ーNOT KNOW SONGー
——ガチャ。
「うーん。誰も来てない……よね?」
塔の中をぐるぐると回りながら、上へ続く階段。
それを一番上まで駆け上がった先に、私だけの秘密の部屋がある。
ぬいぐるみもないし、可愛いお花もない。
だけど、ここからなら屋敷のお庭だけでなく、屋敷の外まで見渡せる。
気持ちが落ち込んでしまったときに、私を元気にしてくれる大好きな場所——。
でも、本当なら……。
「フィールお姉ちゃん……」
本当なら、フィールお姉ちゃんとここにいたい。
ここで、フィールお姉ちゃんと外の景色を眺めながら……。
だけど、今は――。
きっと、私の誘いなんて、フィールお姉ちゃんは乗ってくれない。
どうして……。
どうしてなんだろう。
ここ最近——いや、もう丸二年。
フィールお姉ちゃんと、全く遊べていない。
それどころか、ゆっくりおしゃべりしたことや、笑い合って過ごした時間さえも……。
「フィールお姉ちゃん、私の事、嫌いになっちゃったのかなあ……」
今朝も、なぜかフィールお姉ちゃんは、怖い顔をして私を見つめてきた。
魔法を使った私のことを、責めてきた。
もちろん、お父様の言いつけを守らなかった私が、悪いのだけど――。
「なんで、フィールお姉ちゃん。魔法が嫌いなんだろう」
きっと、フィールお姉ちゃんはお父様の言いつけを守っていないことに怒っているんじゃない。
いつからかは、わからない。
だけど、お姉ちゃんに、魔法のことについて話そうとすると、怖い顔になってしまう。
そればかりか、すぐにその場から居なくなってしまう。
だけど――。
「フィールお姉ちゃん。ラミアお姉ちゃんの魔法には、悪く思ってないみたいなんだよねぇ。それに――」
どうして――。
フィールお姉ちゃんは、私が、魔法を使ったことを分かったのだろう。
今朝、私は自分の部屋で、魔法を使った。
だから、フィールお姉ちゃんどころか、じいやにさえも見られていないはずなのに。
——ビュゥ。
部屋の外から優しい風が入って来た。
そして、窓の向こうを眺めていると、外庭にじいやがいた。
それとあれって――。
フィールお姉ちゃんだ。
フィールお姉ちゃんは、庭の花壇に水をあげているみたいだ。
二人が何を話しているかはわからない。
だけど、どうしてだろう。
フィールお姉ちゃんの顔が、少しだけ微笑んでいるように見える。
「お姉ちゃん……」
胸の中が重たく、そして冷たい。
この感じ。
知っている。
嫌というほどに――。
もし。
もしも、このまま。
私が、魔法を使い続けて、フィールお姉ちゃんに嫌われちゃったら……。
「私……また、一人になっちゃうのかな――」
嫌だ。
そんなの嫌!
せっかく、生まれ変わったのに――。
この世界で、この家族のゼフィ・メディアルとして生まれたのに――。
もしも、また魔法で一人ぼっちになってしまうのなら――。
「そんな力。私は要らない!」
そう叫んだ瞬間――。
目の前の景色が、白一色に塗りつぶされた。
外の景色も、庭も、じいややフィールお姉ちゃんも全部消えてしまった。
それだけじゃない。
肌いっぱいに感じてたはずの風も、身体いっぱいに包み込んでくれていた温もりも無くなってしまった。
もしかして、ここって――。
「そんな、ここって」
嫌だ。
そんな……。
ここに戻るなんて――。
「どうしたらいいの? ここは、嫌だよ……。誰か、助けて。助けてよ!」
誰も来ない。
そりゃそうだ。
そんなこと、私が一番知っていたはずだ。
こんな、何もない世界。
音も、温度も、何かに触れている感覚さえもない世界。
「お姉ちゃん……フィールお姉ちゃん」
――♪♬♩
――あれ。
なに?
フィールお姉ちゃん?
——♬♪♬
違う。
フィールお姉ちゃんじゃない。
だけど、この歌声。
聞いたことのない曲。
だけど――
「知ってる。私。この曲を知っている――」
なんだろう――。
こんな曲、私は知らない。
だけど――。
メロディが、歌詞が。
まるで、私の中に流れ込んできている――いや、違う。
この感覚。
流れ込んできているんじゃない。
私の中から、溢れ出ているんだ。
でも、どうして?
