ーMix Magicー
『皆さん、連絡事項です』
あれ?
サチェル先生からの声だ。
「どうしましたか、サチェル先生」
『申し訳ございません。一つ、変更があります。本来、この迷宮はそこで終わりではありませんが、まずはそのミスリル・サーペントを持ち帰ってほしいのです』
「はぁぁぁ??? この、ミスリル・サーペントをかぁ?! そんなん、重すぎて無理だろ!」
たしかに――。
フィオーネ君の言う通りだ。
こんなに重たそうな蛇さんをこの六人で持ち運ぶなんて……
それに、正直——。
ただでさえ、蛇さんは苦手なのに、それを持ち運ぶなんて……。
ごめんなさい、蛇さん。
私には、できない!
『それには、問題ありません。フィオーネ君、お願いします』
「え? おれ? あ、まさか――」
『えぇ、そのまさかです。よろしくお願いします』
「だけど、サチェル先生。あれは、まだ未完成なんだぞ?!」
『魔法は、トライ&エラーが鉄則です。やってみてごらんなさい』
「わ、わかったよ……」
サチェル先生、フィオーネ君に何をお願いしてるんだろう。
だけど――。
なんか、不思議だなあ。
フィオーネ君も、あんな自信の無さそうな顔をするんだ。
「じゃ、じゃあやってみるぜ。炎舞『フィアンマ・シールド』!」
フィオーネ君がトランペットを吹き始めた。
すると――。
「あ! へ、蛇さんの周りに、大きな鉄格子が!」
プォーーーーーン!♪
フィオーネ君が作り出した鉄格子が、完全に蛇さんを囲み切った。
「——あれ? この魔法なんか、見たことあるような」
「おそらく、ゼフィちゃんがご覧になったのは、フィアンマ様の魔法だと思いますよ?」
「フィアンマお兄ちゃんの?」
「まあ、見ててください。ここからですよ」
「これから? ——あ!」
鉄格子は火へと変化し、蛇さんを完全に燃やし尽くした。
この魔法——。
フィアンマお兄ちゃんじゃない。
「フィールお姉ちゃん、あれ。お父様の魔法と同じだ」
「そうなの? あ、もしかして、ギターの時?」
「うん! それ!」
「私は、見たことなかったけど――」
「はぁ、はぁ、はぁ」
蛇さんは完全に燃やし尽くされた。
だけど――。
あの時と同じ。
燃えていたはずなのに、焦げた跡も匂いもない。
そして最後には――。
コトン。
小さな石。
赤くて、黒い結晶のような小さな石だけが残っていた。
やっぱり、お父様が使っていた魔法と同じだ。
だけど――
なんだか、フィオーネ君。
すっごく疲れてる?
「どうやら、成功したようですね」
「あ、あぁ。なんとかな」
『では、皆さん。滝の奥に鏡がありますので、そちらまで移動をお願いします』
「はーい!」
それから、私たちは滝の奥にある鏡を使って、教室へと戻って来た。
「戻ってきましたね。皆様、お疲れさまでした」
「いや、サチェル先生さ。さすがに俺らのラスボスが、ミスリル・サーペントってさぁ……」
「そうですよ。さすがに、難しすぎませんかね」
「それは、申し訳ございません。代わりというわけではありませんが、皆様にはまず、成績Aランクに加えて、ミスリルの鱗を贈呈いたしますので」
「Aランク?」
「あぁ。ゼフィ君はご存じありませんか? この学校では、各授業の成績をランク別で付けられます。Ⅾランク以上が合格になります」
「そうなんだ。じゃあ、私たち合格ってこと?」
「えぇ。その通りです」
「それだけじゃありませんよ、ゼフィちゃん」
「そうなの?」
「はい。Ⅾは当たり前ですが、Cランク以上の成績は特典があります。そして、Aランクの成績を取ることができれば、魔法ギルドで、受けられるクエストのレベルを上げることもできるのです」
「まあ、一度でもEランクを取れば、その資格もはく奪されるのじゃがな。じゃが、クエストの質も上がれば、その分良い小遣い稼ぎもできるというものじゃからな」
「へぇー。フィウメもクエストを受けたりするの?」
「え、ええ。たまにやけどね」
「そうなんだ! じゃあ、今度一緒にやろう!」
「そ、そうやね」
「ゼフィ、そんなことよりも今は、サチェル先生の言葉を聞かなきゃいけないでしょ?」
「あ、そうだった」
「ほっほっほ。フィールさん、お気遣い感謝いたします。では、フィオーネ君、石をこちらへお渡しください」
「ほらよ」
「ありがとうございます。では、少し調べてみましょう。っと、その前に、ゼフィさん」
「わ、わたし?」
