第三十四話 引き戻す糸
第三十四話です。
どうぞよろしくお願いします。
「できた……かもしれない」
夜明け前、ライアスの呟きに、研究室にいた俺たちは、一斉に顔を上げた。
「本当ですか」
俺の問いに、ライアスは、憔悴しきった表情ながらも、確かな光を目に宿していた。
「理論上は。だが、実際に発動させてみるまで、確証は持てない。それに――」
ライアスは、机の上に広げられた術式図を、指し示した。
「この規模の術式を発動するには、莫大な魔力供給が必要になる。装置の出力だけでは、恐らく、足りない」
「俺たちの魔力を、使えばいいんじゃないですか」
俺の提案に、ライアスは、少し驚いたように、俺を見た。
「危険が伴う。魔力を根こそぎ持っていかれれば、下手をすれば、命に関わる」
「タクトさんの命が、懸かってるんです。迷ってる時間は、ないと思います」
俺の言葉に、ユイも、力強く頷いた。
「私も、協力します」
タクトが、震える声で、しかし、しっかりとした口調で言った。
「俺のために、そこまで、してくれるんですか」
「当たり前です」
俺は、迷わず、答えた。
【延命ポイント(LP):1.8日分】
タクトのステータスに表示された数字を見て、俺は、改めて、時間がないことを、痛感していた。
「準備を始めよう。装置の周辺に、術式を展開する」
ライアスの指示のもと、俺たちは、管理区画の中央、フィリアのカプセルが安置された部屋へと、機材を運び込んだ。複雑な魔法陣が、床一面に、丁寧に描かれていく。
「リョウ君、ユイ君、この二つの起点に、それぞれ立ってくれ。並列詠唱のスキルがあれば、術式の安定に、大きく貢献できるはずだ」
「分かりました」
俺とユイは、指示された位置に立った。ライアスが、最後の調整を、慌ただしく行っている。
その時――突然、部屋全体が、大きく揺れた。
「な、なんですか、今の……!」
タクトが、驚いたように、周囲を見渡した。俺は、反射的に、看破の瞳を発動させた。
【解析中……】
【残滓の獣】
LV:40
状態:術式の暴走反応に共鳴、出現
「まずい、これは……」
ライアスが、青ざめた表情で呟いた。
「未完成の術式が、周辺の魔力を、大量に吸い寄せている。その影響で、この地に残る、楽園機関の残留エネルギーが、実体化してしまったようだ」
部屋の隅、床から、黒い靄のような塊が、次第に、獣の輪郭を形作っていった。全身が、無数の光る亀裂に覆われた、異形の姿だった。
「あれを、放っておくと」
「術式そのものが、破壊されかねない。頼む、時間を稼いでくれ! 術式の再構築には、もう少し、時間がいる!」
ライアスの叫びに、俺は、短剣を構えた。
「ユイさん、タクトさん、俺たちで、食い止めます!」
「はい……!」
「俺も……! やります!」
タクトが、震える手で、剣を握りしめた。LPが1.8日という、極限の状態にもかかわらず、彼の目には、確かな決意が宿っていた。
「無理は、しないでください」
「大丈夫です。今は、これが、俺にできることだから」
タクトの言葉に、俺は、それ以上、何も言えなかった。
残滓の獣が、咆哮とともに、こちらへと突進してきた。
「風纏、身体強化、並列で!」
俺は、育った並列詠唱のスキルで、二つの魔法を、滑らかに同時発動させた。以前よりも、遥かに、負担が少ない。
「看破の瞳!」
【解析中……】
【残滓の獣】
弱点:胸部の亀裂、最も光が強い一点
状態:不安定、攻撃のたびに自壊が進行
「胸の、光ってる場所が、弱点みたいです!」
俺の声に、ユイが、素早く反応した。
「私が、引きつけます!」
ユイが、剣に魔力を纏わせ、獣の正面から、斬りかかった。獣の爪が、ユイを掠める。だが、ユイは、怯むことなく、攻撃を続けた。
「タクトさん、後方から、援護を!」
「はい!」
タクトが、震える身体を叱咤するように、剣を振るった。一撃、また一撃と、獣に、着実にダメージを与えていく。
俺は、隙を見て、獣の背後へと回り込んだ。
「今です!」
疾風の双牙を、胸部の亀裂目掛けて、突き立てる。手応えとともに、獣が、甲高い叫び声を上げた。
【HPが減少しました】
145 → 98
獣の反撃が、俺の脇腹を掠めた。痛みはないが、視界の端で、数字が、確かに動いた。
「回復魔法!」
俺は、育った回復魔法・上級を、素早く発動させた。詠唱時間が、以前より、格段に短くなっている。
「まだ、いけます!」
俺たちは、連携しながら、獣の猛攻を、なんとか凌ぎ続けた。だが、獣の動きは、時間が経つにつれ、むしろ、激しさを増していった。
「術式の暴走に、共鳴して、強くなってる……!」
ライアスが、背後で叫んだ。
