第四十九話 運営者
第四十九話です。
どうぞよろしくお願いします。
街に戻った俺たちは、その足で、ナディアのもとを訪れ、「始まりの記憶」で見た内容を、報告した。
「Elysium創設の、本当の理念……」
ナディアは、資料を読みながら、険しい表情を、崩さなかった。
「これは、私の一存では、扱いきれない情報だ。帝都の、セリア殿にも、すぐに、共有すべきだろう」
俺たちは、その日のうちに、通信の魔道具を使い、帝都のセリアに、連絡を取った。
「その情報……」
セリアの声には、はっきりとした、緊張が滲んでいた。
「実は、こちらでも、動きがありました。現実世界の、Elysium運営元から、極めて異例の、接触があったんです」
「接触、というのは」
俺の問いに、セリアは、慎重に、言葉を選びながら、続けた。
「運営元の、上級管理者を名乗る人物から、ギルド本部に、直接、通信がありました。あなた方が、"始まりの記憶"に、アクセスしたことを、既に、把握しているようです」
その言葉に、俺は、背筋が、冷たくなるのを、感じた。
「なぜ、それを……」
「詳しいことは、分かりません。ですが――その人物は、創設理念の記録が、外部に、広まることを、強く、懸念しているようでした」
セリアは、一度、言葉を区切った。
「現実世界では今、Elysiumプロジェクトの存続そのものが、審議されている最中です。もし、初期段階で、意識障害のリスクや、精神摩耗の問題を、把握していながら、それを、公にせず、ゲーム性の追加で、誤魔化してきたという事実が、明るみに出れば――」
「訴訟問題、あるいは、事業停止に、繋がりかねない、ということですか」
俺の言葉に、セリアは、静かに、頷いた。
「その通りです。だからこそ、あの記憶保護システムは、単なる、ゲーム内のギミックではなく――現実の、利害関係を背景にした、極めて、意図的な、防衛機構だったのかもしれません」
その説明に、俺は、深く、考え込んだ。ファンタジーの世界の中で起きていたことの裏に、現実の、生々しい思惑が、確かに、存在していた。
「これから、どうなるんですか」
俺の問いに、セリアは、少し、間を置いてから、答えた。
「正直、私にも、読み切れません。ただ――一つ、警告しておきます。運営側が、本気で、この情報の拡散を、阻止しようとするなら、次に、何らかの、実力行使に、出てくる可能性があります」
その言葉通り、翌日、俺たちは、その予兆を、目の当たりにすることになった。
ラシャールのギルドを訪れると、掲示板に、これまで見たことのない、緊急指名依頼が、貼り出されていた。
【緊急依頼:異端者の確保】
対象:巡礼者・リョウ、及びその関係者
依頼者:運営直属機関
「これって……」
俺は、思わず、その依頼書を、まじまじと見つめた。俺自身が、指名手配のような形で、討伐対象に、されていた。
「そんな……」
ユイが、青ざめた表情で、俺を見た。
「これ、受けるプレイヤー、いるんでしょうか」
タクトの問いに、俺は、看破の瞳を、街の様子に、向けた。
【解析中……】
【???】LV:60(複数)
反応:複数、この街周辺に、集中
「かなりの数、集まってきてます」
俺の言葉に、サーラが、震える声で、呟いた。
「運営が、直接、賞金首みたいな扱いにしたなら……冒険者として、断りきれない人も、出てくるはずよ」
その予感は、すぐに、現実のものとなった。街の外れ、俺たちが移動していた通りに、複数のプレイヤーが、行く手を、塞いだ。
「悪いな、あんたら。依頼料、破格だったもんでな」
先頭に立つ、屈強な男が、そう言いながら、武器を構えた。
「話し合いの、余地は……」
俺の問いに、男は、首を振った。
「金は、金だ。恨みはないが、これも、仕事だからな」
戦いは、避けられなかった。俺は、風纏、身体強化、並列詠唱を、一気に発動させる。
「ユイさん、タクトさん、いつも通り!」
「はい……!」
「サーラさんは、下がっていてください!」
俺たちは、周囲を囲む、複数のプレイヤーと、対峙した。
【解析中……】
【賞金稼ぎ・A】LV:58
【賞金稼ぎ・B】LV:62
【賞金稼ぎ・C】LV:55
これまでのモンスターとは、また違う、読み合いの緊張感があった。
「対人戦の心得、使います」
俺は、育ったスキルで、相手の動きの癖を、注意深く、探った。
一人が、俺に向かって、剣を、振り下ろしてきた。俺は、回避の心得・上級で、それを、かわす。
「風刃!」
俺は、隙を突き、攻撃魔法を、放った。相手は、それを、なんとか、防いだが、僅かに、体勢を崩す。
「今です!」
俺は、その隙に、嵐風の双牙で、確実に、相手の武器を、弾き飛ばした。だが――今回は、LPを奪う一撃は、放たなかった。あくまで、無力化に、留める。
「なんで、とどめを、刺さねえ……」
倒れた男が、掠れた声で、そう尋ねた。
「あなたたちは、恨みで、動いてるわけじゃない。依頼として、仕方なく、やってるだけです。だったら、俺も、必要以上のことは、しません」
俺の言葉に、男は、驚いたように、目を見開いた。
ユイとタクトも、それぞれ、他の賞金稼ぎたちを、着実に、無力化していった。
【賞金稼ぎ集団を撃退しました】
【討伐に準ずる貢献経験値を獲得しました】経験値:+2,900
戦いが終わると、俺たちは、詰めていた息を、大きく吐いた。
「これから、こういうことが、続くんでしょうか」
ユイの不安げな問いに、俺は、静かに、答えた。
「多分。でも――」
俺は、拳を、静かに、握りしめた。
「俺たちがやったことは、間違ってないと思ってます。この世界の、本当の姿を、知ること。それを、諦めるつもりは、ないです」
その言葉に、サーラが、力強く、頷いた。
「私も、あなたたちと、一緒に、戦うわ」
俺は、改めて、自分のステータスを、確認した。
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延命ポイント(LP):29.9日分
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数字は、ほとんど、変わっていなかった。だが、この戦いの意味は、単純なLPの増減を、遥かに超えたものになっていた。現実という名の戦場――その言葉の意味を、俺は今、確かに、実感し始めていた。
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:37
HP:215/215 MP:150/150
STR:140 VIT:115
AGI:128 INT:85
延命ポイント(LP):29.9日分
所持金:銀貨94枚
名声:871(+30)
満腹度:30/100(要注意)
次のレベルまで:6,100/26,000
【冒険者ランク】
B
【装備】
胴:砂塵避けの軽装ローブ
武器:嵐風の双牙
足:革のブーツ
装飾:魔力の指輪
携帯品:長期保存食・船上用軽量ブーツ(ユイ)・耐水加工の籠手
【所持スキル】
・痛覚遮断
・看破の瞳
・植物知識・中級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
・回復魔法・上級
・回避の心得・上級
・風纏・中級
・身体強化・中級
・文献解読・初級
・並列詠唱・上級
・対人戦の心得・初級
・灼熱耐性・初級
・風刃・初級
【称号】
・一線を越えた者
・世界の歪みを正した者
・簒奪者
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
現実世界の思惑が、ついに、ゲーム内にまで及び始めました。
「現実という名の戦場」——その意味が、明らかに。
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