ーBest Friendー
——ボトンッ!
太くて、鈍い藍色に光る鱗で覆われた蛇さんの尻尾が胴体から切り離された。
こんな、魔法——。
初めて。
「おい、おいおいおいおい! なんなんだよ! あの魔法! 見たことねえぞ!」
「ミスリルサーペントに魔法が通じた? いったいどういう……」
「——おい、ゼフィ」
「え? なに?」
「お主、本当に闇か? お主の属性は闇のはずじゃろうが。闇にこんな特性はない」
「たしかに、その通りですね。ゼフィ、あなたは一体——」
「私、最初から闇なんて言ってないよ? 私は、風! 風の魔法使いなの」
「……は?」
「……ゼフィちゃん。今、なんと?」
あれ?
私、なんか悪いこと言っちゃったかな?
だけど、私の魔法は基本風しか使えないし――。
「ふんっ。どうせ、出まかせ言ってんだろうぜ。闇の魔法使い共は、基本嘘つきが多いからな」
「う、ウソじゃないもん! 私、本当に風魔法使えるもん!」
「じゃあ、もう一度見せて見ろよ!」
「そ、それは――」
いいのかな。
もう一度、使っちゃって。
——ぎゅっ。
フィールお姉ちゃんの手。
なんだか、すっごく熱くなっている気がする。
もしかして、私の魔法のせいで、熱が出ちゃってるんじゃ――。
「ほォおら見ろ! やっぱり、さっきのははったりだったんだよ! お前は、風なんて使えねえんだよ!」
「ですが、フィオーネ。さっきの魔法をどう説明するというのですか?」
「知るかよ、そんなん」
「おい、待て――。お主ら、談笑しとる暇はないようじゃぞ?」
「なんだよ、スオーロ。って――」
グルルルルルッ――!
ビシャッ!!
「え?! 蛇の尻尾が生えてきた!」
「くっそ、あいつ、再生能力を持っていやがったか!」
「そんな、ミスリルサーペントにそんな能力があったなんて……」
「元々、滅多にお目にかかれん希少魔獣なんじゃ。データやらなんやらが不十分なんじゃろうて」
「なんで、そんな魔物が校内ダンジョンに居るんだよ!」
そんな……。
じゃあ、私たちこのままあの蛇さんに――??
「いえ、勝機はあるようです。見てください、あの尻尾」
「なんじゃというんじゃ。って、どうなっとるんじゃ? あ奴の尻尾。ミスリルの鱗が無いではないか!」
「おそらく、ミスリルの鱗までは再生しないようですね」
「だったら、話は早い! あの、尻尾にめがけて! 炎舞『フィアンマ・ヴォルティーチェ』!」
「私も参戦しますよ」
え?
トゥオーノ君の持っている魔道具って、もしかして――。
「ねえ、トゥオーノ君。それ、もしかしてギター? フィアンマお兄ちゃんも持ってた――」
「いいえ、これはベースと言いまして、あなたのお兄様がお持ちになっているものとは全く別物です」
「そうなの?」
「まあ、見ていてください。フィールちゃん、ゼフィちゃんを下がらせて」
「ええ、わかった。ゼフィ、こっちへ」
「よしっ、フィウメちゃん。私が魔法を放った後、すぐに水魔法を! 雷と水なら、効果が上がるはずです!」
「う、うん。わかった」
「では、いきますよ! 雷演『アタッコ・フールミネ』!」
火の渦が、蛇さんの尻尾を焼き切った後、間髪入れずに、トゥオーノ君の雷撃が襲った。
すごい!
二人とも、すごい連携だ!
ただ、まだフィオーネ君にはムカついてるけど……。
「今です! フィウメちゃん!」
来た!
フィウメの魔法だ!
「水演『アクア・ピオッツァ』!」
フィウメが生み出した水が、雷撃と共に蛇さんを襲い掛かる。
これなら――!
ギュェアアアアアア!!
「うわっ!」
「きゃっ――!」
「な、なんだ?!」
蛇さんが突然、叫び始めた。
火で焼かれてしまい、雷に打たれて黒く焦げ切った皮膚。
なんだか、お肉の焼けるような匂いまで漂ってきてる気がする――。
「な、なんかくさい……」
「や、やったのか?……」
「いえ、まだやられている状態ではありません。ですが、ミスリルの装甲がはがれ、ダメージを受けているのは確かのはずです」
「おう、なんだかわからんがゼフィの手柄じゃのう」
「ふん、まぐれだけどな!」
だけど――。
ガブッ!!
え?
なに?
蛇さんが、自分の尻尾を食べ始めてる!
「え? 何あれ、どうしたの?」
「な、なにをする気なのでしょうか」
——ブシャッ!!
そして、蛇さんは自分の尻尾をかみちぎった。
すると――。
グルルルルルッ――!
ビシャッ!!
「あ! また、再生した!」
「っぐぅ! しかも、あの鱗……」
「くっそォ、ミスリル鱗復活か!」
「なんで? どうして? さっきは、鱗ついてなかったじゃん! ねぇ、なんで?」
「おそらく、我々の魔法を受け、魔力をため込んだ尻尾を食いあさり、それを鱗の再生に使ったのでしょう」
「そ、そんな――」
そんなの、勝ち目無いじゃん。
「お、おい! ゼフィ! もう一回だ! もう一回やるチャンスじゃねえかよ! やれよ! お前のその風魔法! 次は胴体事斬れよ!」
「で、でも――」
もし、こんなところでフィールお姉ちゃんが倒れちゃったら……。
どうしよう。
怖い。
どうしたらいいの?
「——ゼフィ、もう一回魔法を使いなさい」
「でも、フィールお姉ちゃん……」
「いいから、私のことは――。私は、大丈夫。平気だから、魔法を使って。ね?」
そ、そんなこと言われても――。
私、さっきと同じ魔法使えるかも分からないのに。
えっと、えっと。
さっきの感覚、さっきの感覚ぅ――。
うーん、思い出せない。
たしか、頭に血が上るような感覚があったと思ったら、全身が熱くなっちゃって――。
「いいっちゃ、ゼフィ。そんな無理しなくて」
「——フィウメ?」
「ウチの水なら、少しくらいは動きを遅くできるけん」
「でも、それじゃ……」
「倒せんよ」
フィウメは、あっさりそう言った。
「でも、考える時間くらいは作れるっちゃろ?」
「フィウメ……」
「六人で迷宮を出るんやろ? だったら、みんなで考えればいいっちゃ」
そう言って、フィウメはもう一度フルートを構えた。
「ゼフィ、私が時間稼ぐからあの魔法を、もう一回お願いっちゃ!」
「う、うん。わかった」
フィウメが、フルートを吹き始めた。
ポォォォ――♪
澄んだ音色が、滝の音に重なっていく。
さっきとは違う。
これは、もしかして――。
私のため?
私の魔法のために、やってくれている?
……なんだろう。
さっきの感覚とはまるで違う。
さっきは、怒りで周りが何も見えなくなっていた。
だけど、今——。
今の私はそんなんじゃない。
もっと心地よくて、温かい――。
これは一体——。
どんな気持ちなんだろう。
分からない。
だけど、自分のしたいことは分かる。
ポォォォォォン――♬
私——。
この音色と一緒に、歌ってみたい。




