第二十二話 帝都への道
第2章、第二話です。
どうぞよろしくお願いします。
出発の日取りが決まったのは、それから三日後のことだった。
「調査団の編成が整った。帝都までは、馬車で五日ほどの行程になる」
ヴォルグの説明に、俺たちは頷いた。調査団は、ギルド職員数名、そして俺たちを含む、実力の認められた冒険者パーティが数組という構成だった。
出発の朝、カレナの東門には、既に大きな馬車が何台も列をなしていた。俺たちが指定された馬車に近づくと、見覚えのある顔があった。
「よお、また会ったな」
軽装の旅装束に身を包んだ、ガイだった。
「ガイさん、この調査団に?」
「ああ。帝都との行き来には慣れてるからな、道案内役として、駆り出された。よろしく頼むぜ」
思わぬ再会に、俺は少しほっとした。見知った顔があるというだけで、この長旅への不安が、いくらか和らぐ気がした。
「お前さんたち、ずいぶん貫禄がついたな。最初に会った時とは、別人みたいだ」
「色々ありましたから」
俺の答えに、ガイは愉快そうに笑った。
出発の合図とともに、馬車の車列は、ゆっくりと動き始めた。カレナの街並みが、次第に遠ざかっていく。俺は窓の外を眺めながら、この街で過ごした日々を、静かに振り返っていた。
最初の頃は、右も左も分からなかった。赤牙という脅威に怯え、夜市の謎に翻弄され、それでも少しずつ、この世界での立ち位置を築いてきた。
「感慨深い顔してますね」
隣に座るユイが、そう言って微笑んだ。
「はい。ここまで、色々ありましたから」
「これからも、色々ありそうですけどね」
「はい、きっと」
馬車の旅は、思っていたより快適だった。とはいえ、五日という長丁場は、決して楽なものではない。道中、俺たちは、他の調査団メンバーとも、少しずつ言葉を交わすようになった。
「あんたら、若いのに、大したもんだな。この規模の調査団に選ばれるとは」
同じ馬車に乗り合わせた、ベテランらしき冒険者の男が、感心したように言った。
「まだまだ、経験不足なので。皆さんに、色々教えていただければと」
「殊勝な心がけだ。今どき、珍しいタイプだよ、あんたは」
道中、俺たちは何度か、休憩を兼ねた野営を行った。焚き火を囲みながら、ガイが道中の危険について、丁寧に説明してくれた。
「帝都に近づくにつれて、街道の治安は良くなる。だが、道中の森林地帯は、まだ油断ならない。特に、三日目に通る『霧の谷』ってとこは、視界が悪くて、モンスターが多いから、気をつけろ」
その予告通り、三日目の道中、俺たちは霧に包まれた谷間へと差し掛かった。視界は白く霞み、五メートル先すら、はっきりと見通せない。
「観察眼、いや、看破の眼、使っておきます」
俺は意識を集中させ、周囲を探った。
【解析中……】
【周辺環境】
生体反応:複数(不規則な動き)
「何か、いますね」
その言葉と同時に、霧の奥から、複数の甲高い鳴き声が響いた。
「来るぞ、構えろ!」
ガイの号令とともに、俺たちは臨戦態勢に入った。霧を切り裂くように、翼を持った小型の魔物たちが、一斉に襲いかかってくる。
【解析中……】
【霧鴉】
LV:18
群れ:多数
数はかなり多いが、一体一体の強さは、今の俺たちにとって、それほど脅威ではなかった。
「風纏、発動」
掌に、淡い風の気配を纏わせる。動きが、以前より格段に軽くなるのを感じた。ユイも、剣に魔力を纏わせ、タクトも、盾のように使う籠手を構える。
「三人で、まとめて片付けましょう」
俺たちは連携しながら、次々と襲いくる霧鴉を打ち払っていった。以前なら苦戦したであろう数の敵も、今の実力なら、着実にさばいていける。
【霧鴉を討伐しました】(複数)
【討伐経験値を獲得しました】経験値:+180(累計)
戦闘が落ち着くと、周囲の霧鴉は、残らず討伐されていた。他の調査団メンバーたちも、それぞれ危なげなく対処していたようだった。
「見事なもんだ。若いのに、随分、腕を上げたな」
ガイの言葉に、俺は少し照れくさくなりながらも、確かな成長を実感していた。
視界の端に、通知が浮かぶ。
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延命ポイント(LP):26.6日分(+0.2)
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多数の討伐による、まとまった増加だった。減り続けていた数字が、久しぶりに増える方向に動いたことに、俺は小さな安堵を覚えた。
霧の谷を抜けると、視界が一気に開けた。それから二日、俺たちは順調に、帝都への道を進んでいった。
五日目の午後、遠方に、これまで見たどの街とも違う、圧倒的な規模の城郭都市が姿を現した。
「あれが……」
