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「命を喰うレベルアップ ―僕は誰かの余命で強くなる―」  作者: 黒豚
第3章 現実という名の戦場

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第三十三話 セリアの告白

第三十三話です。

どうぞよろしくお願いします。


朝食もそこそこに、俺たちは、セリアのもとへと向かった。


「LPの補正が外れた、というのは……」


事情を説明すると、セリアの表情が、みるみる険しくなった。彼女は、しばらく黙り込んだあと、意を決したように、口を開いた。


「今まで、黙っていたことがあります。この状況なら、話しておくべきだと思うので」


その前置きに、俺たちは、思わず、身構えた。


「私自身も、かつては、あなたたちと同じ、巡礼者でした」


「え……」


俺は、思わず、絶句した。ユイもタクトも、同じように、言葉を失っている。何度も顔を合わせ、共に事件を追いかけてきた相手が、実は、自分たちと同じ立場だった――その事実は、俺の中で、すぐには、飲み込みきれなかった。


「今まで、話さなかったのは……」


「立場上、迂闊に明かせなかった、というのが正直なところです。運営に近い協力者という立場は、巡礼者としての事情を、あまり表に出さないことが、前提になっているので」


セリアは、静かに、続けた。


「今から、五年ほど前になります。私も、現実で、重い病を抱えていました。幸い、寛解に至ることができて、こうして、運営側の協力者として、ギルドに籍を置かせてもらっています」


「寛解……治ったってことですか」


俺の問いに、セリアは、小さく頷いた。


「はい。だから、私は、ある意味、あなたたちの、少し先にいる存在なのかもしれません。この世界を生き延びた先に、何があるのか――その一つの答えとして」


その言葉には、俺たちがまだ知らない、確かな重みがあった。何度も顔を合わせてきたセリアという人物の背景が、この瞬間、まったく違う奥行きを持って、俺の中に、迫ってきた。


「じゃあ、俺たちの状況も、本当に、自分のことのように……」


「はい。他人事ではありません。だからこそ、今回の件は、私自身、絶対に、見過ごせないと思っています」


セリアは、少し表情を和らげた。


「それに、これも、話しておくべきかもしれません。Elysiumにログインしている理由は、必ずしも、LPによる延命だけとは、限らないんです」


「それって、どういうことですか」


俺の問いに、セリアは、静かに続けた。


「私が寛解できたのは、正直、運が良かった部分も大きいです。ですが、巡礼者の中には、末期の病だけでなく、事故による重度の後遺症、あるいは、意識障害からの回復訓練を目的に、ログインしている人たちも、少なくありません。LPの仕組みは、あくまで、余命に関わる患者向けの制度ですが、Elysium自体は、もっと幅広い目的で、運用されているんです」


