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「命を喰うレベルアップ ―僕は誰かの余命で強くなる―」  作者: 黒豚
第2章 供給の行方

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第二十三話 楽園機関

第二十三話です。

どうぞよろしくお願いします。


翌朝、俺たちは、帝都ギルド本部の一角にある、会議室へと案内された。


長机の周りには、既に何人もの人物が着席していた。セリアを中心に、帝都ギルドの上級職員らしき者たち、そしてヴォルグを含む、カレナからの調査団幹部。俺たちは、末席に近い場所に、静かに腰を下ろした。


「皆さん、お集まりいただき感謝します」


セリアが、会議の開始を告げた。壁に設置された、魔道具らしき装置に、資料が投影される。


「まず、これまでの調査結果を、整理します」


投影された資料には、複雑に絡み合った、組織の相関図が描かれていた。頂点には「黄金の羅針盤」の名。その下に、いくつもの支流のような組織名が枝分かれし、最終的に、いくつかの拠点へと収束していく。


「赤牙をはじめとする、各地の非公式組織は、末端の実行部隊にすぎません。彼らが集めた経験値供給の記録を辿ると、複数の中継地点を経由して、最終的に、一つの供給先へと集約されていることが判明しました」


セリアは、資料の一点を指し示した。そこに書かれていた文字を見て、俺は思わず、息を呑んだ。


【楽園機関(らくえんきかん)】


「楽園機関……?」


俺の呟きに、セリアが頷いた。


「私たちも、この名を掴んだのは、つい最近のことです。表向きは存在しない、非公式の組織。ですが、押収した記録の中に、繰り返しこの名称が登場します」


「その組織が、経験値供給の、最終的な受け手ということですか」


俺の問いに、セリアは、慎重に言葉を選びながら答えた。


「その可能性が高い、というのが現時点での見解です。ただ、なぜ、これほど大規模な仕組みを使ってまで、LPや経験値を集めているのか――目的については、まだ、確証を得られていません」


会議室に、重い沈黙が落ちた。ヴォルグが、口を開いた。


「一つ、気になる点がある。この楽園機関という名前、Elysiumという、この世界そのものの名前にも、通じるものがある」


その指摘に、俺の背筋を、冷たいものが伝った。楽園――エリュシオン。この世界の運営そのものと、何か関わりがあるのではないか、という疑念が、静かに頭をもたげた。


「Elysiumの運営元、つまり現実世界の企業が、何か関わっているということですか」


俺の問いに、セリアは、慎重に頷いた。


「断定はできません。ですが、その可能性を、排除することはできません」


その時、会議室の外から、微かな物音がした。俺は反射的に、看破の眼を発動させた。


【解析中……】

【???】LV:35


会議室の扉の外、廊下に、一人の人影があった。俺は、思わず立ち上がった。


「誰か、外にいます」


俺の言葉に、周囲の空気が、一瞬で張り詰めた。ヴォルグが、素早く指示を出す。


「警備隊を呼べ! 会議室を封鎖しろ!」


だが、それより早く、扉が勢いよく蹴り破られた。フードを深く被った人物が、素早い動きで室内に飛び込んでくる。手には、黒く輝く短剣が握られていた。


「動くな! 資料を渡せ!」


侵入者の声に、室内は騒然となった。帝都ギルドの職員たちが、慌てて武器を構える。だが、その動きは、明らかに侵入者の速度に追いついていなかった。


「俺が、抑えます!」


俺は、反射的に前へ出た。侵入者が、資料を投影する魔道具に向かって、短剣を振りかざす。俺は、風纏を発動させながら、その動きに割り込んだ。


「させません!」


短剣同士がぶつかり合い、火花が散った。侵入者の一撃は、俺の想像以上に鋭かった。だが、この一か月で積み重ねてきた実力は、決して伊達ではなかった。


「タクトさん、右から!」


「はい!」


タクトが、籠手を構えて、侵入者の側面から迫る。ユイも、剣に魔力を纏わせ、退路を塞ぐように回り込んだ。


侵入者は、三方向からの圧力に、一瞬、動きを止めた。俺はその隙を突き、看破の眼で、相手の弱点を探る。


【解析中……】

【???】

状態:焦燥(判断力低下)


「今です!」


俺は、疾風の双牙を構え、踏み込んだ。侵入者は、咄嗟に防御の構えを取ったが、俺の一撃は、その防御を僅かに上回った。短剣が弾き飛ばされ、侵入者は体勢を崩す。


「タクトさん!」


「はい!」


タクトの籠手が、侵入者の腕を確実に捉えた。ユイも、素早く相手の背後に回り込み、剣を突きつける。


「もう、逃げられません」


俺の言葉に、侵入者は、しばらく抵抗する素振りを見せたが、やがて、諦めたように、その場に膝をついた。


騒ぎを聞きつけた警備隊が、次々と会議室に駆けつけてきた。侵入者は、素早く拘束され、連行されていった。


「危ないところだった……。助かった、感謝する」


セリアが、安堵の表情で、俺たちに礼を言った。


「あの人、何者だったんでしょう」


ユイの問いに、ヴォルグが、険しい表情で答えた。


「恐らく、楽園機関の関係者だろう。会議の内容が、外部に漏れることを、恐れたんだ」


「つまり、俺たちが、核心に近づいてる証拠、ってことですね」


俺の言葉に、セリアが頷いた。


「その通りです。ここまで直接的な妨害を仕掛けてくるということは、私たちの調査が、相当な部分まで、真実に迫っているということでしょう」


会議は、一旦中断され、拘束した侵入者への尋問が行われることになった。その間、俺たちは、帝都ギルドの一室で、待機を命じられた。


「なんだか、想像以上に、大きな話になってきましたね」


タクトが、疲れたような、それでいて興奮を隠しきれない様子で言った。


「はい。楽園機関、か……」


俺は、その名を、頭の中で何度も反芻した。もし、この組織が、Elysiumの運営そのものと繋がっているのだとしたら――俺たちが今、直面している問題は、単なる不正組織の摘発では、済まされないものになる。