「はい。一つお願いなのですが、あなたの魔法を私にも見せてもらえませんか?」
「魔法? いいの?」
「はい」
「じゃ、じゃあやってみるね」
いつものように、私は歌い始めた。
すると――。
「——おいおい、なんだよ、これ!」
「風——。先ほどもそうでした。何も無いところからビューっと風が吹いて――」
「なんなんじゃ、いったいこの魔法は」
「……これは、すごい! もう大丈夫ですよ、ゼフィさん」
「ゼフィ、もういいって!」
「え? う、うん」
私が歌をやめると、風が無くなった。
「これは――。今までの、火・水・地・雷・聖・闇。どの魔法属性にもありません」
「ってことは、やはりこれは――、風魔法ということなのでしょうか? サチェル先生」
「そういうことになってしまいますね」
「風魔法か――。ワシはそんな属性聞いたことないがな」
「ってかよ、ゼフィ。おまえ、魔道具は使わねえのか?」
「うん。私は、いつも歌って、風を起こしてるよ」
「——歌。ですか……」
「ですが、サチェル先生」
「なんでしょうか、トゥオーノ君」
「確かに、ゼフィちゃんの歌や風のことも気になりますが、それ以上にこのミスリル・サーペントです」
「あ、そうですね。トゥオーノ君にスオーロ君」
「はい」
「なんじゃ」
「アナタたちは、あの後のミスリル・サーペントの状態を確認したのですよね? それを私にも詳細を教えていただけませんか?」
「もちろんです」
————。
なんだろう、この気持ち。
正直、サチェル先生やみんなが言っていることはよくわからない。
だけど――。
この、注目されている感じ。
初めての感覚だ。
「——なるほど、フィウメ君のフルートに乗せて、ゼフィ君が歌ったことで新たな魔法が生み出された。そういうことですね」
「えぇ。おそらくは」
「まあ、そう考えるのが自然じゃろうな」
「フィウメさん。一つでいいですか?」
「は、はい」
「あなたが、使った魔法は確かに『アクア・ピオッツァ』だったのですか」
「え、ええ。でも――、あの時」
「あの時?」
「あの時、まるでゼフィと一つになれちょった気がします。一体感というかなんというか――」
「一体感、ですか?」
「水と風の一体ですか――。トゥオーノ君」
「はい」
「たしか、ミスリル・サーペントの身体活動は完全に停止していたとおっしゃっていましたね」
「何が言いたいんだよ、サチェル先生よ」
「これは、あくまでも一つの仮説としてとらえてください。本来の、水魔法の性質は鈍化です。そこに、まだ不明ですが、風の力が加わることで、鈍化を超えた性質――。つまり、停止へとなったという可能性があるということです」
「はぁぁぁぁぁ?! て、停止だとォ??」
「——なるほど、停止ですか」
「おいおい、トゥオーノ。なるほどって、お前。停止って、そんなの信じんのかよ?! だって、あの蛇野郎。全部が停止したんだろ?? それが、できるって……そんなの」
「もちろん、水単体ではそれは無理でしょう。もちろん、風単体でもです」
「実際に、ゼフィの風魔法だけではミスリル・サーペントを停止させることはできておらんかったからのう」
「そう。つまり、風と水の魔法が合わさることでそれが叶った。ということなのでしょう」
「いやいや、それならトゥオーノ! お前だって、さっきフィウメの水を使って自分の雷魔法の力を倍増してたじゃねえかよ。あれと、何が違うって言うんだよ」
「それは、違うでしょうね」
「何が、違うんだよ! サチェル先生」
「おそらく、トゥオーノ君がやったのは、水本来の性質を使って、雷撃を通しやすくしたにすぎません」
「つまりは、水は水。雷は雷として、あくまでも別々で使っておったということじゃろうな」
「そういうことです。ですが、ゼフィ君とフィウメ君の魔法は違います。水と風。二つの魔法が組み合わさり、新たな力が生まれた。ということなのでしょう。もちろん、そんな現象は聞いたことありませんが」
ってことは、さっきの感じは間違いじゃなかったんだ。
あの時、たしかに、フィウメと一緒になった気がしていた。
初めてできた親友と――。
なんか、とっても嬉しいな。
「な、なあ。ゼフィ」
「うん? なに? フィオーネ君」
「その、フィウメとやったやつってさ、俺ともできねえのか?」
「え? フィオーネ君と?」
「そうだよ! 俺の火魔法とお前の風魔法でだよ!」




