第三十九話 最後の一線
第三十九話です。
どうぞよろしくお願いします。
男が崩れ落ちた、その直後だった。視界に、続けざまに、いくつもの通知が浮かび上がった。
【対象プレイヤーを撃破しました】
撃破対象LV:38
【システム通知】
プレイヤー間戦闘における特殊処理を実行します
討伐対象のレベルの一部が、共鳴現象により、
撃破者へと移行します
【共鳴レベル:+3】
【討伐経験値を獲得しました】経験値:+1,200
【延命ポイント(LP):+6.2】
【レベルアップ!】
LV:25 → LV:28
数字の奔流に、俺は、しばらく、頭が追いつかなかった。プレイヤーを撃破するという行為には、モンスター討伐とは、まったく異質な仕組みが、働くらしかった。単なる経験値ではなく、相手の積み上げてきたレベルそのものの一部が、まるで、その者の力を、奪い取るかのように、こちらへと、流れ込んでくる。
――誰かが、時間をかけて積み上げてきたものを、俺は今、力ずくで、奪った。
その事実の重さに、俺は、しばらく、動けなかった。
「リョウさん!」
ユイの悲鳴が、間近で聞こえた。俺のHPは、まだ、危険域を、彷徨っている。
「回復……を……」
震える声で、俺は、詠唱を、絞り出そうとした。だが、意識が、急速に、遠のいていく。
「間に合わない……! 私が!」
ユイが、覚えたばかりの支援魔法を、俺に向けて、必死に発動させた。淡い光が、俺の身体を、包み込む。
【ユイの回復魔法が発動しました】
HP:3 → 35
完全ではない。だが、危険な域は、僅かに脱していた。
その隙に、俺は、周囲の状況を、なんとか、把握しようとした。リーダー格のリーザは、部下が一人、討たれたことに、初めて、明確な動揺を見せていた。
「本気で、やるとはね……。予想外だったわ」
リーザの声には、これまでの、余裕に満ちた響きが、僅かに、崩れていた。
「タクトさん、大丈夫ですか」
俺は、震える声で、確認した。タクトは、肩で息をしながらも、しっかりと、頷いた。
「はい……! リョウさんのおかげで、俺は、無事です」
その言葉に、俺は、僅かに、安堵を覚えた。だが、同時に、自分の中で、まだ、消化しきれない感情が、渦巻いていた。
「あなたたちの、仲間が……」
俺の呟きに、リーザは、忌々しげに、視線を、倒れた部下へと向けた。
「あいつは、まだ、生きてるわよ。討伐扱いになったのは、あくまで、システム上の判定。命そのものが、消えたわけじゃない。ただ――」
リーザは、少し、複雑な表情を、見せた。
「レベルを、根こそぎ持っていかれた。あいつ、これから、また、一から積み上げ直しよ。相当、こたえるでしょうね」
その説明に、俺は、改めて、自分がしたことの、意味を、噛み締めた。相手の命そのものを、絶ったわけではない。だが、誰かが時間をかけて積み上げてきたものを、力ずくで、奪い取った――その事実は、変わらなかった。
「今日のところは、退くとしましょうか」
リーザが、意外にも、あっさりと、そう告げた。
「え……」
「あなた、思ったより、本気で、私たちを、止めに来る意志があるみたいだから。これ以上、無理に続けても、こちらの被害が、大きくなるだけね」
リーザは、部下たちに、撤退の合図を送った。
「また、会いましょう。次は、もう少し、楽しませてもらうわ」
そう言い残し、リーザたちは、夜の闇へと、静かに、姿を消していった。
騒ぎが収まると、俺は、ようやく、詰めていた息を、大きく吐いた。
「終わった……のか」
タクトが、力なく、その場に座り込んだ。
「はい。とりあえずは、今日のところは」
俺の言葉に、ユイが、心配そうに、俺の顔を、覗き込んだ。
「リョウさん、大丈夫ですか。さっき、プレイヤーを……」
その言葉に、俺は、改めて、自分の手を、見つめた。震えは、まだ、完全には、収まっていなかった。
「正直、まだ、実感が、追いついてないです」
俺は、正直な気持ちを、言葉にした。
「奪わない道を、俺は、ずっと、選んできました。でも、さっき、俺は、その一線を、はっきりと、越えました。しかも――」
俺は、視界に、まだ表示されたままの、共鳴レベルの通知を、見つめた。
「相手のレベルまで、奪う形になりました。これは、経験値とは、また、違う重さがある気がします」
