第二十八話 軋み
第二十八話です。
どうぞよろしくお願いします。
翌朝、俺たちはギルド本部の会議室で、セリアと向き合っていた。
「昨夜、動きがありました」
セリアの表情は、これまでになく硬かった。
「楽園機関の内部で、意見の対立が生じているという情報が入りました。ライアス氏の方針――つまり、フィリア様の目覚めを待って、供給システムを穏便に終息させるという判断に、反発する一派がいるようです」
「反発、というと」
俺の問いに、セリアは、資料を机に広げた。
「急進派、とでも呼ぶべき勢力です。ライアス氏の求心力が衰えつつあることに乗じ、供給システムそのものを、自分たちの利益のために、乗っ取ろうとしている疑いがあります」
「システムを、乗っ取る……」
タクトが、呆然としたように呟いた。
「はい。当初は、フィリア様お一人のために構築された仕組みだったはずです。ですが、規模が大きくなるにつれ、それを別の目的――たとえば、自分たちの戦力強化や、地位向上のために流用しようとする者が現れても、不思議ではありません」
ユイが、眉をひそめた。
「つまり、今、供給システムは、二つの勢力に、引っ張り合われてる状態ってことですか」
「その可能性が高いです。そして、厄介なことに――」
セリアは、一枚の書類を、俺たちの前に差し出した。
「急進派のリーダー格と目される人物の名が、判明しました。カレナ支部管轄の記録にも、名前が残っています」
俺は、その書類に記された名前を見て、思わず息を呑んだ。
【ガイウス】
「これって……」
「はい。赤牙摘発の際、あなた方を助けた、ギルド直属の討伐隊長です」
その事実に、俺の中で、様々な記憶が、音を立てて繋がっていくのを感じた。あの夜、圧倒的な力で赤牙を制圧したガイウス。あの時感じた、単なる正義感だけでは説明のつかない、底知れない気配。
「ガイウスさんが、なんで……」
俺の疑問に、セリアは、静かに首を振った。
「詳しい経緯は、まだ分かりません。ですが、記録によれば、彼は、ライアス氏の初期の協力者の一人でした。年月を経て、彼の中で、何かが変わっていったのかもしれません」
「今、ガイウスさんは、どこに?」
「行方が掴めていません。ですが――」
セリアは、険しい表情で、俺たちを見た。
「もし彼が、供給システムの主導権を握ろうとしているなら、次に狙うのは、恐らく、システムの中枢――フィリア様が眠る、あの管理区画です」
その言葉に、俺は、昨日見た、カプセルの中で静かに眠る少女の姿を思い出した。無防備に、ただ目覚めを待つだけの存在。もし、ガイウスの手に落ちれば、彼女の運命は、さらに危ういものになるだろう。
「守りに、行くべきですね」
俺の言葉に、セリアは、少し驚いたような表情を見せた。
「危険が伴います。ガイウスは、この帝都でも、屈指の実力者です」
「それでも、行きます」
俺は、迷わず答えた。
「奪わずに生きる道を、俺は選んできました。でも、目の前で、誰かが不当に踏みにじられるのを、黙って見てるのは、性に合わないです」
ユイとタクトも、それぞれ頷いた。
「私も、行きます」
「俺も」
セリアは、しばらく俺たちを見つめたあと、静かに頭を下げた。
「分かりました。ギルドとしても、正式に、警備部隊を管理区画へ派遣します。皆さんには、先行して向かっていただけますか。私も、すぐに追います」
俺たちは、装備を整え直し、急いで管理区画へと向かった。大通りを抜け、王城へと続く道を、俺たちは駆けた。
「間に合うと、いいんですけど」
タクトの声には、隠しきれない緊張があった。
管理区画の入口が見えてきたところで、俺は、看破の眼を発動させた。
【解析中……】
【???】LV:52
【???】LV:31
【???】LV:29
複数の反応が、施設内に集中していた。中心の一つは、明らかに、ガイウスのものだった。
「もう、中に、入り込んでます」
俺は、施設の扉を押し開けた。廊下を駆け抜け、あの部屋――フィリアの眠るカプセルがある一室へと、俺たちは急いだ。
扉を開けると、そこには、既に破壊された操作盤と、その前に立つ、ガイウスの姿があった。ライアスは、床に膝をつき、肩から血を流している。
「ライアスさん!」
俺は、思わず叫んだ。ガイウスが、ゆっくりと振り返る。その目には、以前会った時とは、まるで違う、冷たい光が宿っていた。
「また、お前たちか」
ガイウスの声は、低く、静かだった。だが、その静けさの奥に、確かな殺気が滲んでいた。
「何を、しようとしてるんですか」
俺の問いに、ガイウスは、口の端を、僅かに歪めた。
「決まっている。この仕組みを、有効に活用するだけだ。たった一人の少女のために、これだけの力を、眠らせておくなど、あまりにも、もったいない」
「フィリアさんを、見捨てるつもりですか」
「見捨てはしない。ただ、優先順位を、変えるだけだ。この供給システムを、私の管理下に置き、より大きな目的――この帝都全体の防衛力強化に、役立てる。それの、何が悪い」
