↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「命を喰うレベルアップ ―僕は誰かの余命で強くなる―」  作者: 黒豚
第1章「三十日のログイン」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/72

第六話 北の森

第六話です。

どうぞよろしくお願いします。


村の北門をくぐると、それまでの穏やかな草原とは違う空気が漂っていた。木々が空を覆い、差し込む光は葉の隙間を縫って、地面にまだらな模様を作っている。


「北の森は、村の周辺の中では比較的静かなエリアです。とはいえ、油断は禁物です」


隣を歩くミラが、そう補足した。


「油断禁物、というのは」


「弱い魔物であっても、不意を突かれれば無傷では済みません。特に、痛みを感じないあなたにとっては、注意が必要な環境です」


さっき鍛冶屋で聞いた話を思い出し、俺は自然と周囲に視線を配るようになっていた。木々の隙間、地面の窪み、頭上の枝――今までなら気にも留めなかったであろう細部が、やけに目についた。


しばらく歩くと、開けた場所に出た。切り出された丸太が積まれ、斧を持った男が数人、黙々と作業をしている。依頼書に書かれていた丸太置き場だろう。


俺は近くにいた作業着姿の男に声をかけた。


「木材伐採の依頼で来ました」


「ああ、聞いてるよ。そこの斧を使ってくれ。切った丸太は、あっちの荷馬車に積んでくれればいい。指定の五本、切り終わったら声をかけてくれ」


男が指差した先には、使い込まれた斧が何本か立てかけられていた。俺はその一本を手に取った。想像していたより、ずっしりとした重みがある。


「木を切るの、初めてなんですけど……コツとかあったりしますか」


「コツも何も、ただ振り下ろすだけだ。狙う場所さえ間違えなきゃ、そのうち慣れる」


素っ気ない返事だったが、悪意は感じなかった。俺は指定された一本の木の前に立った。太さは俺の胴回りほどだろうか。三ヶ月間、まともに体を動かしていなかった自分に、こんな作業ができるのか、正直不安があった。


「観察眼を使ってみますか」


ミラの提案に、俺は頷いた。目の前の木に意識を集中させる。


【解析中……】

【広葉樹】

推奨伐採箇所:地上から約30cm


視界に、木の幹の一部が薄く光って見えた。なるほど、闇雲に振り下ろすよりも、効率のいい場所があるらしい。


俺は斧を構え、光った箇所を目掛けて振り下ろした。


――ゴツン、という鈍い音とともに、斧の刃が幹に食い込んだ。手のひらに衝撃が伝わる。痛みはないが、腕全体に響くような振動があった。


「思ったより、重い……」


一撃で切り倒せるわけもなく、俺は何度も斧を振り続けた。土の匂い、木屑の飛び散る感触、腕の疲労感――どれもが、病室では決して味わえなかった、生々しい感覚だった。


十数回振り下ろしたところで、木がぐらりと傾いた。


「危ない、離れろ!」


近くにいた作業員の声に、俺は慌てて後ろに下がった。木は大きな音を立てて倒れ、地面が小さく揺れた。


視界の端に、通知が浮かぶ。


【伐採に成功しました】(1/5)

【成長経験値を獲得しました】経験値:+6

(累計 50/120)


さっきの薬草採取よりも、明らかに得られる経験値は少なかった。ミラが以前言っていた「レベルが上がるほど、成長経験値は減っていく」という話を、俺は改めて実感した。


「一本切り倒すのに、これだけ体力を使って、経験値はこれだけか……」


思わず、ため息のような声が漏れた。


「はい。伐採は、採取に比べて肉体的な負荷が大きい割に、得られる成長経験値の量自体はそれほど大きくありません。効率だけを考えるなら、必ずしも最適な選択とは言えないかもしれません」


ミラの言葉は、いつも通り淡々としていたが、正直な指摘だった。


「じゃあ、なんでこの依頼、受けちゃったんでしょうね、俺」


自嘲気味に呟くと、ミラは少し間を置いてから答えた。


「効率だけがすべてではないと思います。身体を動かすことに意味を見出しているのなら、それも一つの選択だと思います」


俺は倒れた木の幹に手を触れた。ざらついた樹皮の感触。三ヶ月間、指先すら自由に動かせなかった自分が、今はこうして木を切り倒している。効率が悪くても、この感覚には、数字だけでは測れない価値がある気がした。


丸太を荷馬車まで運び、俺は次の木に向かった。二本目は、一本目より少しだけ手際よく進められた。


【伐採に成功しました】(2/5)

【成長経験値を獲得しました】経験値:+6

(累計 56/120)


三本目、四本目と、俺は根気強く作業を続けた。腕の疲労は着実に蓄積していったが、痛みがない分、限界の感覚がつかみにくい。時折ステータスウィンドウを開き、HPの残量を確認しながら、無理のない範囲を見極めるようにした。


【伐採に成功しました】(3/5)

【成長経験値を獲得しました】経験値:+5

(累計 61/120)


