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「命を喰うレベルアップ ―僕は誰かの余命で強くなる―」  作者: 黒豚
第1章「三十日のログイン」

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第四話 銀葉草

第四話です。

どうぞよろしくお願いします。


ギルドを出ると、朝とも夕方ともつかない柔らかな光が、村全体を包んでいた。俺は依頼書に描かれた簡単な絵を、もう一度確認した。細長い葉、裏側が銀色に光る植物――「銀葉草」というらしい。


「西の草原に自生している、と聞きました」


俺が呟くと、隣を歩くミラが頷いた。


「はい。村の西門を出てすぐの丘陵地帯に、比較的多く見られます。ご案内しましょうか」


「いえ、大丈夫です。自分で探してみます」


俺は村の西門へと向かった。門番らしきNPCに軽く会釈をして通り過ぎる。門をくぐると、なだらかな丘陵地帯が広がっていた。草の一本一本が、風に合わせて銀色の光をちらつかせている。


「これが、全部銀葉草ってわけじゃ、ないんですよね」


「はい。銀葉草は、葉の裏側にのみ光沢があります。表からでは、普通の草と見分けがつきにくいです」


俺はしゃがみ込み、目の前の草を一本、そっと持ち上げてみた。裏返してみると、ただの緑色だった。違う。次の一本を試す。これも違う。


ふと、俺は「観察眼」のことを思い出した。人や魔物だけでなく、植物にも使えるのだろうか。試しに、目の前の草むら全体に意識を集中させてみる。


【解析中……】

【草むら】

銀葉草の反応:微弱に検出


視界の中で、草むらの一部が、ごくうっすらとした輪郭で強調されて見えた。半信半疑で、その辺りを探ってみる。


「あった」


三本目にして、ようやく銀色の裏側を持つ葉を見つけた。摘み取ると、視界の端に通知が浮かぶ。


【銀葉草を1本入手しました】(1/10)

【成長経験値を獲得しました】経験値:+8

(累計 8/50)


「経験値まで、一本ごとに入るんですね」


俺は数字を見ながら聞いた。「50」という数字は、恐らく次のレベルアップまでに必要な量なのだろう。


「はい。今表示されているのは、成長経験値の蓄積量です。次のレベルアップに必要な経験値の総量に対して、現在どれだけ積み上がっているかを示しています」


「経験値って、成長するためのものと、討伐で得られるものと、別々にあるんですか」


「はい。経験値には大きく分けて二種類あります」


ミラは指を一本立てた。


「一つは、今あなたが得ている『成長経験値』。採取や生産、探索など、戦闘を伴わない行為によって得られるものです。サーバー内のLP総量とは無関係に発生します」


もう一本、指を立てる。


「もう一つは『討伐経験値』。モンスターを倒すことで得られる経験値です。こちらは規約第7条の通り、サーバー内の他プレイヤーのLPから徴収される形で発生します」


「モンスターを倒すと、その分、他の誰かのLPが減るってことですよね。前に聞いた通り」


「はい。ただし、一点補足させてください。討伐経験値は、対象によって性質が異なります」


「対象、というと」


「モンスターを討伐した場合の経験値は、モンスターの強さに応じて変動しますが、あくまで一定の範囲に収まります。ですが――」


ミラの声が、わずかに低くなった。


「もし対象が、モンスターではなく、他の巡礼者――つまり他のプレイヤーだった場合。その経験値は、モンスター討伐とは比較にならないほど大きくなります。同時に、相手のLPも、通常の討伐とは比べ物にならないほど大きく失われます」


俺は思わず、手を止めた。


「プレイヤー同士で、戦うことも……できるんですか」


「規約上、禁止されてはいません。ただし、多くの場合、相応の理由やリスクを伴う行為です」


その一言だけで、俺は背筋が冷たくなるのを感じた。奪うか、削られるか。その言葉の意味が、また一段階、重みを増した気がした。


「モンスターの討伐にとどめておく分には、まだ……罪悪感はあっても、理解はできます。でも、プレイヤー同士でそれをやるのは」


「あなたがそう考えるのは、自然なことだと思います」


ミラはそれ以上、多くを語らなかった。俺もまた、それ以上は聞かないことにした。今はまだ、その領域に踏み込む段階ではない気がした。


気を取り直して、俺は採取を再開した。観察眼を頼りにしながら、二本目、三本目と、少しずつペースを上げていく。


【銀葉草を1本入手しました】(4/10)

