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第4話 いやでっかぁ……

 きれいな小鳥のさえずりが聞こえてきた。


 ふかふかのベットの中で目を覚ます。


 昨日はお風呂に入った後、久しぶりに早くに寝ることにした。

 普段は残業続きで全く寝ることができなかったから、ここで普段の寝不足を取り返そうという寸法である。


 まったく、惰眠をむさぼるのは最高だぜ。


 しかし、お楽しみはここからだ。


 二度寝。二度寝である。

 この二度寝をする前の、まどろんでいる瞬間が天にも昇る心地よさなのである。


 ま、天には一度昇っているのだが。


 さっそく布団を目深にかぶり、二度寝のために体勢を整える。


コンコン


「…………」


 なんか、ノックが聞こえたの気がするのだが……

 まあ、気のせいだろう。ここは人っ子一人いない森の中。

 風かなんかで飛ばされた石が扉に偶然当たっただけさ。


コンコン


「…………」


 どうやら気のせいではないらしい。が、寝させてほしい。

 明日からちゃんとやるから、今日は居留守を使わせていただきます。


コンコンコン


「……」


コンコンコンコンコン


「だぁーーー!!もう!わかった!!わかった!でます!います!いますよ!居間にいますよ!」


 つまんねー用事だったらどうしてくれようか。

 少なくとも、ぶっきらぼうな返事になってしまうのは肝に銘じてもらおうか!



 重い体を起こして、玄関の扉を少々乱暴に開ける。


「はいはい!なんで……す……か?」


 そこにいたのは、身長が190cmもあろうか。長身の女性だった。


 髪は水のように重力に従って流れ、太陽に照らされて雪のように光る銀髪。


 きっと手櫛で梳いてみれば、流れに沿ってするすると手指の間を絹糸のように通っていくだろう。


 その涼しげな瞳と顔つきからは想像もつかない程に、服を押し上げる胸部には目が離せない。

 

 その胸を抑えるのは、まさに見るものを威圧する黒々とした金の装飾が施されたロングコートの軍服であった。


 とにかくでかい。すべてがでかい。

 

 つまり、爆乳軍服美女が立っていたということだ。


 この季節にロングコート……?

 

 まだ夏ではないようだが、春の暖かい季節だというのに。

 見てるだけで暑い。



 しかし、相手がこの体格だと、たとい詰まらない用事だったとしてもどうしようもできない。

 

 抵抗しようにも、上から押さえつけられたら、フィジカルの差で負けてしまうだろう。


 寝起きの頭も覚めるほどの衝撃。


 やっと頭が回ってきた。

 しかし、このあたりには人はいないはずだが……?

 

 この人たちは森の外からやってきたということか。

 

 なんだ、住民税とか納めなきゃいけないのだろうか。


 しかし、その人は口を開けてなにも言わない。僕を見て言葉を失っているようだ。


「あの……」


「可憐だ……」


「は?」


「い、いやカレンだ。私はカレンだ」


 するとこのカレンと名乗った女性の後ろから、また別の女性がひょっこりと顔を出していった。


「え、違うでありますよね」


「今この瞬間から私の名前はカレンだ」


「左様でありますか・・・・・・」


 目の前の長身美女の後ろに控えていたということは、推察するに、この人の部下かと思われる。


 この人も銀髪の女性ほどではないが、とてもかわいらしい顔立ちをしている。


 やっぱり役所の人かな?


「とりあえず、立ち話もなんですので、中にどうぞ」


「中に、いいのか」


「ええ、中にどうぞ」


「将軍……そういう意味じゃないと思うでありますよ?」


「わかってるが?」


仲のよさそうな二人を家に招き入れ、テーブルまで案内する。


「おお、男の子の家か、これが」


「え、将軍、男の子の家は初めてでありますか?」


「そうだなぁ、男の子とは話す機会がなかなかないから、話をすることが出来たとしても、なぜか逃げられてしまうし」


「将軍は図体はでかいし、むさ苦しいでありますからね、男の子は苦手なタイプでしょう」


 将軍がコートを脱ぐと、服の中で蒸されていた空気がムワッ!と立ち上がる。

蒸気が目に見えるようだ。

 

 なかなか濃ゆい匂いがしそう…


「汗っかきと言ってくれないか、私はそこまでむさ苦しくはないぞ」


「自分自身の評価と他人からの評価は違うでありますからね」


「おう、どういう意味だ」


 でかい図体?むさ苦しい?

