第六十六話 失われた締切
第5章、第一話です。
どうぞよろしくお願いします。
翌朝、俺は、いつものように、自分のステータスウィンドウを、開いた。
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:49
HP:318/318 MP:222/222
STR:200 VIT:167
AGI:193 INT:125
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そこには、これまで、ずっと、視界の隅に、当たり前のように、存在し続けていた、あの項目が――なかった。
「延命ポイント……」
俺は、思わず、呟いた。
「ミラ、俺の、LP、表示が……」
呼びかけに、視界の端に、淡い光が集まった。
「はい。現実世界での、余命宣告の撤回に伴い、あなたのLP項目は、システム上、非表示に、切り替わりました」
「消えた、わけじゃ、ないんですか」
「概念としては、存在し続けています。ただ、あなたにとって、それが、"見える必要のない数字"に、なった、ということです」
その説明に、俺は、しばらく、自分の掌を、見つめていた。三十日という数字から、始まった、この物語。その数字が、いつしか、俺の日常の、当たり前の一部に、なっていた。それが今――消えた。
「なんだか、変な、感覚です」
俺の呟きに、ミラは、静かに、答えた。
「それは、自然なことだと思います。長く抱えてきた重荷が、急になくなれば、誰でも、戸惑うものです」
朝食の席で、俺は、その、微妙な感覚を、ユイとタクトに、話した。
「分かる、気がします」
ユイが、静かに、頷いた。
「私も、正直、まだ、実感が、追いついてないんです。リョウさんが、もう、あの、切実な締切から、解放されたってこと」
「タクトさんは、どうですか」
俺の問いに、タクトは、少し、考えてから、答えた。
「俺も、まだ、LP、残ってます。でも……以前より、ずっと、余裕がある数字です。正直、リョウさんほど、切羽詰まった気持ちは、ないんですけど」
「これから、どうするか、考えてます?」
俺の問いに、タクトは、少し、照れくさそうに、笑った。
「実は、現実の方で、少し、動きがあって。担当医の先生から、リハビリの、新しいプログラムを、勧められたんです。Elysiumでの、経験を踏まえて、専門的な、訓練にも、繋げられるんじゃないかって」
「それは……」
「はい。だから、俺も、いつか、こっちを、卒業する日が、来るのかもしれません」
その言葉に、俺は、複雑な、しかし、確かな、喜びを、感じた。
朝食を終えると、俺たちは、いつも通り、ギルドへと向かった。だが、俺の足取りは、以前と、どこか、違っていた。
「観察眼……看破の真眼」
俺は、掲示板の依頼書に、意識を、向けた。だが、これまでのように、切実な、経験値やLPへの、渇望は、そこに、なかった。
「なんだか、俺、これから、何を、目指せばいいのか、少し、分からなくなってます」
俺の呟きに、ユイが、静かに、俺を、見つめた。
「無理に、何かを、目指す必要、ないんじゃないですか」
「そう、なんでしょうか」
「はい。リョウさんは、ずっと、必死に、生きようとしてきました。その必死さの、理由の一つが、なくなったなら――今度は、純粋に、自分が、やりたいことを、やればいいと、思います」
ユイの言葉に、俺は、しばらく、考え込んだ。
「俺が、やりたいこと……」
俺は、これまでの旅を、改めて、振り返ってみた。銀葉草の採取。木材の伐採。調合。討伐。仲間との、出会い。そして、この世界の、根幹に関わる、真実との対峙。
その全ての中で、俺が、本当に、大切にしてきたものは、何だったのか。
「俺、この世界の、まだ見ぬ場所を、もっと、見てみたいです」
俺の言葉に、ユイが、微笑んだ。
「それで、いいと、思います」
その日、俺たちは、あえて、依頼を受けず、村の周辺を、ゆっくりと、散策することにした。銀葉草の丘、木材伐採の森、あの、初めての依頼を受けた、ギルドの内部。
「懐かしいですね」
タクトの言葉に、俺は、頷いた。
「はい。この村から、全部、始まりました」
「クロト、どこ行ったんでしょうね」
ユイの問いに、俺は、少し、考えた。
「多分、また、模擬戦の相手でも、探してるんじゃないでしょうか」
その言葉通り、村の広場に、クロトの姿が、あった。彼は、村の若い冒険者たちに、剣の指導を、しているようだった。
「クロト」
俺の呼びかけに、クロトが、こちらを、振り返った。
「おう、来たか」
「何、してるんですか」
俺の問いに、クロトは、少し、照れくさそうに、答えた。
