ーWind Magicー
——なんか、すっごく嫌な気分。
ゴブリンさんたちを倒すことはできた。
そして、私たちは目的地に向かって進むことができている。
だけど――。
「ゼフィ?」
「え? あ、なに? フィールお姉ちゃん」
「大丈夫?」
「なんで?」
「だって、ゼフィ。あなた、なんか怒ってない?」
「え……? う、うん。わかっちゃった?」
「わかるよ。お姉ちゃんだもん――。もしかして、さっきのフィオーネ君の事?」
「うん、だってじいややフィウメに対してあんなこと――」
「今は、耐えて。ゼフィ」
「どうしてよ!」
「ゼフィの気持ちはわかるけど。今は、迷宮脱出のために協力しなきゃ。それに、フィウメが気にしてない以上、私たちが何かするべきじゃないわ」
「そ、そうだけど……」
たしかに、フィウメは何も言ってない。
そればかりか、なんだか慣れている……?
そんな感じにも見える。
でも――。
「——ねえ、フィウメ」
「うん?」
「……」
「うん? なに。どうしたん、ゼフィ」
「……ごめん、なんでもない」
結局、何も言えなかった。
こういうとき、何て言えばいいのか全然分からない。
こんなにも言葉がでてこないなんて……。
「おーい! 何をしとるんじゃ、お主ら! はよ、行くぞい!」
「あ、ごめーん!」
前を歩いていたスオーロ君が、私たちを気にして、大きく手を振ってくれた。
「ほら、ゼフィ。早く行こ?」
「そうっちゃ。急がんと」
「う、うん」
「——うぅむ。どうやら近いようじゃな。魔口」
「ほんと?!」
「スオーロ君の魔法ですからね。期待していいと思いますよ」
「そうなんだ」
本当は、もっとここで探検したいけど――。
今はそんな気分にもなれない。
スオーロ君の後を追うように、木々の間を抜けていく。
すると、さっきまで隣を流れていた小川の音が、だんだんと大きくなってきた。
ザーッ。
ザァァァァァ――!!
「うわぁ……!」
木々が途切れた先。
そこには、巨大な滝があった。
「もしかして、あそこに出口があるの?」
「反応は、あの滝の裏側じゃな」
「やった! じゃあ、あそこを通れば……!」
そう思った、その時だった。
――ジャリッ。
滝の横に積み重なっていた銀色の岩が、動いた。
「……え?」
違う。
岩じゃない。
一枚一枚が、銀色に輝く――鱗。
「皆さん、下がってください!」
トゥオーノ君が叫ぶ。
次の瞬間。
銀色の巨大な蛇が、滝を背にして鎌首をもたげた。
「ま、まさか……こんなやつが」
「い、いや! フィールお姉ちゃん!」
「ゼ、ゼフィ!! 大丈夫? 立てる?」
「無理! いや!」
地を這いながらにょろにょろと動くその姿に、嫌悪感と恐怖で身体が動けない……。
どうしよう。
「くっ! 薙ぎ払ってやる! くらえ! 『フィアンマ・ヴォルティーチェ』!」
フィオーネ君が、トランペットを吹き、炎の渦を蛇さんに向けて放った。
だけど――。
ギュイーーーン!
「な、なに?! 吸い込んだ、だと??」
「あの鱗にスキル……。やはり、ミスリル・サーペントでしたか。っということは――!! スオーロ君! 土魔法で盾を!」
「言わずもがなじゃ! 『テッラ・スクード』!」
ゴゴゴゴゴ!
私たちの前に大きな地面の盾が出来上がった。
そして――。
グオオオォォォォ!!
「——えぇ!! 火?!」
蛇さんの大きく開いた口から、さっき吸い込まれたはずの炎が噴き出した。
でも、違う。
フィオーネ君が放った炎より――。
「で、でかい!!」
何倍も大きい。
さっきは私一人を包めるくらいだった炎の渦が、今度は私たち六人をまとめて飲み込めそうなほど大きく膨れ上がっている。
「全員、伏せるんじゃ!!」
ドゴォォォォォン!!
