第3話 のぞき見は良くないと思います
神様がどこかへ行った後、僕は家の周りを探検をすることにした。
まあ、探検といっても、家の近くに川があること以外はほとんど切り開かれた土地だったので、すぐに終わった。
「お、風呂があるなあ。しかも露天風呂じゃないか」
家の外にポン付けされている。
かなり開放的な露天風呂だ。仕切りも何もない。
まあ、こんな森の中では人もいないだろうから仕切りは必要もないか。
さっそく一番風呂を頂こうかな。
「えーと、蛇口は……これか」
如何にも温泉が出てきそうな場所に隠されていた蛇口をひねると、無色透明で、硫黄の匂いがするお湯がたんまりと出てくる。
手で人掬いしてみると、どこかピリリと皮膚が引き攣る感覚を覚える。
「おいおい、ホントに温泉が出てきたよ……」
人体に悪影響だったりしないのかな……まあ、神様が作ったやつだし、大丈夫だろう。
お湯はみるみると空っぽだった風呂釜を満たしていった。
……これガスと水道が通ってるってことだよな。
至れり尽くせりで助かる。
肉もなんとかしてくれたらよかったのに。
そんなことを考えていると、いつの間にか湯は溜まっていた。
脱衣所で服を脱ぎ、体を流したあと、ゆっくりと温泉に浸かる。
「あ゛ーーーーーーーーー」
気持ちいいー
温泉水はどこかぬめりがあり、肌によさそうだ。
温泉自体も気持ちがいいのだが、やはり、仕切りがなく、大自然を全身に感じることができるからこその気持ちよさだろう。
異世界であっても自然の匂いは変わらず、大変清々しい。
息を深く吐き、大自然の空気を全身に巡らせる思いでゆっくりと吸い込む。
そして、また、吐き出す。
涼しげな森の香りと、花を刺激する硫黄の匂いが混ざって贅沢な匂いになっていた。
「……これでいいんだよ、これで」
顔を上げると、異世界の夜の温泉は周りに光源が少ないからか、空には沢山の星が自らを主張していた。
目を瞑ればそこかしこから聞こえてくるのは虫の合奏。
気分がいい。なんとなく、この異世界生活がいいものになる予感がする。
―――――――――――――――――――――――――
「どうだ、なにか見えるか」
「うん、森がなくなって、なんか家がある」
「……いったいどうなっているんだ」
この奇怪の森に、一日で、森を切り開いて、家を建てて、なんて……
「そんなことがあってたまるか」
普通の人間にはできないことだ。
奇怪の森に住まうイかれた危険な魔獣どもを抑えて家を建てるなんてのは化け物にしかできない。
「家があるところって魔族領だよね?」
「……いや、微妙に、かぶってない…と思う」
「曖昧だね」
「ここからではな」
「そうだよね~もうちょっと近づいてみる?」
「やめておこう、この森に家を建てるくらいだ。化け物に違いない」
魔王軍突撃大隊偵察隊の私たちでは歯が立たないだろう。
あくまで私たちは偵察隊なのだ。
現に今も森の中、しかも木の上から様子を窺っている。近づきすぎて相手に察知されたら、抵抗する間もなくやられてしまうだろう。
すると望遠鏡をのぞいていた同僚のリコが、あっ!と驚いた。
「どうした?」
「おお、おおおおお、す、すごい」
同僚は顔を赤くし、息が上がっている。
夢中になって双眼鏡を覗いているが、一体なにが見えるのだろうか。
尋常な状態ではない。
「なんだ、なにがみえるんだ?緊急事態か?」
「緊急事態も、緊急事態だよ!」
そう言っている間もリコは双眼鏡から目を離さない。
「だから何が見えるんだ……」
このままでは将軍に報告しようにも情報が少なすぎる。
私は同僚から無理やり双眼鏡をぶんどった。
「あ!ちょっと!緊急事態のお楽しみ中だってのに!」
なんだよ緊急事態のお楽しみ中って。
緊急を楽しむな。もっと危機感をもって任務を遂行しろ。
横から聞こえるうるさい声を無視して双眼鏡を使って、突然できた家を覗いてみる。
「な、なんてことだ……」
そこにいたのは、神だった。
いや神かと思った。
「お、男の裸……」
しかもただの男の裸ではない。この遠い距離からもわかるほどにシミ一つない玉肌。整ったスタイル。きっと顔も整っていることだろう。
あんなキレイなのは初めて見た……ここがエデンだったのか。
「ねー!早く!早くかわってよ!」
横の声は無視である。
なぜなら、あと少しで全裸がみえそうだからだ。
さっきから木の枝でうまい具合に隠れてなかなかお目当ての部分がお目にかかれない。
こんなチャンスはめったにないぞ。
「あ、あと少しで、み、みえ……」
「……! そろそろ時間だよ!男の子に気を取られて時間の事すっかり忘れてた!」
「あ、あとちょっと!もうちょっとなんだ!」
「ちょっと!気持ちはわかるけど!時間を過ぎると将軍にどやされちゃう!」
「どやされてもいい!どやされてもいいんだ!」
このチャンスを逃すのは、女としてあってはならない!
「でも、どうするの? 男の裸見てましたーって言い訳するの?」
「ぐっ……」
「それに冷静になって考えてみたけど、おかしくない? こんな危険な森の中に男の子が一人で入れるわけがないって」
「……確かにそうかも」
私としたことが、すっかり男の子に気を取られて頭が回っていなかった
らしくない。
「罠かもしれないな」
「戻って将軍に報告しよう」
私たちは後ろ髪を引かれながら、その場を後にした。
卑劣な作戦をするものだ!全く、どこのどいつだ!女子が男子に気を取られないわけないだろう!