「それは、私たちを、守るためです」
ユイの言葉に、俺は、静かに、頷いた。
「はい。後悔は、してません。でも――」
俺は、少し、言葉を、選んだ。
「これから、この重さと、どう向き合っていけばいいのか、正直、まだ、分からないです」
その夜、俺たちは、宿へと戻り、それぞれの部屋で、休息を取ることになった。だが、俺は、なかなか、眠りにつくことができなかった。
視界に浮かんだままの、あの数字――LPの大幅な増加、そして、共鳴レベルによる、大きなレベルアップ。奪わずに生きる道を選んできた俺にとって、それは、皮肉なほど、大きな"恩恵"だった。
「ミラ」
俺は、闇の中で、静かに、呼びかけた。
「はい」
「俺、間違った選択、したんでしょうか」
俺の問いに、ミラは、少し、間を置いてから、答えた。
「その問いに、正しい答えを、私が、用意することはできません。ただ――」
ミラの声は、いつもより、僅かに、柔らかかった。
「あなたが、これまで積み重ねてきた選択と、今夜の選択は、決して、矛盾するものではないと、私は思います。誰かを守るための一線と、誰かを踏みにじるための一線は、同じ"奪う"という行為であっても、その意味は、まったく違うはずです」
その言葉に、俺は、少しだけ、救われる思いがした。だが、同時に、深く、考え込まずにはいられなかった。
翌朝、俺は、自分のステータスを、改めて、確認した。
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延命ポイント(LP):27.6日分
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三十日に、大きく近づいた数字。だが、その増加分の意味を、俺は、簡単には、喜べなかった。
「今日は、少し、頭を、整理する時間が、必要かもしれません」
俺の言葉に、ユイとタクトが、それぞれ、頷いた。
「無理は、しないでください」
ユイの気遣いに、俺は、小さく、微笑んだ。
「ありがとうございます。でも――」
俺は、窓の外、朝の光に、目を細めた。
「立ち止まってばかりも、いられません。夜狩は、まだ、俺たちを、狙ってるみたいですし」
その言葉に、俺自身、確かな決意を、新たにしていた。奪わない道を、これからも、できる限り、貫いていく。だが、今回のように、誰かを守るために、避けられない選択を迫られることもある――その現実を、俺は、初めて、はっきりと、受け入れ始めていた。
「リーザって人、また、来るんでしょうか」
タクトの問いに、俺は、頷いた。
「はい。多分、近いうちに。今度は、もっと、しっかり、準備しておきましょう」
窓の外、カレナの朝が、静かに、始まっていた。俺たちの前には、まだ、乗り越えるべき壁が、確かに、残されていた。
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:28(LV25 → LV28、共鳴レベル+3含む)
HP:145/145(全回復) MP:98/98
STR:92(+14) VIT:80(+12)
AGI:90(+14) INT:56(+8)
延命ポイント(LP):27.6日分(+6.2)
所持金:銀貨56枚
名声:655
満腹度:58/100
次のレベルまで:820/12,000
【冒険者ランク】
C
【装備】
胴:軽量強化胸当て
武器:疾風の双牙
足:革のブーツ
装飾:魔力の指輪
携帯品:保存食・簡易野営道具
【所持スキル】
・痛覚遮断
・看破の瞳
・植物知識・初級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
・回復魔法・上級
・回避の心得・上級
・風纏・中級
・身体強化・中級
・文献解読・初級
・並列詠唱・上級
【称号】
・一線を越えた者
・世界の歪みを正した者
【フレンド】
・ユイ
・タクト
・クロト
【パーティ】
・ユイ
・タクト
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
プレイヤー討伐の重さ、そして「共鳴レベル」という新事実。
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