ーOn The Day Of Departureー
第16話ーOn The Day Of Departureー
部屋に戻っても、頭の中でずっと繰り返されてしまう。
『ゼフィは、私の魔力を使ってるってこと!』
あの言葉が、ずっと離れない。
私が魔法を使えていたのは、フィールお姉ちゃんの魔力のおかげだった。
私が魔法を使うたびに、フィールお姉ちゃんを傷つけていたんだ。
それなのに、私は――。
『練習すればいいじゃん! そんなの、フィールお姉ちゃんじゃない!』
こんなの、嫌われて当然だよ。
私のせいで、魔法を使えないのに、私は――。
無神経にも、あんなこと言っちゃって。
「私……。最低だ」
——ガチャッ。
「ゼフィ、入るぞ」
「——フィアンマお兄ちゃん」
「うん? 何を泣いているのだ? ゼフィ」
「フィールお姉ちゃんに嫌われちゃった――」
「……喧嘩か。珍しいな」
「喧嘩じゃない……。全部——私のせいなの」
「どういうことだ? ゆっくりでいい。話してみろ」
「うん」
—————————。
「——なるほどな。ゼフィの魔法は、フィールの魔力によるものだったということか」
「うん」
話せば話すほど、涙が溢れ出てしまう。
フィールお姉ちゃんに嫌われてしまったからなのか。
フィールお姉ちゃんを苦しめてしまったからなのか。
何の涙なのかは、はっきりしない。
だけど――。
「そんなに泣くな。ゼフィ」
「——でも……。お兄ちゃん。私……」
「お前は悪くない」
「どうして? 私が悪いんだよ? 私が悪い子だから、お父様の言いつけも守らず、魔法を――」
「お前は、まだ七歳の子どもだ。まだ何も知らない子供なのだ。現に、お前はフィールの魔力を奪っているなんて、思いもしなかった。そうだろ?」
「うん。でも……それでも私は――」
「——まぁ、簡単には割り切れないか」
フィアンマお兄ちゃんが私の前に立ち上がった。
「ゼフィ。お前はどうしたい?」
「私……私は、私はね。もう、フィールお姉ちゃんを傷つけたくない」
「そうか。だが、どうする? お前は、まだ自分の魔法を制御できてないだろ?」
「う……うん」
フィアンマお兄ちゃんの言うとおりだ。
私が、魔法を使わないと決めても、さっきみたいになってしまったら――。
「そんな顔をするな。ゼフィ」
「——フィアンマお兄ちゃん?」
「許可が出たぞ。父上から、お前たちの魔法学園への通学のな」
「え、そうなの?」
「そうだ」
——行ける。
行けるんだ、ラミアお姉ちゃんの通っている学校に。
プラトン魔法学園に。
本当なら、こんなに嬉しいことはない。
ラミアお姉ちゃんと、フィールお姉ちゃんと一緒に屋敷の外に出られるんだ。
魔法の勉強ができるんだ。
でも――。
「——私、行かない」
「何? 今、何て言った?」
「私、行きたくない」
行きたくない。
いや、違う。
行けないんだ。
もし、今。
今、フィールお姉ちゃんと別れて、魔法学園に行っちゃったら――。
怖い。
その先は――、想像したくない。
「フィールの事か?」
「うん」
「なら、お前一人でも行け」
「で! でも、お兄ちゃん。今行っちゃったら、フィールお姉ちゃんと――」
「違うぞ、ゼフィ。今だから行くのだ」
「どうして?」
「学ぶためだ。お前たちのような事例は、俺も聞いたことがある」
「え? それって――、どういう?」
「過去に、ゼフィとフィールと似たような状況になった人がいたということだ」
「本当に? いたの? 私のようにお姉ちゃんの魔力を使っちゃった人」
「そうだ。だが、その解決方法までは知らない。それに、ゼフィ。お前の魔属性は風だ」
「風?」
「そうだ。風属性だ」
——風。
そうか、風。
だから、私の魔法は風を使えるんだ。
でも――。
それは、フィールお姉ちゃんの――。
「しかし、ゼフィ。その属性は本来存在しない」
「そ、そうなの?」
「少なくとも、俺は聞いたことがない。つまり、前例の方法で解決するかも怪しい。だからこそ、魔法学園に行くのだ」
「魔法学園に?」
「そうだ。魔法学園に行き、見つけてこい。フィールのではない。自分自身の魔力を使う方法をな」
「見つける……。私だけで――、そんなの、できないよ!」
「心配するな。あそこにはラミアもいる。お前は、一人じゃない」
ラミアお姉ちゃんと一緒。
「——フィアンマお兄ちゃん」
「それに、もしつまずくことがあれば、いつでも手紙をよこせ」
そっか。
フィアンマお兄ちゃんも協力を――。
それなら、できるかもしれない。
フィールお姉ちゃんの力じゃなく。
私の魔力を使って魔法を――。
それができれば、もう――。
もう、フィールお姉ちゃんを傷つけなくて済む。
「——私。私、行くよ。プラトン魔法学園に!」
「よし。なら、支度を急げ。出立は三日後だ」
「わかった!」
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三日後の朝。
生まれて初めて、私は屋敷の玄関をくぐった。
そこには、じいや、フィアンマお兄ちゃんにラミアお姉ちゃん、そしてお父様が立っていた。
だけど――。
フィールお姉ちゃんの姿はない。
――最後くらい、挨拶くらいしたかったなぁ。
「ゼフィお嬢様。立派な旅姿でございます」
「ありがとう、じいや」
「このじいや、ゼフィお嬢様のお帰りを心よりお待ちしております」
「うん! 私、頑張るね!」
「ゼフィ。困ったときは分かっているな?」
「分かってる! 毎日手紙出すね! フィアンマお兄ちゃん」
「——毎日、か」
「フィアンマお兄様、毎日忙しくなるわね」
「——臨むところだ」
「ゼフィ」
「——お、お父様」
「——これを」
お父様は、突然肩にかけているギターを鳴らした。
そして、ギターのメロディに乗って目の前に火の玉が出現した。
でも、その中に見えるものは――。
「お、お父様。これって――」
「魔法学園に行くのだ。これが必要だろう」
信じられない!
目の前に、現れたのはあの時のバイオリンだった。
ラミアお姉ちゃんが五歳の誕生日にくれた宝物のバイオリン――。
「これ、燃やしたんじゃなかったの? お父様」
「——」
「ゼフィ。あの魔法は、封印魔法だ」
「封印魔法?」
「そうだ、父上はそいつを燃やしたかのように見せて、お前が迂闊に魔法を使わないようにそいつを封印しただけなのだ」
「フィアンマ。おしゃべりがすぎるぞ」
「事実は、開示すべきかと思いますが」
そっか。
お父様はただ、私たちのことが心配だったんだ。
だから、あの時、私に諦めさせようとして――。
「お父様! ありがとう! 私、頑張るね!」
「あぁ。精進しなさい」
「はい!」
「さ、行きましょ。ゼフィちゃん」
「うん!」
私は、ラミアお姉ちゃんの手を握って一緒に、屋敷の外にある門をくぐった。
「遅いわよ、ゼフィ」
「——え?」
これは――。
もしかして、幻?
絶対に、ここに居ない人が目の前に見えている。
私が作った黒いローブを身に纏い、金色の眩い髪の毛が揺らめいてる一人のお姉ちゃん。
「フィールお姉ちゃん。どうしてここに?」




