第四十話 夜狩の女王
第四十話です。
どうぞよろしくお願いします。
リーザたちとの遭遇から、数日が過ぎた。
俺たちは、警戒を強めながらも、いつも通り、依頼をこなす日々を送っていた。だが、俺の中には、まだ、あの夜の記憶が、確かな重みとして、残り続けていた。
視界の端に、まだ見ていなかった通知が、いくつか残っていることに、俺は、ふと、気づいた。
【実績解除】
「奪う者となりし瞬間」
説明:初めて、プレイヤーを撃破し、
その者の積み上げた力の一部を、
継承した記録
効果:称号「簒奪者」を獲得
(プレイヤー討伐時の共鳴レベル
獲得効率が、僅かに上昇)
「簒奪者……」
俺は、その称号の名を、静かに、口の中で、繰り返した。以前の「一線を越えた者」よりも、さらに、踏み込んだ響きだった。
もう一つ、新しいスキルの通知も、残っていた。
【新スキルを習得しました】
「対人戦の心得・初級」
【対人戦の心得・初級】
プレイヤーとの戦闘時、
相手の動きの癖を、より正確に読み取れる
奪わずに生きる道を、俺は選び続けてきた。だが、その道の途中で、俺は、確かに、この世界の、もう一つの側面に、深く踏み込んでしまっていた。
「リョウさん、大丈夫ですか」
朝食の席で、ユイが、心配そうに、俺の顔を、覗き込んだ。
「はい。ただ、まだ、色々、整理中で」
俺の答えに、ユイは、静かに、頷いた。
その日の午後、俺たちがギルドで、依頼を確認していると、視界の端に、見覚えのある反応が、浮かび上がった。
【解析中……】
【リーザ】LV:42
「来た……」
俺の呟きに、ユイとタクトが、瞬時に、緊張した表情を見せた。
ギルドの入口に、リーザが、一人で、静かに立っていた。以前のような、部下を引き連れた様子は、なかった。
「話が、あるの。少し、時間を、もらえないかしら」
その声には、以前の、余裕に満ちた響きが、僅かに、薄れていた。
俺たちは、警戒しながらも、彼女の話に、耳を傾けることにした。ギルドの応接室に、俺たちは、向かい合って座った。
「単刀直入に、言うわ。あなたと、決着をつけたい」
リーザの言葉に、俺は、身構えた。
「決着、というのは」
「正式な、決闘よ。LPのやり取りが発生しない、闘技場での」
その提案に、俺は、少し意外な思いを、抱いた。
「以前は、LPを、奪うつもりだったはずですよね」
俺の指摘に、リーザは、小さく、笑った。
「ええ。でも、あの夜、あなたの部下――サイラスのレベルが、根こそぎ、持っていかれるのを見て、少し、考えが、変わったの」
「サイラス、というのは」
「あの日、あなたが、討伐した男よ。あいつ、今、ひどく落ち込んでるわ。積み上げてきたものを、一瞬で、失うことの意味、身をもって、知ったみたいね」
リーザの声には、これまでにない、複雑な色合いが、滲んでいた。
「私たち夜狩は、強者を狩ることに、ある種の、意味を見出してきた。でも――今回の一件で、私自身、少し、その"意味"に、疑問を、抱くようになったの」
「それで、正式な決闘、ですか」
「ええ。あなたの実力を、本当の意味で、確かめてみたい。奪う形ではなく、真っ向から」
俺は、しばらく、考えた。この申し出を、受けるべきかどうか。だが、目の前の相手の、真剣な眼差しに、俺は、確かなものを、感じ取っていた。
「分かりました。受けます」
俺の答えに、リーザは、満足そうに、頷いた。
「明日、闘技場で。楽しみにしてるわ」
翌日、俺たちは、カレナの闘技場へと向かった。正式な決闘の手続きを済ませ、俺は、リーザと、向かい合った。観客席には、ユイとタクト、そして、噂を聞きつけた、何人かの冒険者たちの姿があった。
「本気で、来なさい」
リーザの言葉に、俺は、頷いた。
「はい」
開始の合図とともに、リーザが、一気に、間合いを詰めてきた。俺は、風纏と身体強化を、並列詠唱で、同時に発動させる。育った並列詠唱・上級のおかげで、三つ目の支援効果――回避の心得の常時発動も、無理なく、維持できていた。
「対人戦の心得、使います」
俺は、新しく習得したスキルを、意識に乗せた。リーザの動きの、僅かな癖――踏み込みの際、常に、右足から動く傾向が、俺の目に、鮮明に映るようになった。
「あら、成長してるじゃない」
リーザの猛攻を、俺は、以前よりも、確かな精度で、しのぎ続けた。
