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第2話 異世界到着、ここはどこ?

 眩い光が収まると、そこは切り開かれた森の中だった。


「おお……ここは……森の中か。あの光は魔法か?初めての感覚だったな」


 いわゆる転移魔法か。

 魔法がある世界に来たのならば、是非使ってみたいものだ。


 しかし、いやはや、なんとまあ、だいぶ広いな。

 この切り開かれた広間が神様が言っていた整えておいた場所ってやつだろうか。


 なるほど、少なくとも野球はできるだろうな。

 人は足りないけど。


 ところで。


「ここどこ?」


 周りをきょろきょろしていると、見覚えのある光が瞬き、その中から一台のタブレット端末が現れた。


「お、タブレットだ」


 この中に神様の言っていた取説が入っているのかな?


 何々。


 タブレットをいじっていると、一つのアプリが目に入った。


 ”異世界田舎生活ver1.1”


 というかこれしかないので、これ以外目に入らなかったというべきだろうか。


「異世界田舎生活……」


「さあ、チュートリアルを始めるよ!」


「うわ!!って……おい!居たのなら言ってくれ」


 丁度タブレットに集中していた所だったので、後ろから声を掛けられて心臓が裂けるかと思った。


「なにを言っているんだい、このタブレット一つだけ渡して後はガンバレ、なんて無責任な真似は僕はしないよ!」


「それは、助かるけど」


「まあ、僕もあんまり長く現世にいるのは良くないから、さっそくチュートリアルを始めるよ!」


「チュートリアル」


「その一、家の中に入ろう」


「家?家なんてどこにも……」


 後ろを振り返ると、そこに小ぶりなログハウスがあった。


「いつの間に……」


「今、出したからね。ささ、中にどうぞ!」


 神様に促されて、扉を開いて家に入る。


 普通に普通の家だ。しかし、異世界にはあるはずもないものが、そこにはあった。


「君の要望の通りにいろいろと用意しておいたよ、大変だったんだから!」


 冷蔵庫に、IHコンロ、水道など普通の家にあるような物は標準装備されていた。異世界にはないものだ。科学の神髄である。


「ありがたい、これがあるのとないのとでは全く違ってくるぞ」


「あと床下収納にキャンプセットも入れてあるから、あとで確認してね」


 なんと、至れり尽くせりだな。キャンプセットをいつ使うかはわからないが、ないよりはある方がいい。絶対にいい。


「チュートリアルその2!!! 種を確認しよう!」


 「種?」


「床下収納にあるのは何もキャンプセットだけではないよ!」


「ああ、これか……」


 床下収納を開けてみると、いくつかの袋が置かれていた。


「そう、その袋ごとに多種多様な種が入ってるから」


「なるほどね、でこれどうすればいいの?」


「植えるだけだよ、一日とかで収穫できるようになるから、売るなり自分で食べるなりするといいよ」


「チートだ……」


「都会育ちの君がいきなり鍬を振るって、畝を作って、日々お世話するなんてできないだろうからね」


 それはそう、それはそうなんだが。なんだかバカにされたような気持ちになる。


「ちなみに、これは種が特別なんじゃなくて、土地を改造してあるからね。そこは間違えないように!」


「なるほどね、ところで肉とかは?」


「たんぱく質ってこと?ないよ」


「ないの!?」


「ないよ、食べたかったら、前の世界と同じように、交流して、取引しなよ」


「……僕は一人でゆっくりスローライフがしたかったんだけど?」


 別に人間嫌いというわけではないが、元々人間関係を構築するのは面倒くさいと思っていたタイプなので、なるだけ他人との接触は避けたいのだが……


「えーだめだよ、人間は一人では生きられないんだよ!」


「人間、最終的には一人だろ」


「そういうことじゃないんだよ、精神的な話さ」


「……わーったよ」


「分かってくれてなによりだよ」


 神様は安心してくれたようで、胸をなでおろした。


「自分で狩りゃいいんだろ」


「ちがーう!」


 神様はそのままズッコケた!

 ……やっぱり大げさだ。なんだかおもしろくなってきたな。


「で、神様、次のチュートリアルは?」


 すると神様はズッコケた体勢のまま、顔だけをこちらに向けた。


「うん? 神様? 僕のこと?」


「他に誰がいるのさ、それとも神様じゃない感じ?」


「うーん、いや、それでいいよ」


 なんだよ。なんだか含みがある言い方だな。


「……では気を取り直して、チュートリアルその3!健康体!」


「というと?」


「君の体、健康にしちゃいました!」


「はあ、ありがとう」


 医者でも言わないそんなこと。そこは流石神様というべきか。

 是非シミとかもとってほしい。


 あと腰の痛み。


「へいへい!もっとそこは喜ぶべきだよって……そうかまだ説明があるからね!これだけ言われたってわからないよね!」


「まあ、そうだな」


 健康体と言われても、正直よくわからなくて反応に困る。


 すると神様は鏡を出して僕に向けた。が、そこには見ず知らずの男がいた。


「え、これ僕!?」


「そうだよ」


「誰!?」


「だから君だよ!」


 鏡には若い美少年が写っていた。

 シミ一つなく、白磁のような白い肌。


 大きすぎず、小さすぎない身長。


 しかも裸眼だ!


