第二十一話 一か月後
赤牙摘発から、およそ一か月が過ぎた。
この世界の時間の流れを思えば、現実ではまだ数日程度のことなのだろう。それでも俺にとっては、確かに、長い一か月だった。
【システム通知】
プレイヤー「リョウ」がLV20に到達しました
日々は、目まぐるしく過ぎていった。討伐と採取を織り交ぜながら、着実に力をつけ、時にはレイアのもとで、新しい魔法の指導を受けた。
【新スキルを習得しました】
「回復魔法・中級」
【回復魔法・中級】
自身、または対象のHPを中程度回復する
MP消費:12
【新スキルを習得しました】
「身体強化・初級」
【身体強化・初級】
一定時間、STR・AGIを底上げする
MP消費:継続
風纏と組み合わせた立ち回りは、以前とは比較にならないほど、洗練されていた。ユイも、剣に魔力を纏わせる技を覚え、タクトも、盾のように使う籠手の扱いに、すっかり熟練していた。
冒険者ランクも、いつしかCにまで上がっていた。
「一人前として扱われる目安、って言われた時のこと、覚えてます」
ユイが、感慨深そうに呟いた。
「はい。あの頃は、まだ自分がここまでやれるとは、思ってなかったです」
装備も、稼いだ資金に見合ったものへと更新していた。俺の武器は、ある依頼の報酬として手に入れた、微かに風の力を宿す短剣――「疾風の双牙」に変わっていた。ユイの剣にも、タクトの籠手にも、それぞれ相応の強化が施されている。
【現在の所持金】
銀貨58枚
日々の積み重ねは、確かな形になっていた。それでも、俺の頭の片隅には、常に一つの疑問が居座り続けていた。
経験値供給の、受け手。
赤牙の摘発から一か月、ヴォルグたちの調査は、少しずつ進んでいるという話だったが、決定的な情報は、まだ俺たちのもとには届いていなかった。
その日の午後、俺たちはギルドに呼び出された。応接室には、ヴォルグが、以前より一層疲れた表情で待っていた。
「待たせたな。ようやく、話せる段階まで来た」
ヴォルグは、机の上に、分厚い資料を広げた。
「赤牙から押収した記録の解読が、進んだ。経験値供給――厳密には、討伐によって得たLPの増加分を、特定のルートを通じて、まとめて誰かに流していた仕組みが、明らかになった」
「誰が、受け取ってたんですか」
俺の問いに、ヴォルグは、少し言葉を選ぶように黙り込んだ。
「一個人ではない。恐らく、複数の組織が絡んだ、大規模な仕組みだ。そして、その中心にあるのが……帝都に本部を置く、大手の商業ギルド、『黄金の羅針盤』の関係先だという可能性が浮上している」
帝都。俺は、その言葉を、頭の中で繰り返した。カレナよりもさらに大きな、この世界の中心とも言える場所があるという話は、以前、ガイから聞いたことがあった。
「黄金の羅針盤って、有名な組織なんですか」
「ああ。表向きは、この世界全域に流通網を持つ、巨大な商業組織だ。だが、今回の件が事実なら、その裏で、規約違反すれすれの仕組みを、組織的に運用していることになる」
ヴォルグは、資料を閉じ、俺たちを見据えた。
「正直に言う。この件は、俺たちカレナのギルド支部だけで、片付けられる規模を超えている。帝都本部への正式な報告と、合同調査が必要になる」
「俺たちは、これから、どうすればいいんですか」
「お前さんたちの実力と実績を鑑みて、一つ、提案がある」
ヴォルグは、俺たちを、真剣な眼差しで見つめた。
「帝都行きの、合同調査団に、正式に加わってみないか。もちろん、危険は伴う。だが、ここまでの経緯を知る者として、お前さんたちの視点は、貴重だと思っている」
その提案に、俺は、ユイとタクトと顔を見合わせた。
帝都――この世界の、さらに奥深くへ。俺たちの日常は、また一つ、大きな転換点を迎えようとしていた。
「少し、考える時間、いただけますか」
「もちろんだ。急ぐ話ではない」
応接室を出ると、俺たちは、しばらく無言のまま、街を歩いた。
「帝都、か……」
タクトが、ぽつりと呟いた。
「行ってみたい気持ちも、正直あります。でも、危険も大きいですよね、きっと」
「はい。俺たちの実力じゃ、まだ足りない部分も、多いと思います」
ユイの言葉に、俺は頷いた。だが同時に、心のどこかで、確かな衝動もあった。
奪わずに生きる道を選び続けてきた俺にとって、この経験値供給という仕組みは、看過できないものだった。誰かの時間が、意図的に、悪意ある形で吸い上げられている――その事実の中心に、少しでも近づきたいという気持ちが、確かにあった。
「俺は、行ってみたいと思ってます」
俺の言葉に、ユイとタクトが、それぞれ俺を見た。
「奪わずに生きる道を、俺は選んできました。でも、その一方で、意図的に奪い続けてる誰かがいるなら――見過ごすのは、俺の性に合わない気がして」
「私も、同じ気持ちです」
ユイが、静かに、しかし確かな声で言った。
「俺も、行きます。二人だけに行かせるわけには、いかないですし」
タクトの言葉に、俺は、少し胸が熱くなるのを感じた。この一か月で積み上げてきたのは、レベルやスキルだけではない。互いへの信頼も、確かに育っていた。
ギルドに戻り、俺たちはヴォルグに、正式に合同調査団への参加を伝えた。
「よく決めてくれた。準備が整い次第、帝都への出発になる。数日の猶予があるから、身辺を整えておいてくれ」
ヴォルグの言葉に、俺たちは頷いた。応接室を出ると、夕暮れの光が、街を橙色に染めていた。
宿への帰り道、俺は、自分のステータスを確認した。
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延命ポイント(LP):26.4日分
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一か月分の活動を経て、数字は、確かに減っていた。討伐による微増を重ねてもなお、自然減少の重みには、及ばない。三十日という数字が、もう三分の一近く、削れている計算になる。
それでも、俺の中に、後悔はなかった。この一か月で見てきたもの、出会った人々、そして、これから向かう先にあるであろう、大きな真実。それらすべてが、今の俺にとって、確かな意味を持っていた。
「帝都、どんな場所なんでしょうね」
ユイが、夕焼けを見上げながら呟いた。
「行けば、分かります」
俺の言葉に、ユイとタクトが、それぞれ小さく笑った。三十日という数字は、まだ確かに動き続けている。だが今、俺たちの前には、これまでとは比べ物にならないほど大きな、新しい目標が、はっきりと見え始めていた。
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:20(LV13 → LV20)
HP:118/118(+54) MP:78/78(+36)
STR:62(+24) VIT:54(+23)
AGI:60(+23) INT:37(+15)
延命ポイント(LP):26.4日分(一か月の活動による減少)
所持金:銀貨58枚
名声:312(+130)
満腹度:68/100
次のレベルまで:1,140/8,000
【冒険者ランク】
C(NEW、D → C)
【装備】
胴:軽量強化胸当て
武器:疾風の双牙(更新)
足:革のブーツ
装飾:魔力の指輪
【所持スキル】
・痛覚遮断
・看破の眼
・植物知識・初級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
・回復魔法・中級(進化)
・回避の心得・初級
・風纏・初級
・身体強化・初級(NEW)
【称号】
・一線を越えた者
【フレンド】
・ユイ
・タクト
【パーティ】
・ユイ
・タクト
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
第2章「供給の行方」、スタートです。
一か月分の成長と、帝都という新しい目標。
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