ーSister's Secretー
「私は―—。行かない。行きたくない」
「フィールお姉ちゃん……」
お姉ちゃんがそう言ってくるのは、なんとなく分かっていた。
魔法嫌いのお姉ちゃんが、魔法を学ぶ学校なんて、行きたいはずがない。
だけど――。
「フィールお姉ちゃん。どうして、そんなに魔法を嫌うの?」
「どうして?」
「だって、フィールお姉ちゃん。五歳のころまでは一緒に、魔法の絵本を読んでくれてたじゃん。魔法ごっこの時だって、楽しかったじゃん。なのになんでなの?」
「私には、魔法を使えないからよ。知ってるでしょ? あなたには、魔法を使えるのかもしれない。だけどね、私は使えないの。ゼフィと違って、才能がないの!」
そっか。
そういえば、フィールお姉ちゃんが魔法を使っているところなんて見たことがない。
でもそれって、お父様の言いつけを守っているだけなのかと思っていた。
だけど――。
才能が無いから嫌いだなんて……。
「じゃあ、使えるようにすればいいじゃん! 魔法! フィールお姉ちゃん、すごいのに。読み書きや算術も、全部私よりすごいじゃん!」
「そっ、それは――」
「私、知ってるんだよ。フィールお姉ちゃんが、じいやに頼んで、夜遅くもレッスンをしてたこと」
「……知ってたんだ」
「夜、二人がレッスンするところ見ちゃったことがあるんだもん。だから、私。フィールお姉ちゃんのこと、すごいなって思ってるんだよ? みんなが寝ている時間に頑張ってさ……」
「ゼフィ。何が言いたいのよ」
「だからさ! 魔法だって、同じように頑張ればいいじゃん! ちょっと、才能がないからって、なんで諦めちゃうの? そんなの、フィールお姉ちゃんじゃない!」
「……えないのよ」
「えっ?」
「使えないのよ! 魔法が!」
フィールお姉ちゃんが、布団から飛び出した。
顔を真っ赤にして、目には涙を浮かべている。
だけど――。
「そんなの、いつもみたいに、じいやか、ラミアお姉ちゃんに聞いたらいいじゃん! それに私だって、魔法を使えるんだよ? なんで、頼ってくれないの?」
「したわよ! 私だって、何度も何度も――」
「ゼフィお嬢様。フィールお嬢様は、六歳の頃から毎晩、魔法の練習をされているのです。ですが、どういうわけか、魔法を使えないのでございます」
「そりゃそうよ。だって――」
「なんでよ。なんで、言ってくれなかったの?」
「フィールちゃん。今の話、本当なの?」
ラミアお姉ちゃんも知らなかったんだ。
でも――。
どうして?
どうして、そんな大事なことを私だけでなく、ラミアお姉ちゃんにも――。
「フィールちゃん、 魔法が使えないって本当なの?」
「本当よ」
「でも、あなた。今だって、魔力不足で疲れてるじゃないの。知らず知らずのうちに魔法を使えてたんじゃないの?」
「そんなことは絶対ない」
「じゃあ、なんで?」
「——だって、私の魔力は、私のモノじゃないんだもん」
私の魔力じゃない?
どういうこと?
さっきから、フィールお姉ちゃんの言っていることが分からない。
「何も分からないって、顔してるね。ゼフィ」
「だ、だってぇ!」
「じゃあ、わかるように言ってあげる! 私の魔力は、あなたが使ってるのよ! ゼフィ!」
「——え?」
「ちょっと――、フィールちゃん。それっていったい……どういう」
「そのままの意味よ! ゼフィは、私の魔力を使ってるってこと! だから、私は自分の魔力を使えないの!」
フィールお姉ちゃんの話を聞いて、ラミアお姉ちゃんとじいやは完全に固まっている。
だけど、フィールお姉ちゃんは――。
「私だって――。私だって、魔法を使いたかったよ! みんなみたいに!」
「お姉ちゃん――」
「私も、もしかしたらゼフィと同じ風魔法を使えるんじゃないかって――。それとも、ラミアお姉さまと同じ、聖魔法を使えるんじゃないかって――。何度も期待したよ! 毎晩毎晩、何度も何度も……。爺の時間を奪ってさぁ!」
「フィールお嬢様——。そんなこと」
「でも、私は魔法を使えないの! 私の魔力なのに、私が使えないの! 全部、ゼフィ。あなたの、魔法のために私の魔力は使われているの!」
……え。
え、えっえっ。
何を言っているの? フィールお姉ちゃんは。
私が、フィールお姉ちゃんの魔力を?
それじゃぁ……。
二年前、フィールお姉ちゃんが倒れちゃったのも。
そのあとも、今みたいに、時たまフィールお姉ちゃんがきつそうにしていたのも。
そして、フィールお姉ちゃんが魔法を使えないのも。
全部、全部全部……。
私のせい……ってこと?
私が、フィールお姉ちゃんを苦しめてたってこと?
私が、 フィールお姉ちゃんの魔法を奪ってたってこと?
そんな。
そんな……。
そんなことって――。
「嘘だ! そんなこと……ありえないよ!」
「もしかして、フィールちゃん。今朝、ゼフィちゃんが魔法を使ったことを当てたのって――」
「そうよ。私の中から魔力が無くなったことが分かったからよ!」
「そういうことだったのね……」
「じゃあ、なんで――。なんで、フィールお姉ちゃんは、そのこと言ってくれなかったの?」
「言ってたら、何か変わったの?」
「当然じゃん! そんなこと知ってたら、私だって――」
「魔法を使わなかったって言うの? じゃあ、塔のあれは何なの?」
「そ、それは……」
あの魔法は、私もわからない。
気が付けば、天井が無くなっていて――。
『ゼフィ、ラミアの魔法学園で魔法を学んで来い。そして、自分を支配しろ』
自分の支配——。
あの時の、フィアンマお兄ちゃんの言葉。
今でも、よくわからない。
だけど――。
「フィールお姉ちゃん。私は、魔法学園に行くよ。そして、魔法を使えない方法を学んでくる!」
「……そう」
「だから、お姉ちゃん。一緒に行こ?」
「行かない」
「どうして?」
フィールお姉ちゃんは、またベッドの中に入り、布団にくるまった。
そして、何も言ってくれない。
「ねえ、フィールお姉ちゃん。どうしてなの? ねぇ」
「——」
「ねえってば」
「うるさいな! もう、ほっといてよ! 行きたきゃゼフィ一人で行けばいいじゃん! いつまでも、私に甘えないで!」
「フィールお姉ちゃん……。私たち、誕生日じゃん。だから、私。フィールお姉ちゃんのために、プレゼント用意したんだよ? フィールお姉ちゃんとまた、笑っておしゃべりしたかったから。そのために、私……頑張って、作ったんだよ?」
「ふぅん!」
突然、起き上がったフィールお姉ちゃんが、私から包んだものを奪い取った。
そして――。
一瞬だけ、その包みを見つめていた。
「……こんなの、要らない!」
小さく、つぶやくと、思いっきり包みを投げた。
「フィ、フィールちゃん?!」
「もぉ、出て行って!」
フィールお姉ちゃん……。
フィールお姉ちゃんは、もしかして私の事——。
「わかった。私、一人で行く」
もし、フィールお姉ちゃんがそうでも、私はフィールお姉ちゃんが大好き。
だから、これ以上嫌われたくない。
だから――。
「ゼ、ゼフィちゃん……。フィールちゃん……」