「もう少しだ! あと少しで、術式が、完成する!」
俺は、視界の端で、タクトの様子を確認した。彼の顔色は、明らかに、悪化していた。それでも、剣を振るう手を、止めようとはしなかった。
「タクトさん、無理は……!」
「まだ、大丈夫です……! 俺が、ここで、諦めるわけには……!」
タクトの一撃が、獣の脚部を捉えた。獣が、体勢を崩す。俺は、その隙を見逃さなかった。
「今しかない!」
俺は、全ての力を、一撃に込めた。看破の瞳で捉えた弱点、そこへ向かって、疾風の双牙を、深く突き立てる。
【残滓の獣を討伐しました】
【討伐経験値を獲得しました】経験値:+380
獣が、黒い靄となって、静かに、霧散していった。
その瞬間、部屋の中央で、ライアスの声が、高らかに響いた。
「完成した!」
魔法陣が、眩い光を放ち始めた。ライアスが、慎重に、術式を起動させる。
「タクト君、こちらへ!」
タクトが、よろめきながら、術式の中心へと歩み寄った。俺とユイは、息を呑んで、その様子を見守った。
光が、タクトの身体を、優しく包み込んでいく。
【システム通知】
延命ポイント(LP)緊急補正処理を実行中……
長い、長い数秒だった。俺は、祈るような気持ちで、その光景を、見つめ続けていた。
やがて、光が、静かに収まっていく。タクトが、ゆっくりと、自分のステータスを確認した。
【延命ポイント(LP):15.6日分】
「戻った……! 戻ってます……!」
タクトの声が、震えていた。完全に、元の水準に戻ったわけではない。だが、絶望的だった数字は、確かに、大きく回復していた。
「よかった……本当に、よかった……!」
ユイが、目に涙を浮かべながら、タクトの肩を抱いた。俺も、詰めていた息を、大きく吐き出した。
「ありがとう、ございました……! みんな、ありがとう……!」
タクトが、崩れ落ちるように、その場に座り込んだ。安堵と、疲労が、一気に押し寄せてきたのだろう。
「よく、頑張ったな」
ライアスが、疲れ果てた様子ながらも、満足そうに微笑んだ。
「これで、完全にとは、いかない。だが、少なくとも、当面の危機は、脱したはずだ」
俺は、改めて、自分のステータスを確認した。
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延命ポイント(LP):17.1日分
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戦闘での消費を差し引いても、緩やかな増加が見られた。
【スキルが成長しました】
「並列詠唱・中級」 → 「並列詠唱・上級」
【並列詠唱・上級】
三つ以上の支援魔法を、
同時に維持できるようになる
戦闘の中で、確かに、俺自身も、また一段、成長していた。
「タクトさん、まだ、油断はできません。でも、今日は、本当に、よく頑張りました」
俺の言葉に、タクトは、涙を拭いながら、頷いた。
「はい……今度は、俺も、もっと、強くならないと。守られてばかりじゃ、いられないので」
その言葉に、俺は、小さく笑った。
「一緒に、頑張りましょう」
窓の外、帝都の空が、朝の光に、静かに照らされ始めていた。長い夜が、ようやく、明けようとしていた。
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:25
HP:98/145(未回復) MP:61/98
STR:78 VIT:68
AGI:76 INT:48
延命ポイント(LP):17.1日分
所持金:銀貨41枚
名声:610(+40)
満腹度:40/100
次のレベルまで:1,450/9,500
【冒険者ランク】
C
【装備】
胴:軽量強化胸当て
武器:疾風の双牙
足:革のブーツ
装飾:魔力の指輪
携帯品:保存食・簡易野営道具
【所持スキル】
・痛覚遮断
・看破の瞳
・植物知識・初級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
・回復魔法・上級
・回避の心得・中級
・風纏・中級
・身体強化・中級
・文献解読・初級
・並列詠唱・上級(進化)
【称号】
・一線を越えた者
・世界の歪みを正した者
【フレンド】
・ユイ
・タクト
・クロト
【パーティ】
・ユイ
・タクト
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
研究の完成、そして残滓の獣との死闘。
タクトの危機、ひとまず脱しました。
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