「リョウさん、大丈夫ですか。顔色、あまり良くないですけど」


ユイが、心配そうに、俺の顔を覗き込んだ。


「あ、すみません。ちょっと、色々考えすぎてて」


「無理もないです。私も、正直、頭がついていってない部分あります」


三人で、しばらく黙り込んでいると、扉が開き、セリアが戻ってきた。


「尋問の結果が、出ました」


セリアの表情は、これまでになく、深刻なものだった。


「あの侵入者は、詳しい情報こそ吐きませんでしたが、一つだけ、興味深いことを口にしました」


俺たちは、身を乗り出した。


「楽園機関の存在意義について、こう言ったんです。『あの方の、延命のため』と」


「あの方……?」


俺の呟きに、セリアは、静かに首を振った。


「それ以上のことは、口を割りませんでした。ですが――もし、その言葉が事実なら、楽園機関という組織全体が、たった一人の人物のために、経験値やLPを集め続けている、という可能性が浮上します」


会議室に、重い沈黙が落ちた。無数のプレイヤーから吸い上げられたLPが、たった一人のために、注ぎ込まれ続けている――もしそれが事実なら、この世界の根幹に関わる、あまりにも重い真実だった。


「その、あの方、っていうのが誰なのか、調べる必要がありますね」


俺の言葉に、セリアは頷いた。


「はい。ここからは、さらに慎重な調査が必要になります。皆さんには、引き続き、協力を仰ぎたい」


「もちろんです」


俺は、迷わず頷いた。ユイとタクトも、同じように頷く。


「ただし」


セリアは、真剣な眼差しで、俺たちを見た。


「今日のような襲撃が、今後も起きる可能性があります。危険は、これまで以上に大きくなるでしょう。それでも、進みますか」


その問いに、俺は、しばらく考えた。三十日という、自分自身のタイムリミット。その中で、この謎に、どこまで深入りするべきなのか。


だが、答えは、既に決まっていた。


「進みます。誰かの時間が、意図的に奪われ続けているなら――俺は、それを見過ごせません」


俺の言葉に、セリアは、小さく微笑んだ。


「頼もしい言葉です。では、明日以降、さらに詳しい調査方針を、詰めていきましょう」


会議が終わり、俺たちは、宿舎への帰路についた。帝都の夜景が、昼間とはまた違う表情で、街を彩っている。


「今日一日で、随分、色々なことが分かりましたね」


ユイの言葉に、俺は頷いた。


「はい。楽園機関、そして『あの方』。まだ、正体は分かりませんけど……」


「少しずつ、核心に近づいてる気がします」


タクトの言葉に、俺も同意した。


宿舎の部屋に戻り、俺は、自分のステータスを確認した。


────────────────────

延命ポイント(LP):26.5日分

────────────────────


今日の戦闘による微増を差し引いても、緩やかな減少は続いている。だが、その数字を見ながら、俺は、これまでとは少し違う感覚を抱いていた。


自分自身の時間が削られていく恐怖と、誰かの時間を意図的に奪い続ける、巨大な仕組みへの怒り。その両方が、俺の中で、確かな推進力になっていた。


「明日から、本格的に動くことになりそうですね」


窓の外を見つめながら、俺は、静かに呟いた。


奪わずに生きる道を、俺は選び続けてきた。だが今、その選択の先に、この世界そのものの、大きな歪みが見え始めている。三十日という、自分のタイムリミットと向き合いながら、俺は、この謎の中心へと、確かに近づき始めていた。


帝都ヴェルシアの夜は、静かに、しかし確かに、次の局面への予兆を孕みながら、更けていった。

────────────────────

【ステータス】

名前:リョウ

LV:20

HP:118/118 MP:78/78

STR:62 VIT:54

AGI:60 INT:37


延命ポイント(LP):26.5日分

所持金:銀貨58枚

名声:330(+18、侵入者確保への貢献分)

満腹度:48/100


次のレベルまで:1,320/8,000


【冒険者ランク】

C


【装備】

胴:軽量強化胸当て

武器:疾風の双牙

足:革のブーツ

装飾:魔力の指輪


【所持スキル】

・痛覚遮断

・看破の眼

・植物知識・初級

・木工の心得・初級

・調合の心得・初級

・回復魔法・中級

・回避の心得・初級

・風纏・初級

・身体強化・初級


【称号】

・一線を越えた者


【フレンド】

・ユイ

・タクト


【パーティ】

・ユイ

・タクト

────────────────────


最後まで読んでいただきありがとうございました。

「楽園機関」、そして「あの方」という謎の存在。

物語が、大きな核心に近づいてきました。

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