その説明に、俺は、少し驚いた。この世界に来てから、俺はずっと、自分と同じような、余命宣告を受けた人間ばかりが集まっているのだと、無意識に思い込んでいた。


「じゃあ、LPを持たない巡礼者も、いるってことですか」


「はい。ごく少数ですが。彼らは、こちらでの活動そのものが、リハビリや、意識の覚醒訓練を兼ねているので、LPという概念自体、適用されません」


「知りませんでした、そんな人たちがいるなんて」


ユイが、驚いたように呟いた。


「表立って語られることは、少ないですから。無理もありません」


セリアは、そこで一度、話を区切った。


「本題に、戻りましょう。すぐに、確認します。あなただけでなく、他にも、同様の影響を受けたプレイヤーがいる可能性が、十分にあります」


セリアは、すぐに、限られた協力者のみで構成された、内密の調査チームに、指示を飛ばした。数時間後、俺たちは、再び、セリアの執務室へと呼び出された。


「調査の結果、報告します」


セリアの声は、緊張を帯びていた。


「楽園機関の供給経路は、リョウさんが受けていた恩恵とは逆に、複数のプレイヤーから、想定以上のLPを、意図せず吸い上げていたことが、判明しました」


「つまり、俺の代わりに、誰かが、余分に、削られてたってことですか」


俺の問いに、セリアは、重い表情で頷いた。


「はい。特に、深刻な影響を受けているとみられるプレイヤーが、一名、確認されています」


セリアが、資料を机に置いた。そこに記された名前を見て、俺は、思わず、息を呑んだ。


それは、タクトだった。


「タクトさんの、LPが……?」


俺の視線に、タクト自身が、驚いたように、自分のステータスを開いた。


「え……」


タクトの表情が、みるみる青ざめていった。


「なんで、俺……こんな……」


【延命ポイント(LP):4.2日分】


その数字を見て、俺たちは、全員、言葉を失った。


「そんな……」


ユイが、震える声で呟いた。タクトは、自分の手を、まじまじと見つめていた。


「俺、実感、全然なかった……普通に、動けてたし……」


「痛みや不調が、直接、LPに連動して現れるわけではありません。それが、この歪みの、恐ろしいところです」


セリアが、静かに補足した。


「タクトさんは、赤牙に絡まれた最初の頃から、システムの供給経路に、間接的に接続されていた可能性があります。恐らく、無自覚のまま、他の巡礼者――今回は、リョウさんに、LPを、供給し続ける立場に、置かれていました」


その説明に、俺の中で、罪悪感が、一気に押し寄せてきた。


「俺のせいで……」


「違います」


タクトが、俺の言葉を、遮るように言った。


「リョウさんが、意図的にやったことじゃないです。それに、リョウさんは、俺を、何度も助けてくれました。これは、誰かのせいとか、そういう話じゃない気がします」


タクトの言葉には、震えながらも、確かな芯があった。だが、その芯の強さが、逆に、俺の胸を、締め付けた。


「今、タクトさんの治療は……」


俺の問いに、セリアが、資料をめくりながら答えた。


「供給経路そのものは、既に停止しています。ですが、これまで奪われたLPを、取り戻す方法は、現時点では、確認されていません」


その言葉に、俺は、拳を強く握った。


「奪われた分は、返せないんですか」


「規約上、LPの譲渡は、認められていません。今回の件は、規約違反によって生じた歪みですが、その修復方法についても、まだ、確立されていないのが実情です」


その説明に、執務室は、重い沈黙に包まれた。


「四日……四日で、俺は……」


タクトが、震える声で、そう呟いた。ユイが、そっと、タクトの肩に、手を置いた。


「大丈夫です。まだ、方法があるはずです」


ユイの言葉に、しかし、確信は、あまり滲んでいなかった。俺も、同じだった。何か手を打たなければならない。だが、その"何か"が、まだ、見えていなかった。


「ライアスさんに、聞いてみましょう」


俺は、そう提案した。


「フィリアさんを目覚めさせるために、あれだけの技術を使った人です。何か、突破口になる知識を、持ってるかもしれません」


セリアも、頷いた。


「連絡してみます。今すぐに」


俺たちは、その日のうちに、管理区画へと向かった。フィリアの様子を見守っていたライアスは、俺たちの深刻な表情に、すぐに異変を察したようだった。


「何か、あったのか」


俺は、タクトの状況を、簡潔に説明した。ライアスの表情が、聞き終える頃には、重く沈んでいた。


「そういうことか……。私が構築した仕組みが、まだ、こんな形で、誰かを苦しめていたとは」


「何か、方法は、ないんでしょうか」


俺の問いに、ライアスは、しばらく、考え込んだ。


「一つ、可能性がある。だが、確実ではない」


ライアスは、慎重に、言葉を選びながら続けた。


「フィリアの供給システムを構築する過程で、私は、LPの流動そのものに関する、いくつかの実験的な理論を、確立していた。その中に――失われたLPを、完全にではないが、部分的に、"引き戻す"技術の、原型がある」


「本当ですか」


「未完成の理論だ。実用化には、程遠い。だが……もし、時間をかけて、それを完成させることができれば」


「どのくらい、時間が、かかりますか」


俺の問いに、ライアスは、少し目を伏せた。


「正直に言えば、通常であれば、数か月単位の研究が、必要になるだろう」


その言葉に、俺たちの間に、絶望に近い空気が流れた。タクトのLPは、既に4.2日。数か月どころか、数日の猶予も、ないに等しかった。


「ですが」


ライアスが、続けた。


「今の私には、皆さんという、協力者がいる。それに――フィリアを救うために積み重ねた、私の全ての知識と技術を、今度は、償いのために、使うべきだと思っている」


その言葉に、俺は、顔を上げた。


「手伝わせてください。俺にできることなら、なんでもします」


「私も」


「俺も、手伝います。自分のことですし」


タクト自身も、震える声で、そう言った。


「分かった。だが、時間との勝負になる。まずは、既存の理論を、可能な限り、圧縮して、実用化する道を、探ろう」


その日から、俺たちは、ライアスの研究に、全面的に協力することになった。管理区画の一角に、簡易的な研究拠点が設けられ、俺たちは、昼夜を問わず、ライアスの指示のもと、様々な作業に追われた。