四本目を切り倒したところで、視界の端に見慣れない通知が浮かんだ。


【新スキルを習得しました】

「木工の心得・初級」


「またスキルが増えました」


「はい。伐採という行為を一定量繰り返したことで、木材の扱いに関する理解が深まったのだと考えられます」


【木工の心得・初級】

木材の伐採・加工の効率がわずかに上昇する


地味ではあるが、確かに自分の中に、何かが積み上がっている感覚があった。奪わない代わりに、時間をかけて少しずつ手に入れていくもの――それが、今の自分に合っている生き方なのだと、改めて思った。


【伐採に成功しました】(4/5)

【成長経験値を獲得しました】経験値:+5

(累計 66/120)


最後の一本に取りかかろうとしたところで、遠くから、複数の足音が聞こえてきた。俺は反射的に手を止めた。


木々の合間から現れたのは、剣を提げた二人組のプレイヤーだった。年齢は俺と同じくらいだろうか。談笑しながら、森の奥へと歩いていく。


俺の視界に、意図せず観察眼の反応が浮かんだ。


【解析中……】

【???】

LV:6


【???】

LV:7


俺よりも、確実にレベルが高い。二人はこちらに気づく様子もなく、そのまま森の奥、恐らくは魔物が出現するエリアへと消えていった。


「あの人たちは、討伐に行くんでしょうか」


「恐らくは。北の森の奥には、初心者向けの魔物が生息するエリアがあります」


俺はしばらく、二人が消えていった方向を見つめていた。あの二人が今日得るであろう経験値は、俺が今日得ているものより、遥かに多いはずだった。その代わりに、どこかの誰かのLPが、少しずつ削られていく。


「……行きましょうか」


俺は小さく呟いて、最後の木に向き直った。羨ましいとは思わなかった。ただ、この世界の仕組みの重さを、改めて噛み締めていた。


斧を構え直し、俺はもう一度、振り下ろした。何度も、何度も。腕はすでに重く、木屑にまみれた手のひらは、感覚が鈍くなり始めていた。


やがて、五本目の木が音を立てて倒れた。


【伐採に成功しました】(5/5)

【成長経験値を獲得しました】経験値:+5

(累計 71/120)


「終わった……」


俺はその場に座り込みそうになるのを、なんとか堪えた。作業着姿の男に声をかける。


「五本、切り終わりました」


男は積まれた丸太を確認し、軽く頷いた。


「ご苦労さん。ギルドに戻って報告すれば、報酬がもらえるはずだ」


俺は礼を言って、村への道を戻り始めた。北の森を抜け、村の門をくぐる頃には、腕全体が鉛のように重く感じられた。痛みはないはずなのに、疲労だけは確かにそこにあった。


ギルドに戻ると、受付の女性が笑顔で迎えてくれた。


「木材伐採、お疲れ様でした」


【依頼達成】

木材伐採の手伝い


報酬を獲得しました

・成長経験値:+20(達成報酬)

(累計 91/120)

・銅貨:40枚

・名声:+3


「ありがとうございます」


俺は報酬の革袋を受け取った。銅貨の合計は50枚になっていた。今日一日で、装備を買い、また少し貯めることができた。


ギルドを出ると、村はすっかり夕暮れのような柔らかな光に包まれていた。俺はふと、自分の身体の疲労を自覚した。三ヶ月ぶりに動かした身体を、今日一日でめいっぱい使った実感があった。


「今日は、このくらいにしておこうと思います」


「良い判断だと思います。無理を続けても、良い結果には繋がりません」


ミラの言葉に頷きながら、俺は宿屋へと足を向けた。木の扉を開けると、温かみのある明かりが出迎えてくれる。


「一泊、お願いします」


カウンターにいた宿の主人らしき老婆が、穏やかに微笑んだ。


「はいはい、いらっしゃい。今日はどこかでしっかり働いてきたようだね」


「はい、少し」


俺は苦笑しながら答えた。案内された部屋は、簡素だが清潔だった。ベッドに腰を下ろすと、一日分の疲労が一気に押し寄せてくるような気がした。


窓の外を見ると、村の灯りがぽつぽつと灯り始めている。この世界に来て、まだ一日も経っていない。それなのに、ずいぶん長い一日だったように感じられた。


「ミラ、明日は……」


呼びかけようとして、俺は言葉を止めた。急いで決める必要はない。今はただ、この身体を休めることだけを考えたかった。


目を閉じる。三ヶ月前とは違う、痛みのない、静かな眠りが訪れようとしていた。


三十日という数字は、まだ頭のどこかで静かに動き続けている。それでも今は、この一日を、確かに生きたという実感があった。


俺はゆっくりと、意識を手放した。

────────────────────

【ステータス】

名前:リョウ

LV:2

HP:15/15 MP:10/10

STR:6 VIT:8

AGI:6 INT:6


延命ポイント(LP):30日分

所持金:銅貨50枚(+40)

名声:8(+3)


次のレベルまで:91/120


【装備】

胴:革の胸当て


【所持スキル】

・痛覚遮断

・観察眼

・植物知識・初級

・木工の心得・初級(NEW)

────────────────────


最後まで読んでいただきありがとうございました。

初めての一日が、無事に終わりました。

ブックマーク・評価、応援よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。