タクトが、言葉を失ったように呟いた。
「帝都、ヴェルシア。この世界の、中枢だ」
ガイの言葉に、俺たちは、しばらくその威容に見入っていた。カレナの城壁が、遥かに小さく感じられるほどの、巨大な城壁。その中に、無数の尖塔や、大きな建造物が立ち並んでいる。
馬車が門に近づくにつれ、行き交う人々の数も、桁違いに増えていった。商人、冒険者、貴族らしき衣装をまとった人々――様々な立場の者たちが、雑踏の中を行き交っている。
門の前で、俺たちは改めて、身分と目的の確認を受けた。
「カレナ支部からの合同調査団だな。確認した、通っていい」
門をくぐった瞬間、俺は、これまでのどの街とも違う、圧倒的な密度の空気に、思わず息を呑んだ。
石畳の大通りは、カレナのものより、さらに広く整備されている。壮麗な建物が、道の両側に立ち並び、遠くには、王城と思われる、ひときわ高い建造物が見えた。
「すごい……本当に、すごいです」
ユイが、興奮を隠しきれない様子で呟いた。
「ここが、帝都か……」
俺も、同じ気持ちだった。始まりの村から、カレナへ、そして今、この帝都へ。俺の見てきた世界は、少しずつ、確実に広がっている。
「調査団の宿舎は、こっちだ。ついてきな」
ガイに先導され、俺たちは帝都の中心部にほど近い、大きな建物へと案内された。ギルド本部と併設された、調査団専用の施設らしかった。
到着すると、既に、帝都のギルド関係者らしき人物たちが、俺たちを出迎えた。その中心にいたのは、鋭い眼光を持つ、壮年の女性だった。
「ようこそ、カレナからの調査団の皆さん。私は、帝都ギルド本部で、今回の件を統括している、セリアと申します」
セリアは、俺たちを見渡し、資料に目を落とした。
「ヴォルグさんから、あなた方の活躍については、詳しく聞いています。特に、赤牙の摘発において、決定的な役割を果たしたと」
「俺たちは、ただ、報告しただけで」
俺の謙遜に、セリアは、小さく首を振った。
「その報告がなければ、ここまで調査は進みませんでした。謙遜する必要はありません」
セリアは、資料を机に広げた。
「本題に入ります。経験値供給の受け手として浮上している『黄金の羅針盤』について、こちらでも独自に調査を進めていました。そして――」
セリアの表情が、一段と険しくなった。
「その先に、もっと大きな存在が、関わっている可能性が出てきました」
その言葉に、俺たちは、思わず身を乗り出した。
「もっと、大きな存在、というのは」
「詳しい話は、明日、正式な会議の場で。今夜は、まず旅の疲れを癒してください」
セリアは、そう言って、話を切り上げた。俺たちは、案内された宿舎の一室に、それぞれ荷物を置いた。
窓の外、帝都の夜景が、これまで見たどの景色よりも、遥かに煌びやかに広がっていた。
「明日、何が分かるんでしょうね」
ユイが、窓の外を見つめながら呟いた。
「分かりません。でも、多分――これまでで一番、大きな話になる気がします」
俺の言葉に、タクトが、緊張した面持ちで頷いた。
「俺たち、ちゃんと、ついていけますかね」
「大丈夫です。ここまで、一緒に来られたんですから」
俺は、自分に言い聞かせるように、そう答えた。三十日という数字は、今もまだ、頭の中で動き続けている。だが今、俺の意識は、その先にある、この世界の根幹に関わる真実へと、確かに向けられていた。
帝都ヴェルシアの夜が、静かに更けていく。俺は、明日訪れるであろう、大きな転機を予感しながら、ゆっくりと、目を閉じた。
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:20
HP:118/118 MP:78/78
STR:62 VIT:54
AGI:60 INT:37
延命ポイント(LP):26.6日分(+0.2)
所持金:銀貨58枚
名声:312
満腹度:55/100
次のレベルまで:1,320/8,000
【冒険者ランク】
C
【装備】
胴:軽量強化胸当て
武器:疾風の双牙
足:革のブーツ
装飾:魔力の指輪
【所持スキル】
・痛覚遮断
・看破の眼
・植物知識・初級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
・回復魔法・中級
・回避の心得・初級
・風纏・初級
・身体強化・初級
【称号】
・一線を越えた者
【フレンド】
・ユイ
・タクト
【パーティ】
・ユイ
・タクト
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
帝都ヴェルシアへの到着、そして新たな謎の予感。
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