「文献解読のスキル、ここで役に立ちそうだな」


ライアスが、俺の持つスキルに目を留めて言った。


「古い理論書の中に、必要な記述が、埋もれているかもしれない。手伝ってくれるか」


「はい、もちろんです」


俺は、旧図書館で得た文献解読のスキルを駆使し、ライアスとともに、膨大な資料を、読み解いていった。


【文献解読・初級の使用回数が、一定の基準に達しました】


視界の端に、そんな通知が浮かんだが、今は、それどころではなかった。俺は、ひたすら、資料と向き合い続けた。


ユイとタクトも、それぞれ、できることを探していた。ユイは、フィリアの回復状況を見守りながら、供給システムの安定化に必要な、素材の調達に奔走した。タクト自身も、震える手を抑えながら、自分のこととして、資料の整理を手伝い続けた。


「無理、しないでください」


俺の言葉に、タクトは、力なく笑った。


「今、動いてないと、逆に、怖くなるんです。だから、これで、いいんです」


その言葉に、俺は、何も返せなかった。ただ、この状況を、一刻も早く、打開しなければならないという思いだけが、強くなっていった。


数日が過ぎた。研究は、少しずつ、進展を見せていた。だが、タクトのLPは、確実に、減り続けている。


「あと、二日分……」


ある夜、タクトが、自分のステータスを見つめながら、静かに呟いた。俺は、その言葉に、胸が締め付けられる思いだった。


「必ず、間に合わせます」


俺の言葉に、タクトは、小さく頷いた。だが、その表情には、隠しきれない不安が、色濃く滲んでいた。


夜遅く、俺は、一人、ライアスの研究室を訪れた。


「まだ、起きてたんですか」


「ああ。もう少しで、糸口が、見えそうなんだ」


ライアスは、疲れた様子を見せながらも、資料から目を離さなかった。


「俺にも、何か、手伝えることはありますか」


「今は、休んでくれ。明日、また、集中力が必要になる」


俺は、それでも、しばらく、ライアスの作業を、傍らで見守っていた。


「あなたも、フィリアさんのために、同じように、夜を、明かしたんですか」


俺の問いに、ライアスは、手を止めた。


「何度も、な。当時の私には、これしかなかった。自分の全てを、注ぎ込むことでしか、あの子を、救う方法が、見つからなかった」


その言葉に、俺は、改めて、この人の抱えてきた重さを、感じ取った。


「今度は、俺たちが、あなたと一緒に、その重さを、背負います」


俺の言葉に、ライアスは、しばらく、俺を見つめたあと、小さく笑った。


「変わった若者だな、君は」


「よく、言われます」


俺たちは、静かに、笑い合った。窓の外、帝都の夜が、静かに、更けていく。タクトに残された時間は、確実に、少なくなっていた。それでも、俺たちは、今、できることを、一つずつ、積み重ね続けていた。

────────────────────

【ステータス】

名前:リョウ

LV:25

HP:145/145 MP:98/98

STR:78 VIT:68

AGI:76 INT:48


延命ポイント(LP):17.3日分

所持金:銀貨41枚

名声:570

満腹度:52/100


次のレベルまで:1,070/9,500


【冒険者ランク】

C


【装備】

胴:軽量強化胸当て

武器:疾風の双牙

足:革のブーツ

装飾:魔力の指輪

携帯品:保存食・簡易野営道具


【所持スキル】

・痛覚遮断

・看破の瞳

・植物知識・初級

・木工の心得・初級

・調合の心得・初級

・回復魔法・上級

・回避の心得・中級

・風纏・中級

・身体強化・中級

・文献解読・初級

・並列詠唱・中級


【称号】

・一線を越えた者

・世界の歪みを正した者


【フレンド】

・ユイ

・タクト

・クロト


【パーティ】

・ユイ

・タクト

────────────────────


最後まで読んでいただきありがとうございました。

セリアの告白、そして、まだ見ぬ巡礼者たちの事情。

タクトに残された時間は、あと僅か。

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