第三十六話 偽りの冒険者
第三十六話です。
どうぞよろしくお願いします。
翌朝、俺たちは、久しぶりに、カレナのギルド本部を訪れた。
掲示板には、以前と変わらず、様々な依頼が張り出されている。だが、俺たちの実力を見た受付の職員が、少し困ったような表情を見せた。
「Cランクの、しかも帝都での大きな功績をお持ちの方々に、これといって、見合う依頼が……」
「大丈夫です。無理に、難しいものを、選ばなくても」
俺の言葉に、受付の職員は、少しほっとしたように、資料をめくった。
「でしたら、こちらは、いかがでしょう。最近、街道沿いで、偽の冒険者を名乗る一団が、旅人から金品を巻き上げているという、被害報告が相次いでいます」
【偽冒険者集団の調査・討伐】
報酬:討伐経験値(大)/銀貨15枚
難易度:★★★
「本物のギルド証を偽造しているらしく、旅人たちも、すっかり騙されているようで。正規の冒険者パーティに、実態調査と、可能であれば、確保をお願いしたいとのことです」
「偽の、冒険者……」
俺は、少し引っかかりを覚えた。以前、赤牙という組織が摘発された後、あの手口を真似た、便乗犯のようなものが、現れているのかもしれない。
「受けます」
俺の言葉に、ユイとタクトも頷いた。
「タクトさん、無理はしないでください。まだ、本調子じゃないはずですし」
俺の気遣いに、タクトは、しっかりとした口調で答えた。
「大丈夫です。今回は、俺も、ちゃんと、戦力になります」
その言葉には、以前とは違う、確かな決意が滲んでいた。
依頼書を受け取り、俺たちは、街道沿いの目撃情報があった地域へと向かった。カレナの外れ、街道が森へと差し掛かる手前に、簡易的な休憩所が設けられている。
「あそこ、怪しいですね」
ユイが指差した先に、粗末な天幕を張った、数人組の集団が見えた。旅装束の男が、その集団に、何やら詰め寄られている様子だった。
俺は、看破の瞳を発動させた。
【解析中……】
【???】LV:15(複数)
「本物の冒険者にしては、装備が、妙にちぐはぐですね」
俺の呟きに、ユイも頷いた。
「はい。ギルド証だけ、立派で、他は、間に合わせみたいな感じです」
俺たちは、物陰から、しばらく様子を窺った。
「通行料だ、払え。この道は、俺たちが、魔物の討伐で、安全を保証してるんだからな」
集団のリーダー格らしき男が、旅人に、そう凄んでいた。旅人は、渋々といった様子で、財布を取り出している。
「今です」
俺は、物陰から進み出た。
「その通行料、正式な依頼として、ギルドに登録されてますか」
突然の声に、集団の男たちが、一斉に振り返った。
「なんだ、お前ら」
「ギルドから、調査の依頼を受けてきました。あなたたちの活動、正式な冒険者証に基づくものか、確認させてください」
俺の言葉に、リーダー格の男の表情が、みるみる強張った。
「うるせえ! 関係ねえ奴は、引っ込んでろ!」
男が、剣を抜いた。他の仲間たちも、次々と、武器を構える。
「戦うしか、ないみたいですね」
俺の呟きに、ユイとタクトが、それぞれ武器を構えた。
「タクトさん、まずは、後方からの援護で。無理そうなら、すぐに、下がってください」
「はい、分かりました」
男たちが、一斉に、襲いかかってきた。俺は、風纏と身体強化を、並列詠唱で発動させる。
「観察眼……看破の瞳!」
【解析中……】
【偽冒険者・リーダー】
LV:18
弱点:利き腕の動きに、大きな癖あり
本職の戦闘訓練を、まともに受けていないのだろう。動きには、隙が多かった。
「ユイさん、リーダーを!」
「はい!」
ユイが、リーダー格の男へと、まっすぐ踏み込んだ。俺は、周囲を囲む、他の部下たちの相手をする。
一人が、大振りの一撃を、繰り出してきた。俺は、成長した回避の心得で、紙一重で、それをかわす。
【回避の心得・中級が発動】
反撃の隙を生成
生まれた隙を、俺は、逃さなかった。短剣の柄で、相手の腹部を強く打ち据える。
「ぐはっ……!」
男が、崩れ落ちた。俺は、致命傷は避けつつ、確実に、戦闘不能に追い込んでいく。奪わずに生きる道を選んできた俺にとって、この手加減の感覚は、既に、自然なものになっていた。
「タクトさん、後ろ!」
俺の警告に、タクトが、素早く振り返った。背後から迫っていた男の一撃を、盾のように使う籠手で、しっかりと受け止める。
「守りの構え、身についてきました……!」
タクトの声には、確かな自信が滲んでいた。育った「守りの構え・初級」のスキルが、彼を、しっかりと支えていた。
「ユイさん、そっちは!」
「もう少しです……!」
ユイが、リーダー格の男と、鋭い剣戟を交わしていた。男の利き腕の癖を、既に見切っているのか、ユイの動きには、無駄がなかった。
「これで、終わりです!」
ユイの一撃が、男の武器を、弾き飛ばした。男は、呆然とした表情で、その場に立ち尽くした。
「く、くそ……!」
「もう、逃げ場は、ないですよ」
俺は、周囲を見渡した。既に、部下たちの大半が、戦闘不能に追い込まれていた。
【偽冒険者集団を制圧しました】
【討伐に準ずる貢献経験値を獲得しました】経験値:+150
「一体、何のために、こんなことを……」
俺の問いに、リーダー格の男は、しばらく、黙り込んだあと、力なく答えた。
「赤牙が、摘発されてから……俺たち、稼ぎ口が、なくなったんだよ。元々、赤牙の下っ端だった連中で、集まって……」
その言葉に、俺は、思わず、息を呑んだ。
「赤牙の……」
