第五十七話 もう一人の自分
第五十七話です。
どうぞよろしくお願いします。
フードの奥の顔が、少しずつ、光の中で、はっきりと、見えてくる。
俺は、思わず、息を、呑んだ。
それは――俺自身の顔、だった。
「な……」
隣で、ユイが、驚愕の声を、漏らした。
「これは……」
クロトも、警戒しながら、俺と、その人影を、交互に、見比べていた。
「観察眼……看破の瞳」
俺は、震える手で、スキルを、発動させた。
【解析中……】
【リョウ(記録データ)】
LV:2
状態:時間凍結中、削除保留
「記録、データ……?」
その表示に、俺は、しばらく、言葉を失った。
もう一人の俺――いや、正確には、俺の"記録"らしき存在が、静かに、口を開いた。
「……ようやく、来てくれた」
その声は、確かに、俺自身の声だった。だが、どこか、遠く、掠れたような、響きを、伴っていた。
「あなたは……一体……」
俺の問いに、その存在は、静かに、答えた。
「私は、お前が、LPの補正処理を受けた、あの時――上書きされる前の、お前の、記録だ」
その言葉に、俺は、あの日の記憶を、鮮明に、思い出した。帝都で、ミラから告げられた、LPの真実。30日という数字が、実は、17.5日に、訂正された、あの瞬間。
「あの補正処理で、俺の、以前のデータが……」
「ああ。本来なら、上書きされ、消去されるはずだった。だが――なぜか、この森の、システムエラー領域に、断片として、取り残された」
その説明に、俺は、複雑な、感情を、抱いた。もう一人の自分――それは、俺が、これまで生きてきた時間の、"もしも"の姿だった。
「お前は、これから、どうなるんだ」
俺の問いに、その存在は、静かに、首を、振った。
「分からない。ただ――このまま、放置されれば、いずれ、この時間凍結領域ごと、システムから、完全に、消去される可能性がある」
「消去、って……」
ユイが、思わず、声を、上げた。
「それは、あなたにとって、危険なことなんじゃ……」
俺の記録――もう一人の俺は、静かに、微笑んだ。
「私は、既に、お前という、本体が、確かに、存在している。ある意味で、私は、"余剰"な存在に、過ぎない」
その言葉に、俺は、強い、違和感を、覚えた。
「余剰、なんかじゃない。お前は、確かに、あの時、俺が、生きようとしてた、記録なんだから」
俺の言葉に、もう一人の俺は、少し、驚いたように、目を、見開いた。
「お前は、この現状を、どうしたいんだ」
俺の問いに、その存在は、しばらく、考え込んだあと、静かに、答えた。
「正直、分からない。ただ――もし、可能なら、このまま、消えてしまう前に、伝えておきたいことが、ある」
「伝えたいこと?」
「私が、あの頃、まだ、17.5日という、真実を、知らなかった頃――俺は、正直、まだ、心のどこかで、楽観していた。三十日、あるいは、それ以上、時間があると、思い込んでいた」
俺の記録は、静かに、続けた。
「その油断が、もしかしたら、お前が、後に、より大きな、危険に、巻き込まれる、遠因に、なったのかもしれない」
「それは……」
「サイラスとの一件、覚えているか。あの時、お前が、初めて、プレイヤーを、討伐することになった、あの瞬間」
その言葉に、俺は、深く、頷いた。
「もし、あの時、俺が――いや、"私"が、もっと早く、正確な残り時間を、認識していたら。もっと、慎重な、判断が、できていたかもしれない」
その、静かな、後悔の言葉に、俺は、しばらく、何も、言えなかった。
「でも、それは、俺の、選択でもあった」
俺は、ようやく、言葉を、絞り出した。
「お前――いや、俺の、以前の判断を、否定するつもりはない。あの時、あの状況で、俺は、俺なりに、必死だった。それは、今も、変わらない」
俺の言葉に、もう一人の俺は、静かに、頷いた。
「それを、聞けて、良かった」
その時、周囲の光が、急速に、揺らぎ始めた。
「時間が、ないみたいだ」
俺の記録が、静かに、告げた。
「私は、ここで、消える。だが――お前には、伝えておきたいことが、もう一つ、ある」
「なんだ」
「これから、お前が、直面する、この世界の、大きな岐路。その選択の中で――決して、"楽観"を、選ぶな。常に、最悪の可能性を、見据えながら、進んでほしい」
その言葉には、確かな、重みが、あった。
「分かった。約束する」
俺の答えに、もう一人の俺は、静かに、微笑んだ。
「ありがとう。それと――」
その姿が、少しずつ、光の粒子となって、薄れ始めていた。
「お前が、選んだ、あの、奪わない道。俺は、正直、誇りに、思ってる」
その言葉を、最後に、もう一人の俺の姿は、完全に、消えていった。周囲の、時間凍結領域も、静かに、その光を、失っていく。
俺は、しばらく、その場に、立ち尽くしていた。
「大丈夫、ですか」
ユイの、心配そうな、声に、俺は、ようやく、我に返った。
「はい……。ただ、色々、考えさせられました」
俺は、静かに、自分の胸に、手を当てた。
「あれは、俺の、もう一つの、可能性だったのかもしれません。今の俺が、選ばなかった、道の、記録」
クロトが、少し、神妙な表情で、口を開いた。
「妙な、感覚だな。自分自身と、対峙するっていうのは」
「はい。でも――大事なことを、教えてもらえた気がします」
俺は、視界の端に、まだ、消えずに残っていた、一つの通知に、気づいた。
【特殊イベントを完了しました】
「もう一人の記憶との邂逅」
【スキルが成長しました】
「看破の瞳」 → 「看破の真眼」
【看破の真眼】
自身を含む、あらゆる対象の、
本質的な情報を、より深く、洞察できるようになる
「これは……」
俺は、新しく育った、スキルの名を、静かに、確認した。
「この森、まだ、他にも、何か、あるかもしれません」
俺の言葉に、皆が、頷いた。
「調べてみましょう。ここまで来たんですから」
タクトの提案に、俺たちは、さらに、森の奥へと、足を進めることにした。
だが、その前に――俺は、もう一度、あの、光が消えた場所を、静かに、見つめた。
「ありがとう。俺の、もう一つの、可能性」
その呟きは、静かな、森の空気に、溶けていった。
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:42
HP:248/248 MP:172/172
STR:160 VIT:132
AGI:145 INT:98
延命ポイント(LP):30.4日分
所持金:銀貨94枚
名声:1,010
満腹度:40/100
次のレベルまで:1,800/33,000
【冒険者ランク】
B
【装備】
胴:砂塵避けの軽装ローブ
武器:嵐風の双牙
足:革のブーツ
装飾:魔力の指輪
携帯品:長期保存食・船上用軽量ブーツ(ユイ)・耐水加工の籠手
【所持スキル】
・痛覚遮断
・看破の真眼(進化)
・植物知識・中級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
・回復魔法・上級
・回避の心得・上級
・風纏・中級
・身体強化・中級
・文献解読・初級
・並列詠唱・上級
・対人戦の心得・初級
・灼熱耐性・初級
・風刃・初級
・調停の心得・初級
【称号】
・一線を越えた者
・世界の歪みを正した者
・簒奪者
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
消去されるはずだった、もう一人の自分との邂逅。
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