第二十九話 打ち込む理由
第二十九話です。
どうぞよろしくお願いします。
宿舎に戻り、俺たちは、それぞれの傷を癒すため、しばらく休息を取った。
【システム通知】
休息によりHP・MPが全回復しました
だが、身体の傷が癒えても、心の中には、はっきりとした悔しさが残っていた。ガイウスとの戦い、あの圧倒的な実力差。俺は、自分のステータスウィンドウを開き、じっと見つめた。
「このままじゃ、駄目ですよね」
俺の呟きに、ユイとタクトが、それぞれ頷いた。
「正直、俺、足手まといだったと思います」
タクトが、悔しそうに拳を握った。
「私も、同じです。彼我の差、はっきり見せつけられました」
「今のままじゃ、また来た時、絶対に守り切れません」
俺の言葉に、二人は、真剣な表情で頷いた。
「本格的に、鍛え直しましょう。今度こそ、ちゃんと立ち向かえるように」
俺たちは、その日のうちに、セリアに相談し、しばらくの間、帝都での修行に専念する許可を得た。
「ガイウスの動きは、こちらでも警戒を続けます。皆さんは、まず、力をつけることに専念してください」
セリアの言葉に、俺たちは頭を下げた。
翌日から、俺たちの日々は、これまでとは違う密度で過ぎていった。帝都には、カレナの魔術師レイアよりも、さらに高度な指導者たちがいた。
「風纏と身体強化、同時発動の精度が、まだ甘いね」
紹介された魔導士の老人、ゼノンは、俺の動きを見て、開口一番、そう指摘した。
「戦闘中、常時二つの魔法を維持するには、MP配分の感覚を、身体で覚え込む必要がある。今のままじゃ、いざという時、息切れする」
俺は、ゼノンの指導のもと、来る日も来る日も、魔法の同時発動と、実戦を想定した動きの訓練を繰り返した。
【新スキルを習得しました】
「並列詠唱・初級」
【並列詠唱・初級】
複数の支援魔法を、より少ないMP消費で
同時維持できるようになる
訓練を重ねるうち、俺の中で、既存のスキルにも、確かな変化が生まれ始めていた。
【スキルが成長しました】
「風纏・初級」 → 「風纏・中級」
【風纏・中級】
敏捷性の強化幅が上昇し、
発動中のMP消費が軽減される
【スキルが成長しました】
「身体強化・初級」 → 「身体強化・中級」
【身体強化・中級】
STR・AGIの底上げ幅が上昇し、
効果時間が延長される
「同時発動の負荷が減った分、質そのものも上げられたようだね」
ゼノンの言葉に、俺は、確かな手応えを感じていた。
同じ頃、ユイは、帝都の剣術道場で、より実戦的な剣技を学んでいた。タクトも、防具を活かした受け流しの技術を、専門の指導者から、みっちりと叩き込まれていた。
【新スキルを習得しました】(ユイ)
「連撃の型・初級」
【新スキルを習得しました】(タクト)
「守りの構え・初級」
三人で、互いの成長を確認し合うたび、俺たちは、少しずつ、あの敗北の記憶を、前進の力に変えていった。
修行を始めて数日が経ったある日、俺たちは、鍛錬の合間に、帝都の闘技場へと足を運んだ。実戦形式で、自分たちの成長を確かめるためだった。
観客席から、模擬戦の様子を眺めていると、聞き覚えのある声が、背後からかかった。
「精が出るな」
振り返ると、そこには、クロトが立っていた。
「クロト……お前も、帝都に?」
「ああ。カレナでの実績が認められて、こっちに拠点を移した。お前らも、例の調査団だったんだな。噂は、聞いてる」
クロトは、俺たちの様子を、値踏みするように眺めた。
「随分、思い詰めた顔してるな。何があった」
俺は、少し迷ったあと、ガイウスとの戦いについて、簡単に話した。クロトは、黙って耳を傾けていた。
「LV52か。そりゃ、今のお前らじゃ、分が悪いだろうな」
「今、鍛え直してるところだ」
「ふうん」
クロトは、少し考える素振りを見せたあと、不意に、口の端を上げた。
「なら、俺と一戦、やってみるか」
「え……」
「模擬戦だ。ここなら、LPのやり取りは発生しない。お前の今の実力、確かめてやるよ」
その提案に、俺は、少し戸惑った。だが、断る理由もなかった。
「分かった。やろう」
俺たちは、闘技場の正式な決闘手続きを踏み、模擬戦用の区画へと移動した。ユイとタクトが、心配そうに見守る中、俺とクロトは、向かい合った。
「本気で来い。手加減は、しない」
クロトの言葉に、俺は頷いた。
「望むところだ」
開始の合図とともに、クロトが、猛烈な速度で踏み込んできた。俺は、風纏を発動させ、その一撃をかわす。
【解析中……】
【クロト】
LV:31
思っていた以上に、成長していた。俺は、身体強化を重ねがけしながら、反撃の隙を窺った。
クロトの攻撃は、鋭く、迷いがなかった。討伐に特化した、無駄のない動き。俺は、その圧力を、真正面から受け止めながら、必死に対応した。
「甘い!」
クロトの追撃を、俺は、紙一重でかわした。だが、体勢を崩しかけたところに、さらなる連撃が襲いかかる。
「ここは……!」
俺は、並列詠唱で、回避の心得と風纏を同時に維持しながら、隙を探った。クロトの動きには、僅かながら、規則性があった。連続攻撃の後、必ず一瞬、呼吸を整える間がある。
「そこ、だ……!」
俺は、その一瞬を狙い、踏み込んだ。短剣が、クロトの防御の隙間を縫って、僅かに掠める。
「やるじゃないか」
