第二十四話 旧図書館
第二十四話です。
どうぞよろしくお願いします。
翌朝、俺たちは、セリアから新たな指示を受けた。
「『あの方』という言葉の手がかりを探るため、帝都の旧図書館に向かってほしい。Elysium創設初期の記録が、一部、そこに保管されているはずです」
「旧図書館、ですか」
「はい。今のギルド本部にある資料は、後年に整理されたものが中心です。創設当時の生の記録は、旧図書館の書庫にしか残っていません」
俺たちは、セリアが用意してくれた通行証を手に、帝都の外れにある、古びた石造りの建物へと向かった。
図書館の中は、ひんやりとした空気に満ち、無数の書架が、迷路のように奥まで続いていた。管理人らしき老人に案内され、俺たちは、地下の特別書庫へと通された。
「創設初期の記録は、この一角にまとめてある。ただし、かなり古い上に、破損している資料も多い。丁寧に扱ってくれ」
老人はそう言い残し、俺たちに書庫を任せた。
「どこから、探しましょうか」
タクトの問いに、俺は少し考え、看破の眼を発動させた。書庫全体に意識を巡らせると、微かに、他とは異なる気配を放つ一角があった。
【解析中……】
【古い記録の束】
反応:微弱(特異)
「あそこ、何かありそうです」
示した先の棚には、埃をかぶった、革表紙の資料が並んでいた。俺は慎重に、その一冊を手に取った。
【Elysium創設計画書(写し・一部)】
ページをめくると、俺の知らない専門用語が、びっしりと並んでいた。だが、その中に、目を引く一文があった。
「本計画の発起人にして、初代管理者権限保有者――」
その先の部分は、経年劣化で判読できなくなっていた。俺は舌打ちしそうになるのを堪え、他の資料を探した。
「これ、見てください」
ユイが、別の資料を差し出した。古い新聞記事の切り抜きのようなものだった。
「二十年以上前の記事みたいです。『難病の少女、意識転送実験に参加』って」
記事には、ぼやけた写真とともに、当時のElysium研究の初期段階に関する報道が載っていた。実験に参加したという少女の名前は、経年劣化で読み取れなかった。
「これが、関係あるんでしょうか」
「分かりません。でも、繋がってる気がします」
俺たちは、さらに書庫を探索した。しばらくすると、タクトが、奥の棚から、一冊のノートを見つけ出した。
「これ、誰かの日記、みたいです」
古びたノートには、丁寧な筆致で、研究記録らしきものが綴られていた。
「……被験者第一号の容態、依然として安定せず。延命処置として、経験値供給システムの試験運用を開始する。効果は、限定的ながら確認できた……」
その一文に、俺は思わず息を呑んだ。
「これ、まさに……」
「経験値供給の、原点かもしれないですね」
ユイの言葉に、俺は頷いた。ノートをさらに読み進める。
「……被験者は、私の娘だ。この技術が、彼女を救う唯一の手段だと、私は信じている。世界中の、あらゆる経験値を、彼女のために――」
そこで、日記の記述は、途切れていた。ページの残りは、破り取られたように失われている。
「娘……」
俺は、その言葉を、静かに繰り返した。もし、この日記の主が、楽園機関の創設に関わった人物だとしたら――「あの方」とは、この記録に出てくる「娘」のことなのだろうか。
「この記録、セリアさんに、すぐに見せた方がいいですね」
俺の言葉に、ユイとタクトが頷いた。
その時、視界の端に、通知が浮かんだ。
【新スキルを習得しました】
「文献解読・初級」
【文献解読・初級】
古い文書や暗号化された記録の解読精度が上昇する
読み込んだ資料の量と、集中して解析を続けた経験が、新しいスキルとして結実したらしかった。奪わない道を選び続けてきた俺の中に、また一つ、この世界で生き抜くための力が積み重なっていた。
俺たちは、見つけた資料をまとめ、図書館を後にした。セリアの待つギルド本部へと、急いで向かう。
「これは……」
資料に目を通したセリアの表情が、みるみる険しくなっていった。
「創設者の個人的な記録……。ここまで詳細なものが残っていたとは」
「あの方、って、この日記に出てくる、娘さんのことなんでしょうか」
俺の問いに、セリアは、慎重に頷いた。
「可能性は、十分にあります。もしそうだとすれば――楽園機関の目的は、単なる不正な利益追求ではなく、たった一人の少女を、延命させ続けるための、巨大な仕組みということになります」
その言葉に、会議室の空気が、重く沈んだ。
「創設者は、今も、生きているんでしょうか」
「分かりません。ですが、もし生きているとすれば、この帝都の、どこかに関わりがあるはずです」
セリアは、資料を丁寧にまとめながら、俺たちを見た。
「今日の発見は、非常に大きな前進です。引き続き、慎重に調査を進めましょう」
宿舎に戻る道すがら、俺は、日記の内容を、何度も頭の中で反芻していた。
「誰かを救いたいという気持ち、俺には、分かる気がします」
俺の呟きに、ユイが、静かに頷いた。
「でも、そのために、他の大勢の人の時間を、犠牲にしていいのかどうかは、別の話ですよね」
「はい。俺も、同じことを思ってます」
奪わずに生きる道を選んできた俺にとって、この日記の主の選択は、決して他人事ではなかった。誰かを救いたいという純粋な願いが、巨大な仕組みとなり、結果として、無数の人々から時間を奪い続けている――その矛盾に、俺は、複雑な感情を抱かずにはいられなかった。
宿舎の部屋に戻り、俺は自分のステータスを確認した。
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延命ポイント(LP):26.4日分
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数字は、今日も静かに減り続けている。だが、この謎の核心に近づくたびに、俺の中の決意は、より強固なものになっていた。
「あの方」の正体、そして、楽園機関の本当の目的。その真実に辿り着くまで、俺は、この道を進み続けるつもりだった。
帝都の夜が、静かに更けていく。窓の外に広がる景色を眺めながら、俺は、次の一手を、静かに考え始めていた。
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:20
HP:118/118 MP:78/78
STR:62 VIT:54
AGI:60 INT:38(+1、文献解読による微増)
延命ポイント(LP):26.4日分
所持金:銀貨58枚
名声:330
満腹度:40/100(低下中)
次のレベルまで:1,320/8,000
【冒険者ランク】
C
【装備】
胴:軽量強化胸当て
武器:疾風の双牙
足:革のブーツ
装飾:魔力の指輪
【所持スキル】
・痛覚遮断
・看破の眼
・植物知識・初級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
・回復魔法・中級
・回避の心得・初級
・風纏・初級
・身体強化・初級
・文献解読・初級(NEW)
【称号】
・一線を越えた者
【フレンド】
・ユイ
・タクト
【パーティ】
・ユイ
・タクト
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
創設者の日記、そして「あの方」の正体への手がかり。
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