その言葉には、一片の迷いもなかった。俺は、その揺るぎなさに、逆に、薄ら寒いものを感じた。
「大きな目的のためなら、誰かを犠牲にしていいって、そういう理屈ですか」
「甘いな、小僧」
ガイウスは、俺を見据えた。
「この世界は、常に、誰かの犠牲の上に成り立っている。お前が選んできた、奪わない生き方とやらも、所詮は、周囲の理解と、余裕があってこそ、成り立つ贅沢な選択だ」
その言葉は、鋭く、俺の中の、ある種の痛いところを突いていた。だが、俺は、それでも、退くつもりはなかった。
「それでも、俺は、この道を選びます。誰かを犠牲にすることを、当たり前だとは、思いたくないので」
「ならば、力ずくで、退いてもらうまでだ」
ガイウスが、腰の大剣を抜き放った。空気が、一瞬で張り詰める。
「ライアスさんを、離れた場所へ!」
俺は叫びながら、タクトに指示を出した。タクトが、素早く、負傷したライアスを支え、部屋の隅へと避難させる。
「ユイさん、俺と正面から。タクトさんは、ライアスさんを守ってください」
「はい……!」
ガイウスが、地を蹴った。その速度は、これまで対峙したどの相手よりも、遥かに鋭かった。俺は、風纏と身体強化を同時に発動させ、なんとか、その一撃を受け流す。
【HPが減少しました】
118 → 76
一撃で、これだけの数値が動いた。俺は、改めて、目の前の相手の力量を、思い知らされた。
「観察眼……看破の眼!」
【解析中……】
【ガイウス】
弱点:明確な弱点、検出不可
状態:戦闘特化型、隙が極めて少ない
「弱点が、見えません……!」
俺の呟きに、ユイが、剣を構えながら叫んだ。
「それでも、諦めるわけには、いかないです!」
俺たちは、連携しながら、ガイウスの猛攻をしのいだ。だが、実力差は、明らかだった。一撃、また一撃と、俺のHPは、着実に削られていく。
「回復魔法!」
俺は、自分自身に回復魔法をかけながら、なんとか、態勢を立て直そうとした。だが、ガイウスの攻撃は、回復の速度を、僅かに上回っていた。
「このままじゃ……」
タクトが、焦った声を上げた。ライアスが、痛みに顔をしかめながら、俺たちに向かって叫んだ。
「もう、いい……! これ以上、巻き込まれる必要は――」
「駄目です!」
俺は、ライアスの言葉を、遮った。
「ここで退いたら、フィリアさんも、あなたも、全部、ガイウスさんの思うままになる。それは、俺には、見過ごせません」
その時、部屋の外から、複数の足音が響いた。
「ここか! 突入しろ!」
セリアの声だった。ギルド警備部隊が、次々と部屋になだれ込んでくる。ガイウスの動きが、一瞬、止まった。
「増援、か……」
ガイウスは、忌々しげに、周囲を見渡した。多勢に無勢と判断したのか、彼は、大剣を構え直しながら、後退り始めた。
「今日のところは、退くとしよう。だが、この件、終わったわけではない」
ガイウスは、そう言い残し、驚異的な速度で、部屋の奥、非常口らしき通路へと消えていった。追跡しようとするギルド職員たちを、セリアが、鋭い声で制止した。
「深追いは危険です! 今は、負傷者の手当てを優先してください!」
俺は、ようやく、詰めていた息を吐いた。HPは、危険域にまで削られていたが、なんとか、この場は凌ぎきることができた。
「ライアスさん、大丈夫ですか」
俺は、駆け寄りながら尋ねた。ライアスは、痛みに顔をしかめながらも、小さく頷いた。
「感謝する……。まさか、ここまでしてくれるとは、思わなかった」
「フィリアさんは、無事ですか」
俺の問いに、破壊された操作盤に目をやったライアスの表情が、僅かに曇った。
「装置自体は、無
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:20
HP:76/118(未回復) MP:45/78
STR:62 VIT:54
AGI:60 INT:38
延命ポイント(LP):26.3日分
所持金:銀貨41枚
名声:375(+15)
満腹度:70/100
次のレベルまで:1,780/8,000
【冒険者ランク】
C
【装備】
胴:軽量強化胸当て
武器:疾風の双牙
足:革のブーツ
装飾:魔力の指輪
携帯品:保存食・簡易野営道具
【所持スキル】
・痛覚遮断
・看破の眼
・植物知識・初級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
・回復魔法・中級
・回避の心得・初級
・風纏・初級
・身体強化・初級
・文献解読・初級
【称号】
・一線を越えた者
【フレンド】
・ユイ
・タクト
【パーティ】
・ユイ
・タクト
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
新たな敵、ガイウスの正体。
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