炎の渦が、スオーロ君の作り出した土の盾にぶつかった。
「うわぁっ!!」
「ゼフィ!」
ものすごい熱。
盾の向こうにいるはずなのに、顔が焼けてしまいそうなくらい熱い。
バキッ。
「……え?」
スオーロ君の盾に、一本のひびが入った。
「お、おう……嘘だろ。今の炎魔法ってまさか……?!」
「えぇ、間違いないでしょ。おそらく、フィオーネ君の魔法を種にして放たれたのでしょう」
「魔法を種に? ねぇ、トゥオーノ君。どういうことなの?? あの蛇さん、一体何なの?」
「あれは、ミスリル・サーペントです。あの鱗が受けた魔法を種として体内に吸収し、その力を増幅して撃ち返してくるのです」
「そ、そんな……」
「それじゃ、勝ち目無いじゃないの」
「いえ、そうとは限りません。ミスリル・サーペント自身に魔力はありません。なので、私たちが魔法を打たない限り、あのような強大な魔法で攻撃されることはありません」
「そ、そうなの? でも、それじゃ……」
「ですが、このままでもまずいですね。魔法攻撃は来なくても強力な物理攻撃で全滅の恐れもありますから」
魔法を撃っちゃいけないなんて――。
そんなの、どうやって勝てば……。
「っち、おい! 水! お前の水で足止めしろよ!」
「何を言うとるんじゃ! フィオーネ! あ奴に魔法はご法度なのじゃぞ?」
「……いえ、ありかもしれません。水であれば、たとえ返されても、そこまでのダメージもない。もし、成功すれば、足止めすることができる! フィウメさん、お願いできますか?」
「わ、わかった」
あぁ……。
腹立たしい。
フィウメの魔法が弱いから。
返されても大したことないから。
そんな、実験みたいな理由で、フィウメにやらせるなんて――。
もし、それでフィウメに何かあったら……。
「……ゼフィ? 大丈夫?」
「そ、それはこっちの台詞セリフだよ! フィウメは平気なの?」
「うん、大丈夫」
そう言うと、フィウメはフルートを吹き始めた。
「水演——『アクア・ピオッツァ』!」
フィウメが作り出した大量の水。
さっきよりも、もっと多い――。
そして、その水がミスリルサーペントを襲った。
しかし――。
銀色の鱗が、フィウメの水を一滴残さずに吸収してしまった。
「やっぱり、吸収しやがった! やべぇんじゃねぇのか?? 俺たち!」
「ど、どういうこと? フィオーネ君!」
ドバァァァァン!!
蛇の口からさっきの魔法よりはるかに多くの水が滝以上の勢いを持って私たちに帰って来た。
「っぐ! こりゃ持たんわ! グワァァ!」
やばい!
スオーロ君の盾が壊れてしまった――!
そして――。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
全員びしょびしょに濡れてしまった。
トゥオーノ君の言う通り、さっきの火の魔法に比べると決してケガや火傷をしたわけではない。
だけど――。
「な、なんか身体が動けないよ……」
「これは――誤算でした」
「トゥオーノ君、誤算ってどいうこと?」
「水属性魔法の性質は鈍化です。身体が動けなくなった原因は、この大量の水魔法によるものです」
「そ、そんな――」
「くっそ……動けねえ。まじで、水魔法は足手まといにしかならねえじゃねぇか!」
「ご、ごめんなさい……」
「なんで? フィウメ悪くないじゃん。皆の言う通りに、水魔法を使っただけじゃん!」
「……いいっちゃ、ゼフィ」
「でも! フィウメ」
「いいっちゃん。結局、私の魔法のせいなんだし、それに。フィオーネの言ってることは間違ってないっちゃん」
もう我慢できない。
水が使えないとか。
他の魔法使いより、劣っているとか。
そんなの関係ない。
フィウメは私にとって初めての友達なんだ。
だから――。
「——ねえ、フィールお姉ちゃん。魔法、使ってもいい?」
「え? ゼ、ゼフィ? う、うん。いいよ。思う存分使って」
「ありがとう」
ラララ~♪♬
「——ゼフィ?」
そう、その調子。
私の歌声に合わせて、木々が大きく揺れている。
そして、 あたりの風が私の目の前に集まってくる。
この風を――。
「な、なんじゃ。この風は!」
もっと、もっと硬く――。
「これは……もしや風?」
もっと鋭く――。
「おい、ゼフィ。おまえ、いったい何を――」
これだ!
ラララ~♩♬
——ビュンッ!
ザシッ!
放たれた風が、蛇の胴体を切り裂いた。




