ーNew Attribute Windー
翌朝。
知らない天井。
知らないベッド。
そして、窓から差し込む日差し。
正直、あまり寝られなかったなぁ。
きっと、初めての環境だからじゃない。
たぶん――。
「——ゼフィ?」
「あ、フィールお姉ちゃん」
「もしかして、寝られなかったの?」
「……わかる?」
「わかるよ、それくらい。やっぱり、昨日の話?」
——昨日の話。
そうだ。
昨日、ラミアお姉ちゃんが教えてくれた話。
私たちが産まれて、すぐにお母様が死んだ。
ラミアお姉ちゃんは、否定してたけどきっとそれは――。
「ゼフィ、大丈夫」
「——フィールお姉ちゃん?」
フィールお姉ちゃんが、私のベッドに登って来た。
そして、私を優しく抱きしめてくれている――。
「大丈夫よ、ゼフィ。私があなたのお姉ちゃんであることに変わりはないんだから」
「フィールお姉ちゃん……」
違う。
たぶん、お姉ちゃんは私がゼフィ・メディアルではなく、クライシスであることを気にしていると思ってるんだ。
だけど――。
「あなたは、そのままでいい。私とラミアお姉さまで守るから。だから、心配しないで」
あぁ。
なんだか、安心する。
フィールお姉ちゃんの匂いだ。
お姉ちゃんから抱きしめてくれるなんて、いつぶりだろう。
ついこの前まで、あんなに遠くに感じていたのに。
今は、こんなにも近くに――。
「——安心したみたいね、ゼフィ」
「うん、でも……フィールお姉ちゃん」
「なに?」
「もうちょっとだけ、こうしていたい」
「……もぉ、ゼフィの甘えん坊」
「えへへ、フィールお姉ちゃん大好き」
「はいはい」
——コンコン。
「ゼフィちゃーん、フィールちゃーん。起きてるぅ?」
「あ、ラミアお姉ちゃんだ!」
「ゼフィちゃん? 起きてたのね、ゼフィちゃん。開けるわよ?」
——ガチャ。
「あら? あらあらあら。二人とも、仲良しさんね」
「ラミアお姉さま、お、おはよう」
「うっふふ、おはよう。フィールちゃん」
「なんで、そんなにやにやしてるの? ラミアお姉さま」
「うーん? だってぇ、朝からこんな可愛らしい画を独占できるんですもの。にやつきもしますわ。これは、フィアンマお兄様にも良い報告ができるわね」
「もぉ、ラミアお姉さま。茶化さないでよ」
「ラミアおねぇちゃーん、ぎゅってしてぇ!」
「あら? 今度は、私? いいわよ、ほらぁ」
「きゃっはは、ラミアお姉ちゃん、くっすぐったいよぉ」
「おりゃおりゃおりゃぁ~、甘えん坊さんのゼフィちゃんにはお仕置きですよ~」
「こほん、ラミアお姉さま。そろそろ支度しないとでしょ?」
「あ、そ、そうだったわね。ほら、ゼフィちゃんも。支度しないと、初授業に遅刻しちゃうわよ?」
「あ、そ、そうだった! 準備しなきゃ、じいやは?」
「もぉ……。ゼフィったら、もぅ、爺は居ないんだから自分で準備しないといけないのよ?」
「あ……。そうだった」
——————————————。
準備を終えた私たちは、ラミアお姉ちゃんに案内してもらい、私たちの教室に着いた。
「じゃ、ここが初等教育棟って言って、あなたたち二人が授業を受けるための建物よ」
「な、なんか。ここも、すごいおっきいね」
「ふふっ、これでも一番小さい方なのよ?」
「え?! うっそ!」
「本当よ、まあ、それはまた、いずれ紹介してあげるから。早く、授業に行ってらっしゃい!」
「うん! 行ってきまーす! ラミアおねぇちゃーん!」
「あ! ちょっと、ゼフィ! あまり走らないで! こけちゃうでしょ?」
「二人とも—! 頑張ってねー!」
「はーい! ラミアおねぇちゃーん!」
ラミアお姉ちゃんと別れて、建物の中に入ると、そこには大きな魔法陣と人が立っていた。
「——見ない顔ですね、もしかして今日が初登校ですか?」
「え? あ、はい。そうです」
「では、お二人とも。学生証章をお出しください」
「学生証章?」
「ゼフィ、これよ。この、銀色の――」
「あ、そっか。はい、これ!」
「ゼフィ、敬語で話しなさい」
「あ、あ、ごめんなさい」
「かまいませんよ、では、お預かりいたします――。ふん、フィール・メディアル様とゼフィ・クライシス様でございますね。確認が取れました。では、魔法陣の上にお立ちください」
