ーSister's Independence(フィール視点)ー
ゼフィが歌い始めた。
フィウメのフルートに乗せて。
また、ゼフィが私の魔力を使うんだ。
そう思ったが――。
今、私の中から、いつもの魔力が抜けていく感覚が無い。
いや、たぶん抜けたんだ。
だけど――。
いつもの魔力の抜け方に比べると、感じ方が違う。
なんで??
もしかして、ただ、ゼフィが歌っているだけ?
それだけなの?
——ら~ららぁ♪
ビュー!!
あれ?
——風が大きくなっている。
これは、間違いなくフィウメの魔法じゃない。
じゃあ、どうやって?
どうやって、ゼフィは魔法を使っているの?
「ゼ、ゼフィ。あなた、何を――」
らーららららぁ~♬♪
ポォォォォォン――♬
ゼフィとフィウメ。
二人の音楽が一つになって、壮大なハーモニーを奏でている。
私自身も、別に音楽がわかるわけではないけど、これがすごい音色になっていることくらいは、わかる。
そして――。
「お、おい――。なんだよ、これ……?!」
「これは――、先程のフィウメちゃんのアクア・ピオッツァとは大きく違いますね。一体——」
「バカモン! 感心しとる場合か?! はよ、ここから逃げんと!」
目の前にできた大きな雲と、そこから生まれる風。
スオーロ君の言う通り。
ここに居てはまずいことくらいは分かる。
でも――。
どうして?
どうしてか、身体が全く動けない。
そして――。
ドォォォォォォォン!!
雲から大きな轟音を鳴らしながら、大量の雨が降り始めた。
それが、ミスリル・サーペントを襲った。
なのに――。
「——妙ですね」
「妙って、何がだよ! トゥオーノ! 明らかに魔法が暴走してるだけじゃねえか! 早く、ここから離れるぞ!」
「いいえ、暴走はありえません」
「なんでじゃ! なんで、それがわかるんじゃ!」
「もし暴走なら、これだけの魔法なら我々にも雲が覆われているはずです。ですが――」
「そ、そういえば――」
そうだ。
今の雲はミスリル・サーペントの上にしかない。
だけど、この違和感——。
「ねえ、トゥオーノ君」
「なんですか? フィールちゃん」
「あの、ミスリル・サーペント。全く叫んでなくない? それどころか――」
「叫んでない? ——?! あ! ミスリル・サーペントが!」
——ドンッ!
え?
ミスリル・サーペントが倒れた?
何も叫ばず、あの雨を受けて、倒れた?
「——ふぅ。フィールお姉ちゃん、蛇さんどうなった?」
「どうって――言われても」
「これって――どうなっちょるん。なんで、ミスリル・サーペントが倒れちょるの??」
ゼフィはともかく、フィウメも分かってない?
それじゃ、私に聞かれても分かるわけないじゃない。
ただでさえ、私の事や、ゼフィの事もわかってないのに――。
「と、とにかく。ミスリル・サーペントを見て見ましょう」
「お、おい! トゥオーノ、危ないぞ! なに、近づいてんだよ!」
「大丈夫です。僕の魔法なら、防御はできます」
「その防御。ワシにも、使えるんか?」
「スオーロ君——。もちろんです」
二人は、あの蛇に近づいた。
そして――。
二人は、ミスリル・サーペントの部位をあちこち調べ始めた。
「……ふむ」
「これは――。妙ですね」
「どう? トゥオーノ君、スオーロ君」
「まず、安心してほしいのですが――。ミスリル・サーペントが立ち上がることはもうありません。ですが――」
「どうしたの?」
「このミスリル・サーペント。確かに、呼吸も心臓も止まっています」
「ってことは、完全に死んでるってことじゃねえのかよ」
「えぇ、結果論はそうです。ですが――」
「水魔法にそんな、性質は無い。じゃのに、なぜこ奴の生命活動が止まったのか――じゃな」
「た、たしかに――。じゃあ、なんでこいつは死んだんだよ」
「おかしいのは、それだけじゃないぞい。見よ、このミスリルの鱗を――」
見ろって言われても――。
そんな、鱗の違いなんて分からないし。
「うわぁ……すっごい、綺麗な鱗!」
「ゼ、ゼフィ。 触っちゃダメでしょ?」
「だって、お姉ちゃん。こんなにも綺麗なんだよ?」
「そ、それは――そうだけど」
たしかに、この鱗は綺麗だ。
さっきまで、魔法を受けていたなんて信じられないほどに――。
「ゼフィ、お主は見る目があるようじゃな」
「どういうこと? スオーロ君」
「本来、ミスリルの鱗というものは、魔法を吸収すれば少し濁りが残るんじゃ」
「濁り?」
「そうじゃ。言ってみりゃ、魔力吸収による摩耗と言ったところじゃのう。じゃから、こんな綺麗な色で残っとるのはありえん」
「じゃ、じゃあ。どうしてミスリル・サーペントは死んだの?」
「それが分からんから、不思議なんじゃ」
正直、この二人が何を感じていて、今どうなっているのか、私にはあまり理解できていない。
だけど――。
間違いなく、これは――。
「フィウメ! フィウメ!」
「な、なんなん? ゼフィ」
「これ、きっと! 私たちの力だよ! フィウメ!」
「そ、それってどういう――」
「だから! 倒せたんだよ! 私とフィウメの魔法で!」
——そう。
その事実だ。
たしかに、あの時。
フィウメがフルートを吹き、ゼフィが歌った。
そして、あの大嵐が吹き荒れた。
その雨をモロに受けたミスリル・サーペントが倒れている。
だれがどう見ても、二人の魔法でこうなったんだってわかる。
「やったやった! 私たち、やったんだよ! フィウメ!」
「そ、そそうなのかな?」
「そうだよ! やったね! フィウメ!」
「う、うん。ありがとう、ゼフィ」
二人が笑いながら、手を握り合っている。
——初めてできた、ゼフィの友達。
その友達との魔法。
ゼフィにとっては、これ以上に無いくらい、嬉しい事なのだろう。
それに、今回の魔法で、私の魔力もあまり取られてない。
これがゼフィの――、妹の自立ってことなのかな。
それは、お姉ちゃんとしては嬉しい事に違いない。
だけど、なんでだろう――。
なんだか、胸の中にとげが刺さっているみたいな――。
すっごく――。
息苦しい……。