私は知らないはずなのに――。
♪♬♩♪——。
だけど――。
なんだろう、この感覚。
歌っているだけで、心が軽くなる気がする。
なんか。
一人で歌っているはずなのに、一人じゃない気がする――。
もっと。
もっと、歌いたい。
もっと、もっともっと――。
「——何をしている! ゼフィ」
「え?」
気が付けば、私の目の前にフィアンマお兄ちゃんが居た。
周りも、白くない。
「お前、何をした?」
「何って――、私は、歌っていただけだよ?」
「歌っていただけ……だと?」
「うん。そうだけど」
「ゼフィ。お前、気が付いていないのか?」
「何を?」
「後ろを見てみろ!」
「後ろ? ——え」
言われた通りに振り向いてみると、そこには外の景色だけが広がっていた。
窓も、壁も天井も無い。
残っているのは、私とフィアンマお兄ちゃんが立っている石の床だけ。
「フィアンマお兄ちゃん。これってどうなってるの?!」
「わかっていない……のか?」
「ねえねえ、フィアンマお兄ちゃん! 教えてよ! 何があったの?」
訳が分からない。
気が付いたら、塔の部屋が無くなってしまっているなんて……。
あ! もしかして――。
「フィアンマお兄ちゃん! フィールお姉ちゃんは? じいやは平気なの? さっきまで、庭に居たんだ!」
「あいつらは、無事だ。心配ない」
「本当に? ケガとかないの? 大丈夫なの?」
「あぁ。フィールと爺は、ラミアのところに居る」
「そ、そうなんだ……。よかったぁ」
「それより、ゼフィ。お前、本当に――いや。なんでもない」
「フィアンマお兄ちゃん?」
「うん、そうだな。質問を変えよう。ゼフィ、お前はここで何をしていた?」
「何って。私は、ここで歌っていただけだよ?」
「歌ってた? あれは、歌なのか?」
「うん」
「どこで聞いた?」
「それは、わからない」
分からない。
そう、あの歌をどこで聞いたのか。
なんていう曲なのか、私には分からない。
「そうか。歌っていただけ……か」
「フィアンマお兄ちゃんは、どうしてここに?」
「竜巻を見たからだ」
「竜巻?」
「そうだ。俺が外庭で、剣を振っていた時、凄まじい轟音が聞こえてな。その音の方へ行ってみれば、塔の周りを大きな竜巻のようなもので包まれていたんだ」
「そうなの??」
「そうだ。そして、その竜巻の中心にゼフィ。お前がいた」
「で、でも! 私、バイオリン持ってないよ?」
「お前は、俺たちと違い、歌で魔法を出せるだろ」
「でもでも。さっきは魔法を使おうとしてないんだよ?」
「——無意識だというのか?」
怖い。
フィアンマお兄ちゃんの目、顔が――。
もしかして、この塔。
私のせいで、こうなっちゃったの?
そんな――。
私が、こんな風に壊しちゃったの?
だから、フィアンマお兄ちゃんは怒っているの?
「フィアンマお兄ちゃん……。私、この部屋壊しちゃったの?」
「いや。今の問題はそこじゃない」
「でも、お兄ちゃんの目……。怖いよ」
「あ、あぁ悪い。それよりもゼフィ」
フィアンマお兄ちゃんが、私に合わせて腰を下げて、肩をつかんできた。
「なに? お兄ちゃん」
「お前、身体に異常はないか?」
「身体?」
「息苦しくないか? 眩暈めまいはないか? 身体の重さは? 熱は?」
「ちょ、ちょっと。フィアンマお兄ちゃん、急にどうしたの? 大丈夫だよ」
「……そうか」
フィアンマお兄ちゃんが、立ち上がった。
そして、しばらく石床の上を歩き回っている。
何かを考えているのかな。
「ゼフィ」
「なに?」
「お前、確か朝も魔法を使ったんだってな」
「そ……それは」
「正直に言え」
「ご、ごめんなさい」
もしかして、フィアンマお兄ちゃん。
今朝の事、怒っていたのかな。
私が、お父様の言いつけを守っていなかったことを……。
「どうやら、魔力量は俺の想像を遥かに凌駕しているのかもしれないな」
「——フィアンマお兄ちゃん?」
「いや、それよりも。さっきの魔法。本当に、使おうと思って使ってないんだな」
「うん。もちろん」
「だとすれば、相当にまずいな」
「意識して魔法を使っているなら、使うなと言えば終わる話だ」
「うっ……うん」
「だが、無意識に発動しているのなら、話が変わる」
「どういうこと? お兄ちゃん」
「お前の魔法が、お前の言うことを聞いてないということだ」
「そうなの?!」
じゃあ、やっぱり。
これって、私の……。
「父は、お前の魔法を禁忌とした。しかし、それは封じれるものであるからこそ発揮する――。ゼフィ」
「封じる? どういうこと? お兄ちゃんの言ってること全然わからないんだけど……」
「今はわからなくていい。それよりもゼフィ。お前は、フィールと共にプラトン魔法学園に行け」
「え? そこってもしかして――」
「そうだ。ラミアの通っているところだ」