【成長経験値を獲得しました】経験値:+8

(累計 16/50)


【銀葉草を1本入手しました】(5/10)

【成長経験値を獲得しました】経験値:+9

(累計 25/50)


半分まで来たところで、視界の端に見慣れない通知が浮かんだ。


【新スキルを習得しました】

「植物知識・初級」


「え……スキルが増えるんですか、勝手に」


「はい。特定の行動を一定量繰り返すことで、それに関連するスキルを自然に習得する場合があります。今回は、銀葉草の見分けを繰り返したことで、植物全般への理解が深まったのだと考えられます」


俺は新しいスキルの詳細を開いてみた。


【植物知識・初級】

自生する植物の種類や特性を、

より正確に判別できるようになる

(観察眼との併用で効果上昇)


なるほど、と俺は思った。ただ漫然と作業をこなしているだけでも、この世界は少しずつ、自分を成長させてくれるらしい。それは、誰かから奪う形の成長とは、明らかに違う手触りだった。


実際、このスキルを得てからは、銀葉草を見分ける速度が目に見えて上がった。裏返す前から、なんとなく「これはそうだ」という感覚が働くようになっていた。


【銀葉草を1本入手しました】(6/10)

【成長経験値を獲得しました】経験値:+9

(累計 34/50)


【銀葉草を1本入手しました】(7/10)

【成長経験値を獲得しました】経験値:+10

(累計 44/50)


残り6ということは、もうすぐレベルアップに届くのだろうか。俺は少し期待しながら、次の一本を探した。


「疲れは……そういえば、痛みはないはずなのに、疲労感はあるんですね」


「はい。痛覚遮断のスキルは、あくまで痛みを無効化するものです。疲労や体力の消耗そのものは、通常通り発生します」


「じゃあ、無理をしすぎると」


「HPやスタミナが尽きれば、行動不能になります。もっとも、命に関わるような疲労の蓄積は起きない仕様になっていますので、その点はご安心ください」


俺は少しだけ肩の力を抜いた。この身体は、痛みこそ感じないが、それでも"限界"のようなものは存在するらしい。無茶をしすぎないよう気をつけようと、頭の片隅にメモをしておいた。


残りの薬草を探しながら、俺は改めて、この地道な作業が嫌いではないと感じている自分に気づいた。誰かを傷つけることもなく、誰かの時間を奪うこともなく、ただ自分のペースで、少しずつ何かを積み上げていく。それは、三十日という残り時間を意識せずにはいられない今の俺にとって、数少ない、心穏やかでいられる時間だった。


九本目を摘み取ったところで、日が少しだけ傾き始めているのに気づいた。


【銀葉草を1本入手しました】(9/10)

【成長経験値を獲得しました】経験値:+10

(累計 54/50)


視界の端に、新しい通知が浮かんだ。


【レベルアップ!】

LV:1 → LV:2

(次のレベルまで:120)


「え……もう?」


思わず声が出た。まだ最後の一本を採り終えてすらいなかった。


「累計の経験値が、必要量である50を超えたためです」


ミラが説明を添えた。


「ちなみに、今回のように必要経験値が50程度で済むのは、あくまで序盤の話です。レベルが上がるにつれて、次のレベルに必要な経験値量は大きく増えていきます」


「次は120、必要ってことですよね」


「はい。今回の倍以上です」


俺は小さく頷いた。今はまだ、それでいい。誰かの時間を、一秒も奪うことなく――俺は、確かに強くなった。それだけで、今は十分だった。


「あと一本ですね」


俺は最後の一本を探して、丘の斜面をゆっくりと歩き続けた。川のせせらぎが近くから聞こえてきて、水辺に近い場所は他より草の育ちがいいのかもしれないと、そちらへ足を向ける。


案の定、川沿いには銀葉草らしき群生が見つかった。植物知識のおかげか、今度はほとんど迷わず、一本の葉を見分けることができた。


【銀葉草を1本入手しました】(10/10)

【成長経験値を獲得しました】経験値:+5

(累計 9/120)


「あれ……」


俺は思わず、通知を二度見した。さっきまでは8から11の間で増えていた数値が、急に半分以下になっている。


「経験値が、さっきより少ないんですけど。同じ採取なのに」


「はい。それは間違いではありません」


ミラは静かに頷いた。


「成長経験値は、レベルが上がるごとに、同じ行為から得られる量が減っていく仕様になっています。LV1のあなたが得ていた経験値と、LV2になった今のあなたが得る経験値は、同じ『銀葉草の採取』であっても、価値が異なるということです」


