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「命を喰うレベルアップ ―僕は誰かの余命で強くなる―」  作者: 黒豚
第4章 境界線の向こう側

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第五十七話 もう一人の自分

第五十七話です。

どうぞよろしくお願いします。


フードの奥の顔が、少しずつ、光の中で、はっきりと、見えてくる。


俺は、思わず、息を、呑んだ。


それは――俺自身の顔、だった。


「な……」


隣で、ユイが、驚愕の声を、漏らした。


「これは……」


クロトも、警戒しながら、俺と、その人影を、交互に、見比べていた。


「観察眼……看破の瞳」


俺は、震える手で、スキルを、発動させた。


【解析中……】

【リョウ(記録データ)】

LV:2

状態:時間凍結中、削除保留


「記録、データ……?」


その表示に、俺は、しばらく、言葉を失った。


もう一人の俺――いや、正確には、俺の"記録"らしき存在が、静かに、口を開いた。


「……ようやく、来てくれた」


その声は、確かに、俺自身の声だった。だが、どこか、遠く、掠れたような、響きを、伴っていた。


「あなたは……一体……」


俺の問いに、その存在は、静かに、答えた。


「私は、お前が、LPの補正処理を受けた、あの時――上書きされる前の、お前の、記録だ」


その言葉に、俺は、あの日の記憶を、鮮明に、思い出した。帝都で、ミラから告げられた、LPの真実。30日という数字が、実は、17.5日に、訂正された、あの瞬間。


「あの補正処理で、俺の、以前のデータが……」


「ああ。本来なら、上書きされ、消去されるはずだった。だが――なぜか、この森の、システムエラー領域に、断片として、取り残された」


その説明に、俺は、複雑な、感情を、抱いた。もう一人の自分――それは、俺が、これまで生きてきた時間の、"もしも"の姿だった。


「お前は、これから、どうなるんだ」


俺の問いに、その存在は、静かに、首を、振った。


「分からない。ただ――このまま、放置されれば、いずれ、この時間凍結領域ごと、システムから、完全に、消去される可能性がある」


「消去、って……」


ユイが、思わず、声を、上げた。


「それは、あなたにとって、危険なことなんじゃ……」


俺の記録――もう一人の俺は、静かに、微笑んだ。


「私は、既に、お前という、本体が、確かに、存在している。ある意味で、私は、"余剰"な存在に、過ぎない」


その言葉に、俺は、強い、違和感を、覚えた。


「余剰、なんかじゃない。お前は、確かに、あの時、俺が、生きようとしてた、記録なんだから」


俺の言葉に、もう一人の俺は、少し、驚いたように、目を、見開いた。


「お前は、この現状を、どうしたいんだ」


俺の問いに、その存在は、しばらく、考え込んだあと、静かに、答えた。


「正直、分からない。ただ――もし、可能なら、このまま、消えてしまう前に、伝えておきたいことが、ある」


「伝えたいこと?」


「私が、あの頃、まだ、17.5日という、真実を、知らなかった頃――俺は、正直、まだ、心のどこかで、楽観していた。三十日、あるいは、それ以上、時間があると、思い込んでいた」


俺の記録は、静かに、続けた。


「その油断が、もしかしたら、お前が、後に、より大きな、危険に、巻き込まれる、遠因に、なったのかもしれない」


「それは……」


「サイラスとの一件、覚えているか。あの時、お前が、初めて、プレイヤーを、討伐することになった、あの瞬間」


その言葉に、俺は、深く、頷いた。


「もし、あの時、俺が――いや、"私"が、もっと早く、正確な残り時間を、認識していたら。もっと、慎重な、判断が、できていたかもしれない」


その、静かな、後悔の言葉に、俺は、しばらく、何も、言えなかった。


「でも、それは、俺の、選択でもあった」


俺は、ようやく、言葉を、絞り出した。


「お前――いや、俺の、以前の判断を、否定するつもりはない。あの時、あの状況で、俺は、俺なりに、必死だった。それは、今も、変わらない」


俺の言葉に、もう一人の俺は、静かに、頷いた。


「それを、聞けて、良かった」


その時、周囲の光が、急速に、揺らぎ始めた。


「時間が、ないみたいだ」


俺の記録が、静かに、告げた。


「私は、ここで、消える。だが――お前には、伝えておきたいことが、もう一つ、ある」


「なんだ」


「これから、お前が、直面する、この世界の、大きな岐路。その選択の中で――決して、"楽観"を、選ぶな。常に、最悪の可能性を、見据えながら、進んでほしい」


その言葉には、確かな、重みが、あった。


「分かった。約束する」


俺の答えに、もう一人の俺は、静かに、微笑んだ。


「ありがとう。それと――」


その姿が、少しずつ、光の粒子となって、薄れ始めていた。


「お前が、選んだ、あの、奪わない道。俺は、正直、誇りに、思ってる」


その言葉を、最後に、もう一人の俺の姿は、完全に、消えていった。周囲の、時間凍結領域も、静かに、その光を、失っていく。


俺は、しばらく、その場に、立ち尽くしていた。


「大丈夫、ですか」


ユイの、心配そうな、声に、俺は、ようやく、我に返った。


「はい……。ただ、色々、考えさせられました」


俺は、静かに、自分の胸に、手を当てた。


「あれは、俺の、もう一つの、可能性だったのかもしれません。今の俺が、選ばなかった、道の、記録」


クロトが、少し、神妙な表情で、口を開いた。


「妙な、感覚だな。自分自身と、対峙するっていうのは」


「はい。でも――大事なことを、教えてもらえた気がします」


俺は、視界の端に、まだ、消えずに残っていた、一つの通知に、気づいた。


【特殊イベントを完了しました】

「もう一人の記憶との邂逅」


【スキルが成長しました】

「看破の瞳」 → 「看破の真眼」


【看破の真眼】

自身を含む、あらゆる対象の、

本質的な情報を、より深く、洞察できるようになる


「これは……」


俺は、新しく育った、スキルの名を、静かに、確認した。


「この森、まだ、他にも、何か、あるかもしれません」


俺の言葉に、皆が、頷いた。


「調べてみましょう。ここまで来たんですから」


タクトの提案に、俺たちは、さらに、森の奥へと、足を進めることにした。


だが、その前に――俺は、もう一度、あの、光が消えた場所を、静かに、見つめた。


「ありがとう。俺の、もう一つの、可能性」


その呟きは、静かな、森の空気に、溶けていった。

────────────────────

【ステータス】

名前:リョウ

LV:42

HP:248/248 MP:172/172

STR:160 VIT:132

AGI:145 INT:98


延命ポイント(LP):30.4日分

所持金:銀貨94枚

名声:1,010

満腹度:40/100


次のレベルまで:1,800/33,000


【冒険者ランク】

B


【装備】

胴:砂塵避けの軽装ローブ

武器:嵐風の双牙

足:革のブーツ

装飾:魔力の指輪

携帯品:長期保存食・船上用軽量ブーツ(ユイ)・耐水加工の籠手(タクト)


【所持スキル】

・痛覚遮断

・看破の真眼(進化)

・植物知識・中級

・木工の心得・初級

・調合の心得・初級

・回復魔法・上級

・回避の心得・上級

・風纏・中級

・身体強化・中級

・文献解読・初級

・並列詠唱・上級

・対人戦の心得・初級

・灼熱耐性・初級

・風刃・初級

・調停の心得・初級


【称号】

・一線を越えた者

・世界の歪みを正した者

・簒奪者

────────────────────


最後まで読んでいただきありがとうございました。

消去されるはずだった、もう一人の自分との邂逅。

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