「看破の瞳!」
【解析中……】
【リーザ】
弱点:右脇腹、隠蔽スキルの効果切れの一瞬
「見えた……!」
以前は検出できなかった弱点が、育った看破の瞳と、対人戦の心得の相乗効果で、ついに、その姿を現した。
「今です!」
俺は、リーザの隙を突き、疾風の双牙を、鋭く振るった。刃が、彼女の脇腹を、掠める。
「やるじゃない」
リーザの表情に、初めて、素直な称賛の色が、浮かんだ。
戦いは、拮抗しながらも、徐々に、俺の方が、優勢になっていった。以前とは違う、確かな成長――クロトとの修行、そして、あの夜の経験。それらすべてが、今、俺の力として、結実していた。
「これで、終わりです」
俺は、最後の踏み込みを放った。リーザは、それを受け止めようとしたが、僅かに、体勢を崩す。短剣が、彼女の得物を、弾き飛ばした。
【模擬戦、終了】
勝者:リョウ
観客席から、大きな歓声が上がった。リーザは、しばらく、その場に立ち尽くしたあと、静かに、微笑んだ。
「完敗ね。あなたの、その、奪わない生き方――やっぱり、嫌いじゃないわ」
「ありがとうございます」
俺は、差し出された手を、握り返した。
「これから、夜狩は、どうするんですか」
俺の問いに、リーザは、少し、考える素振りを見せた。
「正直、まだ、分からない。でも、少なくとも――もう、無闇に、誰かを、狩ることは、しないつもりよ」
その言葉に、俺は、確かな安堵を、覚えた。
「サイラスさん、でしたっけ。あの人にも、伝えてもらえますか。奪ったことに、後悔はないけど、悪いとは思ってるって」
俺の言葉に、リーザは、少し驚いたような表情を見せたあと、小さく、頷いた。
「伝えておくわ。あなたみたいな人間が、この世界に、いるってことも」
リーザたちが、闘技場を去っていくのを、俺たちは、静かに見送った。
「終わった、んですね」
タクトの言葉に、俺は、頷いた。
「はい。一つ、大きな区切りが、ついた気がします」
ギルドに戻ると、決闘の噂を聞きつけたヴォルグが、豪快に、俺の肩を叩いた。
「いい戦いだったらしいな。それに――」
ヴォルグは、少し、真剣な表情になった。
「異国交易船の護衛依頼、まだ、興味あるか。実力も、名声も、十分に、条件を満たしてる」
その言葉に、俺は、ユイとタクトと、顔を見合わせた。
「行きましょうか」
俺の言葉に、二人が、力強く、頷いた。
「まだ見ぬ、この世界の、さらに先へ」
俺は、そう呟きながら、改めて、自分のステータスを確認した。
────────────────────
延命ポイント(LP):27.8日分
────────────────────
奪わない道を選び続けてきた俺は、確かに、一度、その一線を越えた。だが、その経験もまた、俺自身の一部として、確かに、刻まれていた。
「異国、か……。楽しみですね」
ユイの言葉に、俺は、頷いた。窓の外、カレナの空は、どこまでも、青く澄み渡っていた。俺たちの物語は、これから、この国の外へと、新しい一歩を、踏み出そうとしていた。
────────────────────
【ステータス】
名前:リョウ
LV:28
HP:145/145 MP:98/98
STR:92 VIT:80
AGI:90 INT:56
延命ポイント(LP):27.8日分
所持金:銀貨56枚
名声:680(+25)
満腹度:50/100
次のレベルまで:820/12,000
【冒険者ランク】
C
【装備】
胴:軽量強化胸当て
武器:疾風の双牙
足:革のブーツ
装飾:魔力の指輪
携帯品:保存食・簡易野営道具
【所持スキル】
・痛覚遮断
・看破の瞳
・植物知識・初級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
・回復魔法・上級
・回避の心得・上級
・風纏・中級
・身体強化・中級
・文献解読・初級
・並列詠唱・上級
・対人戦の心得・初級(NEW)
【称号】
・一線を越えた者
・世界の歪みを正した者
・簒奪者(NEW)
【フレンド】
・ユイ
・タクト
・クロト
【パーティ】
・ユイ
・タクト
────────────────────
最後まで読んでいただきありがとうございました。
リーザとの決着、そして異国への扉。
ブックマーク・評価、応援よろしくお願いします!