クロトが、口の端を上げた。だが、その表情には、余裕が残っていた。
「まだまだ、これからだ」
戦いは、拮抗しながらも、徐々にクロトが優勢になっていった。実戦経験の差、討伐に特化した動きの洗練度――それらが、着実に、俺を追い詰めていく。
最終的に、俺は、クロトの一撃を受け、体勢を崩した。
【模擬戦、終了】
勝者:クロト
「まだ、俺には、追いつけないみたいだな」
クロトが、手を差し伸べながら言った。俺は、その手を取り、立ち上がった。
「悔しいけど、勉強になった」
「お前の動き、悪くなかったぞ。特に、あの、複数魔法を同時に維持する感覚。俺には、真似できない芸当だ」
クロトの言葉に、俺は、少し驚いた。
「討伐特化のお前が、そう言うのか」
「効率だけが、全てじゃないってことくらい、俺も分かってる。お前のそのやり方、正直、嫌いじゃない」
その言葉には、以前会った時よりも、さらに深い理解が滲んでいた。俺たちは、それぞれ違う道を選びながらも、この世界で、確かに、互いを認め合い始めていた。
「ガイウスとやらとの再戦、また力を貸してほしいなら、声かけろ」
「え……」
「俺だって、この世界の歪みには、思うところがある。討伐で稼いだ力を、そういう悪党にぶつけるのも、悪くない使い方だ」
クロトの申し出に、俺は、しばらく言葉を失った。
「ありがとう。その時は、頼らせてもらう」
俺たちは、固い握手を交わした。ユイとタクトも、クロトに、それぞれ礼を言った。
その日から、俺たちの修行は、さらに熱を帯びていった。クロトとの模擬戦は、以後も定期的に行われた。連日の模擬戦を通じて、俺の身体には、確かな変化が刻まれていった。
【スキルが成長しました】
「看破の眼」 → 「看破の瞳」
【看破の瞳】
弱点・状態異常に加え、
相手の次の行動の予兆まで、
断片的に読み取れるようになる
クロトの攻撃パターンにあった、僅かな規則性。それを見抜けたのは、偶然ではなく、この目が、確かに育っていた証だった。
【スキルが成長しました】
「回避の心得・初級」 → 「回避の心得・中級」
【回避の心得・中級】
攻撃回避時、わずかに反撃の隙を生み出せる
新しく育った看破の瞳と、回避の心得の中級化によって、俺の立ち回りは、以前とは比べ物にならないほど、精密なものになっていった。
【システム通知】
プレイヤー「リョウ」がLV25に到達しました
修行を始めて十日目、俺は、ようやく、クロトとの模擬戦で、初めて、一本を取ることができた。
その日、俺は、もう一つの成長を、確かに感じ取っていた。
【スキルが成長しました】
「回復魔法・中級」 → 「回復魔法・上級」
【回復魔法・上級】
自身、または対象のHPを大きく回復する
戦闘中の詠唱速度も上昇する
MP消費:25
「回復の質まで、上がってきてるな」
クロトが、感心したように言った。
「討伐一辺倒の俺と違って、お前は、色んな方向から、着実に積み上げてきたんだな」
その言葉に、俺は、素直に嬉しさを感じた。奪わない道を選び続けてきた俺にとって、この成長の実感は、何よりの励みだった。
「これなら、次は、もっと戦えると思います」
タクトが、拳を握りしめながら言った。
「はい。私も、随分、動きが変わった実感があります」
ユイの言葉に、俺は頷いた。
「ガイウスが、次にいつ動くか分かりません。でも、今度は、ちゃんと、対等に渡り合えるように、準備しておきましょう」
窓の外、帝都の夜景を見つめながら、俺は、自分のステータスを確認した。ガイウスとの敗北から、確かな時間が経ち、俺たちは、あの日とは違う、新しい力を、その手に掴みつつあった。
まだ、油断はできない。だが、今の俺たちなら、次こそは――そんな確かな予感を、俺は、胸の中に抱いていた。
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:25(LV20 → LV25)
HP:145/145(+27) MP:98/98(+20)
STR:78(+16) VIT:68(+14)
AGI:76(+16) INT:48(+10)
延命ポイント(LP):26.5日分
所持金:銀貨41枚
名声:375
満腹度:60/100
次のレベルまで:620/9,500
【冒険者ランク】
C
【装備】
胴:軽量強化胸当て
武器:疾風の双牙
足:革のブーツ
装飾:魔力の指輪
携帯品:保存食・簡易野営道具
【所持スキル】
・痛覚遮断
・看破の瞳(進化)
・植物知識・初級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
・回復魔法・上級(進化)
・回避の心得・中級(進化)
・風纏・中級(進化)
・身体強化・中級(進化)
・文献解読・初級
・並列詠唱・初級(NEW)
【称号】
・一線を越えた者
【フレンド】
・ユイ
・タクト
・クロト(NEW)
【パーティ】
・ユイ
・タクト
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
敗北から始まった修行の日々、そしてクロトとの絆。
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