 ムレムレのムチムチの間違いでは?


 そんなことを思いつつ、棚に入っていた茶葉(神様ありがとう)でお茶を入れた。


「粗茶ですが……」


「む?粗茶だと?君、あまり自分のことを卑下するのは良くないぞ!男の子が入れてくれたんだ。その時点でもう《《粗茶》》ではないのだ」


 何言ってんだこの人、男の出す茶にはそこまでの価値はないだろうに。


 将軍はぐいっと小さなカップに入ったお茶を飲み干すと、豪快に笑っていった。

 

「ほら!こんなにもおいしいではないか!」


 涼し気な見た目によらず、随分と豪快な人だ。


「そういう暑苦しいところが、男の子から避けられる要素だってなんで気が付かないんでありますかね」


 部下の人がボソッと言った。

 

 しかし将軍はその呟きが聞こえていなかったのか、はたまた無視しているのか、部下の言葉はスルーして、話を切り出すことにしたようだ。


「さ、まず自己紹介といこうか、私はヴァレリア、東方魔族連合の将軍をしている者だ」


「将軍……」


 立派な肩書の人が来たもんだ。


 ……名前がカレンでなかったのは指摘しないで上げよう。


「そしてこいつはエレナ。私の部下だ」


「こんにちはであります」


「あはい、こんにちは、僕は…えっと…エリック!そうだ!エリックです。ここに住んでます」


 危ない危ない、自分の名前を忘れるところだった。


「…君、今自分の名前を忘れてはいなかったか?」


「いいえ?」


「…そうか、まあいい。ところで、どうして君はここに、こんなところにいるんだ?」


「どうして、ですか……うーん……」


 どこからどこまで説明をするべきかだろうか。こっちに転生して神様みたいな人からここに家をもらったからって言っても、信じてくれないだろうしなあ。


 僕が言い淀んでいると、将軍は勝手に勘違いしてくれたのか、心底同情するといった表情をして言った。


「言えない理由があるのか……まあ、そういうこともあるよな……」


「まあ、そういうことです」


 どういうことだよ。


「名前も忘れかけていたし、きっとそういうことがあったんだろう」


「…まあ、そういうことです」


 だからどういうことだよ。


「どうして君がここにいるのか、深くは聞かない。しかし、ここは男子が一人でいるには厳しいところだ。それは君もわかるだろう」


「そうですね」


 わからん。

 ここって割と生きていくには厳しいところなのか?

 しかも男子が?まあ、見た目的に未成年にでも見えているのだろうか?


「だから、提案だ。私たちが君を保護しよう。私が君の身元保証人になってあげるから、君ぐらいの歳は学校に行かないといけないだろう……」


 それは勘弁だ。僕は一人でスローライフがしたいんだ。


「いえ、大丈夫です。僕は絶対結界のスキルを持っていますので自分の身の安全は自分で守れます」


「絶対結界?初めて聞くな……エレナ、聞いたことは?」


「私も初耳であります」


 将軍は顎に手を当てて目を伏せている。

 頭の中で思考を巡らせているのだろう。なにかまずいことを言ってしまっただろうか。


「男子がスキルをもつことはまれだが、しかも私が聞いたこともないスキルか……」


 スキルについては隠していた方が良かったか……?

 っていうか、男子がスキルを持つことは稀だって?この世界はもしかして女子優位社会だってのか。


 すると将軍はパッと顔を上げて言った。


「では見せてもらおうか」


「え?」

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