「あ、はい」
ゼフィ・クライシスか――。
やはり、この名前にはちょっと慣れないなあ。
「ゼフィ、行くよ」
「う、うん」
私たちが、魔法陣に乗ると、案内の人が、隣にある鍵盤けんばんを弾き始めた。
すると、魔法陣が紫色に光り始めた。
なんだか、ちょっと――。
「フィ、フィールお姉ちゃん……」
「大丈夫、怖くないから」
「で、でも――」
「私が、手を握っててあげるから。ね?」
「う、うん」
「では、お二人とも。お気をつけて」
案内人の言葉が聞こえたと思ったら、光は目が開けられないほどに強くなっていった。
そして――。
目を見開くと、そこにはたくさんの人と、奥には大きな黒板があった。
もしかしてここが――。
「おはようございます。今日からこのクラスの担任をさせていただきます、サチェルとお呼びください」
「ねえ、フィールお姉ちゃん」
「うん?」
「今、サチェル先生どこから現れたの?」
「あの、鏡からでしょ? ラミアお姉さまと同じ魔法じゃないの」
「あ、そっか」
「ふっふふ、そちらの――白髪の子。鏡渡きょうとは初めてでしたかな?」
「え? あ、えっと……」
「怖がらなくて大丈夫です。この魔法は鏡渡きょうとと言って、聖魔法の一つなのです。鏡渡りかがみわたりとも呼んだりもしますね」
「鏡渡りかがみわたり! それなら知ってます!」
「はっはっはは。それは、良かった。では、早速まずは魔法の基礎から授業をしていきましょう」
「はい!」
「はっはっはは。良い返事ですな。では、まず六属性についてお話を致しましょう。いいですか。皆様、ご存じの通り。魔法には、火・水・土・雷・聖・闇の六属性があります。そして、これらの属性については皆さまのお父様やお母様から受け継がれてきたものとなります」
「受け継がれた……? フィールお姉ちゃん、あれってどういうこと?」
「例えば、お父様が火魔法を使って、フィアンマお兄様も火魔法を使うでしょ? そんな風に、親子で属性が決まるということよ」
「あ、そっか。じゃあ、ラミアお姉ちゃんは?」
「たしか、亡くなったお母様が聖魔法て聞いたことあるわ」
「あ、だから、ラミアお姉ちゃんは聖魔法なんだ」
「そう。って、ここは爺にも教えてもらったじゃない」
「え、そ、そうだっけ」
「もぉ、ゼフィったら……」
そんな風に、私はフィールお姉ちゃんにこっそり教えてもらいながら、時間が過ぎて行った。
けど――。
一つ、気になる。
「——では、ここらへんで質問がある子はいませんかな」
「あ、あの。サチェル先生」
「うん? 何かな、ゼフィ君」
「あの、風魔法はないのですか?」
「風魔法?」
「ちょ、ちょっと。ゼフィ」
——風魔法?
――なんだ? 風魔法って。
——聞いたことねえよな、そんなの。
——どこの家の奴だ? いったい。
あれ?
私、何か変なこと言っちゃったのかな?
「風……ですか。ふむ」
サチェル先生は、少しだけ首を傾げた。
「実は、私もそれは常々疑問に思っている問でもあるのですよ。ゼフィ君」
「どういうことですか?」
「先ほど、申し上げたように。この世界で、魔法はこの黒板に記述してある六属性のみです。しかし――。これは、私の研究内容でもあるのですが、本来この六属性だけというものはかなり歪なのです」
「——いびつ?」
「ええ。本来、古来より、万物を作り出すものは火・土・風・水の四つの要素と言われています。しかし、不思議なことにこの魔法六属性にその風は含まれていないのです」
「含まれていない? って、事は先生。それって、風魔法なんて無いってことですか?」
「今のところは、見つかっておりませんな」
「——そんな」
どういうことだろう。
確か、フィアンマお兄ちゃんもじいやも言っていた。
私の魔法は、風魔法だって。
なのに、どうして――。
「——まぁ、ゼフィ君の質問は非常に興味深いものではありますが、そろそろ座学はここまでに致しましょうか」
「え? 先生?」
「皆様、ちょうど良い機会です。ここからは実技で、それぞれの魔法を見せ合う時間と致しましょう」