「そんな……」


俺は思わず、声を漏らした。せっかく見つけた"奪わない成長"の道が、レベルを重ねるごとに細くなっていくというのは、決して喜べる話ではなかった。


「しかも、この減り方は一定ではありません。レベルが上がるほど、減少の度合いは加速していきます。低いレベルのうちはまだ緩やかですが、いずれ――」


ミラはそこで一度言葉を切った。


「いずれ、成長経験値だけで得られる恩恵は、ごくわずかなものになっていきます」


俺は言葉を失った。奪わずに生きる道は、最初から、時間が経つほど狭くなっていく設計だったということだ。まるで、いつかは奪う側に立つことを、選ばせるための仕組みのように。


「討伐経験値には、そういう減り方は」


「ありません。むしろ、より強いモンスターを討伐対象に選べば、得られる経験値はレベルに応じて大きくなっていきます」


その対比が、今の俺には、ひどく残酷に感じられた。


「揃った……」


呟くように、俺は最後の一本を袋に収めた。地味な作業だったが、これが自分の力だけで積み上げたものだと思うと、じんわりとした達成感があった。それでも、さっきの説明が、その達成感に小さな影を落としていた。


「おめでとうございます。これでギルドへの報告が可能です」


俺は袋いっぱいの銀葉草を握りしめ、来た道を村へと戻り始めた。


村の西門をくぐり、俺はまっすぐギルドへと向かった。扉を開けると、朝と同じ受付の女性がカウンターに立っていた。


「お戻りになりましたね。依頼の達成状況は」


「はい、十本、揃いました」


俺は袋の中身をカウンターに置いた。受付の女性は一本一本を丁寧に確認していく。


「確かに、状態の良い銀葉草ですね。素晴らしい出来です」


「本当ですか」


「はい。中には、まだ完全に育ちきっていない葉を採取してしまう方もいらっしゃいますが、これはどれも申し分ありません」


褒められることに、俺は少し照れくささを感じた。三ヶ月間、病室のベッドの上で何もできなかった自分が、誰かに何かを認められる――それだけのことが、こんなにも嬉しいとは思わなかった。


「では、報酬をお渡しします」


受付の女性がカウンターの下から小さな革袋を取り出し、俺に手渡した。


【依頼達成】

薬草採取依頼


報酬を獲得しました

・成長経験値:+35(達成報酬)

(累計 44/120)

・銅貨:50枚

・名声:+5


「名声……?」


聞き慣れない項目に、俺は首を傾げた。ミラが説明を引き継ぐ。


「名声は、この世界における、あなたの信頼や評判を数値化したものです。依頼の達成や、住人への貢献によって蓄積されていきます」


「これって、何かに使えるんですか」


「一定の名声を得ると、特別な依頼を受けられるようになったり、村や街での扱いが変わったりします。今はまだ、実感できるほどの段階ではないと思いますが」


俺は自分のステータスを開いてみた。名声という新しい項目が、確かに追加されている。数値はまだ、たったの5だった。


受付の女性が、微笑みながら言った。


「おめでとうございます。冒険者としての、初めての一歩ですね」


俺は袋の中の銅貨を、そっと握りしめた。50枚という金額が多いのか少ないのか、俺にはまだ分からなかった。だが、これが自分の力で稼いだ、初めての報酬だということだけは、確かだった。


ギルドを出ると、空はすっかり夕暮れのような色に染まっていた。俺はしばらく、その景色を見上げていた。


次のレベルアップまで、あと76。奪わない歩みは、この先どんどん細くなっていく。それでも今は、この歩き方を信じてみたいと思った。


────────────────────

【ステータス】

名前:リョウ

LV:2(LV1 → LV2)

HP:15/15(+3) MP:10/10(+2)

STR:6(+1) VIT:6(+1)

AGI:6(+1) INT:6(+1)


延命ポイント(LP):30日分

所持金:銅貨50枚

名声:5(NEW)


次のレベルまで:44/120


【所持スキル】

・痛覚遮断

・観察眼

・植物知識・初級(NEW)

────────────────────


最後まで読んでいただきありがとうございました。

初めてのレベルアップと、新しいスキルの習得。

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