「こ、こんなの僕じゃねえ」


 メガネをかけていないことに気が付いたら、なんだか鼻のあたりがムズムズしてきた……


 違和感がすごい。


「……元の体に戻してください」


 それを言うと神様は文字通りひっくり返って驚いた。


「ええ、おかしいよ!普通の日本人は泣いて喜ぶってのに!」


「な、泣くほどなのか」


「うん、ひざまずいて天を仰いで神様ありがとう!っていうよ!」


「いやに具体的だな……」


「しっかし……君、よく変わってるねって言われない?」


「言われたことないな」


「……ふーん」


「おう、今、友達いないからだよねとか思ったろ」


「お、思ってないよ」


 嘘つけ絶対思ってたろ。

 相槌の前の変な間がそれを物語ってんだよ。


「なんでもいいから、体は戻してくれ」


 すると神様はバツが悪そうに後頭部を搔きながら言った。


「あー、それは無理なんだよね……」


「どうして?」


「君の体はさ、ボロッボロだったんだ。だから治すよりも、新しくつくり直す方が、楽だったんだよね。あと……」


「あと?」


「あと、もう火葬済みだから」


 え? 火葬されたら体はもう戻ってこないシステムになってんの? 思ったより物理的な存在が大事なシステムなんだな。


「ま、そのうち慣れるよ」


 神様は優しく僕の肩を叩いてくる。

 まあ、ないものはない、か。この体に慣れていくしかないな。


 この体も慣れてしまえばメリットばかりさ。美少年だし、若いし、若いし。


「じゃあ、最後!チュートリアルその4!絶対結界!」


「お、なんか強そう」


「強いよーそりゃ、君は、絶対にケガを負わない!」


「え、絶対!?」


「ぜぇ――――――――ったい!」


 最後にとんでもないチートが出てきました。

 これぞ異世界転生って感じ!テンション上がってきましたよ!


 って思ったけど、こんな強力なチート、なにか代償があるのでは……?


 大いなる力には大いなる犠牲が伴うとも言うし。


「いいのそれ、大丈夫? それに対するデメリットとかがあるんじゃないのか?」


 神様は腕で丸を作りながら言った。


「もちろんあるよ。君はケガを負わないかわりに、攻撃力はゼロ!」


「ええ……」


「だって、スローライフしたいんでしょ、いらなくない攻撃力?」


「…………」


 確かに。


「まあ、もしも必要になったらそのタブレットのアプリで僕に連絡してよ、いろいろと調整してあげるから」


「ああ、これ、そういうやつ」


「そそ、今説明したことも載ってる。他にも、なにか壊れたり、質問があったら気軽に連絡してね!」


 なるほど、このアプリ一個である程度完結できるようになっているのか。


「わかった」


「写メを送ってくれてもいいよ!」


「写メとか久々に聞いたな……」


「そういうことだから!あとは好きにしていいよ!」


 神様の体が光の粒子となって消えつつある。


「いろいろとありがとう」


「いえいえ、こちらこそ!っと忘れてた!」


 空中に散っていった粒子が突然勢いよく戻りだし、神様の体を形成した。

 まるで逆再生だ。


「ど、どうした?忘れ物か?」


「いやいや、名前を決めてなかったと思ってね……」


「名前?名前なんて、僕の名前は――――――」


「ウェーイト!ノンノン!ユー、ナンセンスね!それは前の世界の名前デショ!?」


「いきなりどうした」


「今日から君の名前は……」


「ちょっとまった、神様が決めるのかい?」


「そりゃあそうだよ、だって、今の君の体は僕が作ったんだよ?だからこの世界における君の親は僕ってわけ、おわかり?」


「なるほど、確かにそうだな」


「じゃあ、君の名前は、今日からエリック、エリックにしよう」


「わかった」


「随分とあっさりだね……」


「まあ、そうだな。すでに死んでいるし、変に前の名前に執着する必要はないから」


「そっか、これでやり残したことは……うん、ないね。じゃ、君の旅路に幸あれ!」


 今度こそ、神様は光の粒子となって、霧のように消えていった。


「ここから、僕のスローライフが始まるのか……」


 ここには会社もなければ、締め切りもない!いけ好かない上司もいなければ、だるい同僚もいない!


「煩わしい人間関係とはさよならだぜ……初めまして異世界、これからよろしく」


 異世界の木々がさわさわと揺れた。

 まるで僕を歓迎しているかのように思えた。

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