「ああ。あんたらのせいで、俺たちの、それまでのやり方は、もう、通用しなくなった。だから、こんな形で、しのぐしか……」
男の言葉には、身勝手な逆恨みと、確かな困窮の両方が、入り混じっていた。
「その理屈で、旅人を、脅していい理由には、ならないです」
俺の言葉に、男は、何も言い返せなかった。
到着したギルドの警備隊に、男たちを引き渡すと、俺たちは、ようやく、詰めていた息を吐いた。
「タクトさん、今日は、随分、頼もしかったです」
俺の言葉に、タクトは、少し照れくさそうに笑った。
「まだまだ、皆さんに、比べたら、全然です。でも――少しずつ、進んでる実感、ありました」
視界の端に、通知が浮かんだ。
【新スキルを習得しました】(タクト)
「盾撃・初級」
タクトのスキルが、確かに、成長していた。俺自身は、今回、新しい成長こそなかったが、それでも、確かな手応えを感じていた戦いだった。
依頼を達成し、俺たちはギルドへと戻った。
【依頼達成】
偽冒険者集団の調査・討伐
報酬を獲得しました
・討伐経験値:+80(達成報酬)
・銀貨:15枚
・名声:+20
受付の職員が、丁寧に礼を言った。
「本当に、助かりました。旅人の方々からも、感謝の声が、届くと思います」
ギルドを出ると、日は、既に、傾き始めていた。
「赤牙の残党、か……。ああいう形で、まだ、影響が、残ってたんですね」
ユイの呟きに、俺は、頷いた。
「はい。今日みたいな、単発の事件なら、まだいいですけど……」
俺は、少し、言葉を濁した。実は、戦闘の最中、ある違和感を、覚えていた。
「どうしたんですか、リョウさん」
ユイの問いに、俺は、正直に答えた。
「さっきの連中、誰かに、俺たちの動きを、探るように、頼まれてたような……そんな、雰囲気があった気がして」
「探る……?」
「気のせいかもしれません。でも、念のため、ミラに、聞いてみます」
俺は、ミラを呼び出した。
「最近、俺たちについて、何か、不審な調査や、噂の類は、ありますか」
ミラは、少し間を置いてから、答えた。
「確定的な情報ではありませんが……あなた方の、赤牙及び楽園機関摘発における功績が、一部の界隈で、良からぬ形で、注目を集めているという噂は、耳にしています」
「良からぬ形、というのは」
「その名声、あるいは実力を、快く思わない者たちがいる、ということです。特に、赤牙の残党や、それに類する組織に、恨みを買っている可能性は、否定できません」
その言葉に、俺の中で、小さな警戒心が、静かに、頭をもたげた。
「気をつけた方が、いいですね」
俺の呟きに、ユイとタクトも、それぞれ、真剣な表情で頷いた。
「今のところ、直接的な脅威は、確認されていません。ですが、油断は、しない方がよろしいかと」
ミラの言葉を、俺は、静かに、心に留めた。
宿への帰り道、俺は、改めて、自分のステータスを確認した。
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延命ポイント(LP):17.5日分
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数字は、緩やかに、増加していた。だが、今日感じた違和感は、単なる杞憂では、終わらないかもしれない。そんな予感が、俺の中に、確かに、残り続けていた。
「今日は、もう、休みましょう。また、明日、色々、考えましょう」
俺の言葉に、ユイとタクトが、それぞれ頷いた。
宿に戻り、俺は、久しぶりに、静かな夜を、過ごすことにした。だが、頭の片隅には、ミラの言葉が、小さな棘のように、残り続けていた。
もしかすると、この平穏な日々も、そう長くは、続かないのかもしれない。俺は、そんな予感を抱きながら、ゆっくりと、目を閉じた。
翌朝、俺たちは、改めて、ギルドの掲示板を、確認することにした。
「今日は、何にしましょうか」
ユイの問いに、俺は、掲示板を見渡した。以前より、随分と、依頼の種類が、豊富になっている気がした。
「これ、見てください」
タクトが、指差した先には、見慣れない依頼書があった。
【異国交易船・護衛依頼(長期)】
報酬:応相談(高額)
難易度:★★★★
備考:Cランク以上、長期契約可
「異国、って……」
俺は、思わず、その依頼書を、まじまじと見つめた。
「カレナの港から、海を渡って、異国との交易を行う船の、護衛依頼みたいです」
タクトの説明に、俺は、興味を惹かれた。この世界には、まだ、俺たちの知らない、広大な場所が、確かに、存在している。
「今すぐには、無理でしょうけど……いつか、行ってみたいですね」
俺の呟きに、ユイが、微笑みながら頷いた。
「はい。まずは、目の前のことから、一つずつ、ですね」
俺たちは、その日も、いつも通り、依頼をこなしながら、着実に、前へと進み続けた。だが、心の奥底には、これから訪れるであろう、新たな脅威と、まだ見ぬ広い世界への、確かな予感が、静かに、灯り続けていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
偽冒険者との対決、そして新たな不穏の気配。
異国への扉も、少しずつ見え始めました。
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偽冒険者との対決、そして新たな不穏の気配。
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