第三十八話 夜狩
第三十八話です。
どうぞよろしくお願いします。
偽冒険者の一件から、数日が過ぎた。
俺たちは、いつも通り、カレナでの依頼をこなしながら、静かな日々を送っていた。だが、その平穏の裏で、俺は、拭いきれない違和感を、感じ続けていた。
「最近、視線を、感じませんか」
ある日の夕方、依頼の帰り道、俺は、そう切り出した。
「私も、なんとなく、感じてました」
ユイが、少し不安そうに、周囲を見渡した。タクトも、緊張した面持ちで頷いた。
「ミラ、何か、情報ありますか」
俺の問いに、視界の端に、淡い光が集まった。
「はい。最近、この街の界隈で、『夜狩』と呼ばれる集団についての、噂を、耳にするようになりました」
「夜狩……?」
「PvPを、専門に行う、非公式の集団です。赤牙のような、組織的な搾取とは、性質が異なります。彼らは、高い名声や実力を持つプレイヤーを、いわば"獲物"として、狙う――そういう、悪趣味な遊びを、生業にしているようです」
その説明に、俺の背筋が、冷たくなった。
「俺たちみたいな、目立つプレイヤーが、狙われやすいってことですか」
「その可能性は、否定できません。特に、楽園機関の摘発以降、あなた方の名は、この界隈で、広く知られるようになっています」
ミラの言葉に、俺たちは、顔を見合わせた。
「気をつけましょう。今後は、なるべく、人目のある場所を、選んで移動した方が、いいかもしれません」
俺の提案に、二人は、頷いた。
その日から、俺たちは、意識的に、警戒を強めながら、行動するようになった。だが、数日後の夜、その警戒も、虚しく破られることになった。
宿への帰り道、いつもより、少し遠回りをして、大通りを選んだはずだった。それでも、俺は、看破の瞳で、明確な敵意を持つ反応を、捉えた。
【解析中……】
【???】LV:35(複数)
これまでのどの相手よりも、明らかに、高いレベルだった。
「囲まれてます」
俺の言葉に、ユイとタクトが、瞬時に、身構えた。周囲の建物の陰から、静かに、複数の人影が、姿を現した。
先頭に立つ、細身の女――フードの下から覗く瞳には、獲物を品定めするような、冷たい光が宿っていた。
「見つけたわ。噂の、奪わない巡礼者さんたち」
その声には、抑えきれない、愉悦のようなものが滲んでいた。
「あなたたちが、夜狩ですか」
俺の問いに、女は、口の端を、妖しく歪めた。
「ええ。私は、リーザ。あなたたちの名声とLP、頂きに来たわ」
「なんの、理由があって……」
「理由? そんなもの、必要かしら」
リーザは、楽しげに、笑った。
「強者を狩る。それだけで、十分な、理由になるでしょう。それに――あなたたちの、その甘っちょろい生き方、正直、退屈しのぎとして、最高の獲物なのよ」
その言葉に、俺は、強い怒りを、感じた。だが、同時に、目の前の相手の実力が、これまで対峙した誰よりも、圧倒的であることも、看破の瞳を通じて、明確に伝わってきていた。
「ユイさん、タクトさん、危なくなったら、すぐに、退避を優先してください」
俺の指示に、二人は、緊張した表情で頷いた。
「あら、随分、余裕ね」
リーザが、剣を抜き放った。彼女の周囲の男たちも、それぞれ、武器を構える。
「行くわよ」
リーザが、一瞬で、間合いを詰めてきた。俺は、風纏と身体強化を、並列詠唱で発動させ、なんとか、その一撃を受け流す。
【HPが減少しました】
145 → 112
一撃の重さが、これまでとは、明らかに違った。
「まだまだ」
リーザの連撃が、間断なく、襲いかかってくる。俺は、成長した回避の心得・上級で、なんとか、その大半をかわし続けた。
「ユイさん、タクトさん、二人は、部下の方を!」
「はい……!」
ユイとタクトが、リーザの部下たちと、それぞれ、応戦を始めた。だが、その動きにも、明らかな苦戦の色が滲んでいた。
「あなたたち、本当に、強いのね。でも――」
リーザが、俺の一撃を、軽々と、受け流した。
「私には、まだ、届かない」
その言葉通り、俺の攻撃は、ことごとく、彼女の防御に、阻まれ続けた。
「観察眼……看破の瞳!」
【解析中……】
【リーザ】
弱点:検出不可(高度な隠蔽スキル、または未検出)
「弱点が……見えません」
俺の呟きに、リーザが、愉快そうに、笑った。
