私、フィウメは好き。それは本当だよ? でも、でもね。私、よくわかんなくて」


「分からない?」


「今日ね、ラミアお姉ちゃんに聞かれたの」


「ラミアお姉さまから? 何を?」


「ラミアお姉ちゃんはね、フィウメを選んだら、フィールお姉ちゃんと離れないといけないって言ってたの」


「……」


「でも分からないんだ。私、フィウメも好き。だけど――。なんで、フィウメを選んだら、フィールお姉ちゃんと離れなきゃいけないの?」


「……そんな必要ない」


「え?」


「そんな必要ないよ、ゼフィ。たとえゼフィがフィウメちゃんを好きでも、友達になっても……フィウメちゃんをえらんでも、私と離れる必要なんてない」


「じゃあ、なんでそんなに悲しそうなの?」


「え?」


 


 なんで、そう思ったのかは分からない。


 だけど、なぜか。


 なぜか、フィールお姉ちゃんが泣いているように見えた。




「悲しくなんて……いや、違う」


「違う?」


「……なんか、今日。初めてゼフィに見抜かれた気がするなあ」


「どういうこと?」


「実はね……。私……、怖かったの」


「どういうこと? フィールお姉ちゃんの言ってることさっぱりわかんないよ」


「ゼフィに友達ができて。私がいなくても魔法を使えて。そして、みんながゼフィを欲しがって……。それで、私。思っちゃったの」


「思っちゃった?」




「いつかゼフィが……。ゼフィが、私なんていらないって思うんじゃないかって。そう思ったの」


「そ、そんなこと! そんなこと、思うわけないよ!」


「うん。だけどね……。今は、それでもいいって思ってるの」


「そ、そんな――」


「ゼフィが私を必要としなくてもいい。私の我儘わがままで、ゼフィを縛りたくない。だけど――」


「お、お姉ちゃん――」


「私が、ゼフィと一緒にいたい。私が、ゼフィを選びたいの」


「……それってどういう――」




 ちゅっ。




 え?




 フィールお姉ちゃんの唇が、私の唇に触れている。




 こ……これってもしかして――。




「フィ、フィールおねぇちゃん??」


「……ごめんなさい。嫌だった?」


「い、いいいいやって……。え、え? 今の、もしかして、き、ききき」


「……そう。キスよ」


「そ、そんな……。私にお姉ちゃんがき、キッスだなんて!」


「……嫌だった?」




 そ、そんなの――。


 嫌じゃない!


 違う。


 良かった!


 でもない。




 どうしよう――。


 言葉が思いつかない!




 フィオーネ君たちに、私が欲しいって言われて、嬉しかった。


 フィウメに抱きしめられて、『ゼフィしかいない』って言われたとき、すっごく嬉しかった。




 だけど――。


 今のこの感情は、全然違う。




 フィールお姉ちゃんに必要とされてほしいんじゃない。


 


 私が――。


 


 私が、フィールお姉ちゃんと一緒に居たいんだ。




「フィールお姉ちゃん」


「……ゼ、ゼフィ?」


「私、今日はこうやって寝たい。いい?」


「……うん。いいよ」




 私はこうして――。


 こうして、フィールお姉ちゃんと抱き合いながら、瞼まぶたを閉じた。




 ずっと私は、誰かに選ばれたかった――。


 だけど――。


 


 今、何となくわかった気がする。


 


 私も、人を選びたい。


 


 だって、私は――。




 フィールお姉ちゃんと――。




 二人で一人の魔法使いなのだから。

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