「いや、この村の、新人連中に、少し、稽古つけてただけだ。討伐一辺倒だった、俺の経験も、少しは、役に立つかと思ってな」
その言葉に、俺は、確かな、変化を、感じた。
「クロトも、変わりましたね」
俺の言葉に、クロトは、肩をすくめた。
「お前と、色々あって、考えさせられたからな」
俺たちは、しばらく、村の広場で、他愛のない、会話を、続けた。ふと、俺は、視界の端に、見慣れない、通知が浮かんでいることに、気づいた。
【システム通知】
Elysium運営元より、全巡礼者へのお知らせ
再構築プロセス、第一段階が完了しました
詳細は、各ギルド支部にて、確認できます
「これは……」
俺の呟きに、皆が、それぞれ、視線を、通知に向けた。
「見に行きましょうか」
俺の提案に、皆が、頷いた。俺たちは、ギルドへと、向かった。
受付には、既に、多くの巡礼者たちが、集まっていた。掲示板に、大きな、告知文が、貼り出されている。
「『再構築プロセス、第一段階完了について』……」
俺は、その文面を、慎重に、読み進めた。
『これまでのLPシステムの、総量制ルールについて、段階的な、見直しを、開始します。今後、成長経験値の獲得効率を、全体的に、向上させ、討伐に頼らずとも、着実な成長が、可能となるよう、調整を、進めています』
その一文に、俺は、思わず、目を、見開いた。
「これって……」
「成長経験値の、効率が、上がるってことですよね」
ユイの言葉に、俺は、頷いた。かつて、俺が、あれほど、苦労して積み上げてきた、"奪わない道"。その険しさが、今、確かに、緩和されようとしていた。
「俺の、選んだ生き方が、この世界の、これからの、標準に、なっていくのかもしれません」
俺の呟きに、タクトが、感慨深そうに、頷いた。
「リョウさんが、ずっと、貫いてきたことが、間違いじゃなかったって、証明されたみたいですね」
その言葉に、俺は、少し、照れくさくなりながらも、確かな、誇らしさを、感じていた。
掲示板には、さらに、続きの文面が、記されていた。
『また、今後、討伐によるLP移動についても、より、透明性の高い、仕組みへと、移行する予定です。詳細は、追って、お知らせします』
「まだまだ、変わっていくみたいですね」
俺の言葉に、皆が、頷いた。
「これから、この村や、カレナ、帝都、そして、異国――色んな場所で、変化が、起きていくんでしょうね」
ユイの言葉に、俺は、頷いた。
「はい。俺も、その変化を、見届けたいです」
その日の夕方、俺は、久しぶりに、一人で、村の井戸のそばに、腰を下ろした。この、全てが始まった場所。
「ここから、随分、遠くまで、来たな」
俺は、静かに、独り言のように、呟いた。
視界の端に、ミラの、淡い光が、現れた。
「何か、考え事、ですか」
「はい。これから、何を、していけばいいのか。まだ、はっきりとは、分からないんですけど」
「焦る必要は、ないと、思います」
ミラの言葉に、俺は、頷いた。
「はい。少しずつ、考えていきます」
夕暮れの光が、村を、優しく、包み込んでいく。三十日という、当初の締切は、もう、俺の中に、存在しない。だが、その代わりに――俺の前には、これまでにない、広く、自由な、未来が、確かに、広がり始めていた。
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:49
HP:318/318 MP:222/222
STR:200 VIT:167
AGI:193 INT:125
所持金:銀貨182枚
名声:1,590
満腹度:58/100
次のレベルまで:8,200/53,500
【冒険者ランク】
A
【装備】
胴:砂塵避けの軽装ローブ
武器:嵐風の双牙
足:革のブーツ
装飾:魔力の指輪
腕:風霊の腕輪
携帯品:長期保存食・船上用軽量ブーツ(ユイ)・耐水加工の籠手
【所持スキル】
・痛覚遮断
・看破の真眼
・植物知識・中級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
・回復魔法・上級
・回避の心得・上級
・風纏・中級
・身体強化・中級
・文献解読・初級
・並列詠唱・上級
・対人戦の心得・初級
・灼熱耐性・初級
・風刃・初級
・調停の心得・初級
【称号】
・一線を越えた者
・世界の歪みを正した者
・簒奪者
・世界の選択者
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
第5章、開幕です。
締切のない日々、そして、変わり始める世界。
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