「無駄よ。私、対策されるのが、一番、嫌いなの」
戦況は、徐々に、不利になっていった。俺は、回復魔法を織り交ぜながら、なんとか、持ちこたえ続けたが、リーザの実力は、確かに、俺たちを、上回っていた。
「そろそろ、飽きてきたわ」
リーザの一撃が、俺の防御を、大きく崩した。
【HPが減少しました】
112 → 58
「リョウさん……!」
ユイの悲鳴のような声が、聞こえた。俺は、痛みのない身体で、それでも、確かな危機感を、覚えていた。
その時、視界の端で、タクトが、部下の一人に、追い詰められているのが見えた。
「タクトさん!」
俺は、咄嗟に、駆け寄ろうとした。だが、その隙を、リーザが見逃さなかった。
「そんな余裕、あるのかしら」
リーザの追撃が、俺の側面を捉えた。
【HPが減少しました】
58 → 22
視界が、僅かに、揺らいだ。俺は、なんとか、体勢を立て直しながら、タクトの方を見た。
タクトを追い詰めていた男が、剣を、大きく振りかぶっていた。タクトの守りの構えでは、その一撃を、完全には防ぎきれない。
「危ない……!」
俺は、叫びながら、風纏で全速力を発揮し、タクトの前へと、割り込んだ。男の一撃が、俺の肩を、深く捉える。
【HPが減少しました】
22 → 3
その瞬間、俺の中で、何かが、大きく揺らいだ。このままでは、俺自身だけでなく、タクトも、ユイも、危険に晒される。奪わずに生きる道――その選択に、俺は、初めて、明確な限界を、感じていた。
「くっ……!」
俺は、辛うじて、体勢を保った。目の前の男が、俺の弱った姿を見て、追撃の一撃を、振り上げる。
俺は、看破の瞳を、ぎりぎりの意識で発動させた。
【解析中……】
【夜狩・下位構成員】
弱点:喉元、防御の薄い一点
これまで、意図的に、避け続けてきた、致命の一撃。だが、今この瞬間、避け続けることは、自分だけでなく、仲間の命をも、危険に晒すことに、他ならなかった。
「ごめん……」
俺は、誰にともなく、そう呟いた。そして、迷いを振り切るように、短剣を、男の喉元へと、正確に、突き立てた。
【対象プレイヤーを撃破しました】
【討伐に準ずる経験値を獲得しました】経験値:+1,200
【延命ポイント(LP):+3.8日】
視界に浮かんだ、その数字の重さに、俺は、しばらく、動けなかった。
男が、力なく、その場に崩れ落ちていく。それは、これまでの、モンスター討伐とは、まったく違う、重い手応えだった。誰かの――現実で、必死に生きようとしている、誰かの時間を、俺は、今、確かに、奪った。
「リョウさん……!」
ユイの声が、遠くに、聞こえた。俺は、震える手を、じっと見つめていた。
戦いの喧騒が、少しずつ、俺の耳から、遠のいていく。だが、確かなことが、一つだけあった。
俺は今、これまで守り続けてきた、自分自身の一線を、越えてしまった。
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:25
HP:3/145(危険域) MP:24/98
STR:78 VIT:68
AGI:76 INT:48
延命ポイント(LP):21.4日分(+3.8)
所持金:銀貨56枚
名声:655
満腹度:40/100
次のレベルまで:3,100/9,500
【冒険者ランク】
C
【装備】
胴:軽量強化胸当て
武器:疾風の双牙
足:革のブーツ
装飾:魔力の指輪
携帯品:保存食・簡易野営道具
【所持スキル】
・痛覚遮断
・看破の瞳
・植物知識・初級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
・回復魔法・上級
・回避の心得・上級
・風纏・中級
・身体強化・中級
・文献解読・初級
・並列詠唱・上級
【称号】
・一線を越えた者
・世界の歪みを正した者
【フレンド】
・ユイ
・タクト
・クロト
【パーティ】
・ユイ
・タクト
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
新たな脅威「夜狩」、そして、越えてしまった一線。
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