第十五話 三人目
掲示板を三人で見比べていると、タクトが遠慮がちに口を開いた。
「あの、俺、まだ何のスキルも持ってなくて。足手まといに、なりませんか」
「そんなことないと思います。俺たちも、最初はみんな、そうでしたから」
俺の言葉に、ユイも頷いた。
「私も、リョウさんに何度も助けてもらいました。一人でやるより、誰かと一緒の方が、絶対にいいです」
タクトは、少し安堵したような表情を見せた。
「ありがとうございます……。えっと、俺は、Fランクなので、受けられる依頼、あまり多くなくて」
「じゃあ、まずはFランクでも受けられる依頼から、一緒にやりましょうか」
俺たちは掲示板の中から、比較的難易度の低い依頼を選んだ。
【薬草園の見回り補助】
報酬:成長経験値(小)/銅貨40枚
難易度:★
カレナの外れにある薬草園で、害獣による被害が出ているため、見回りを兼ねた対応をしてほしいという依頼だった。俺たちは受注を済ませ、街の外れへと向かった。
道中、タクトは少しずつ、自分のことを話してくれた。カレナに来たのはつい昨日のことで、まだ右も左も分からないまま、街を歩いていたところを、赤牙に目をつけられたのだという。
「一人で来たんですか」
「はい。頼れる人もいなくて……正直、心細かったです」
薬草園に着くと、管理人の男が、疲れた様子で出迎えてくれた。
「最近、夜になると、角兎の亜種みたいなやつが出てきてな。育ててる薬草を、片っ端から食い荒らしていくんだ」
「昼間は、大丈夫なんですか」
「ああ、昼は姿を見せない。ただ、巣が近くにあるはずなんだが、俺一人じゃ、探しに行く勇気が出なくてな」
俺は観察眼を発動させ、薬草園の周囲を確認した。
【解析中……】
【周辺環境】
生体反応:微弱(一箇所に集中)
「あっちの、茂みの奥っぽいです」
俺たちは慎重に、示された方向へと進んだ。しばらく歩くと、地面に掘られた小さな穴を見つけた。
「多分、ここが巣ですね」
タクトが、少し緊張した面持ちで頷いた。
「俺、何をすればいいですか」
「まずは、様子を見ましょう。無理に戦う必要はないです」
穴の中から、白い毛並みに、鋭い牙を持った小型の獣が、数匹顔を出した。
【解析中……】
【牙兎】
LV:5
弱点:耳の付け根
「タクトさん、まずは一匹、一緒にやってみますか。俺が援護します」
「は、はい……!」
タクトは、支給品らしき短剣を握りしめ、慎重に一匹に狙いを定めた。俺は隣で、いつでも動けるよう構えながら、ユイと目配せを交わした。
タクトの一撃は浅かったが、確かに命中した。俺はすかさず追撃を加え、弱点を正確に突く。
【牙兎を討伐しました】
【討伐経験値を獲得しました】経験値:+8
タクトの視界にも、恐らく同様の通知が入ったのだろう。彼は、少し驚いたような、それでいて嬉しそうな表情を浮かべていた。
「や、やった……! 俺、初めて、討伐できました」
「良かったですね」
残りの牙兎も、三人で協力しながら、一匹ずつ着実に仕留めていった。タクトの動きは、最初のぎこちなさが嘘のように、少しずつ様になっていった。
薬草園に戻り、管理人に報告すると、彼は心底ほっとした様子で頭を下げた。
【依頼達成】
薬草園の見回り補助
報酬を獲得しました
・成長経験値:+25(達成報酬)
・銅貨:40枚
・名声:+6
日が傾き始めた頃、俺たちは街の中心部へと戻った。タクトは、依頼を終えた達成感からか、表情が明るくなっていた。
「今日は、本当にありがとうございました。おかげで、少し自信がつきました」
「これからも、よかったら一緒に依頼、受けませんか」
俺の提案に、タクトは目を輝かせた。
「いいんですか……! ぜひ、お願いします」
俺たちは、フレンド登録の手続きを済ませた。
【フレンド登録が完了しました】
「タクト」がフレンドリストに追加されました
三人での初めての連携が、無事に形になったところで、俺はふと、周囲に視線を配った。街の雑踏の中、こちらを遠巻きに見ている一団がいることに、気づいたからだった。
「あれ……」
ユイも気づいたのか、小さく息を呑んだ。さっきの「赤牙」の男たちが、少し離れた路地の入口から、こちらを見ていた。
「面倒なことに、ならなきゃいいですけど」
俺の呟きに、タクトの表情が強張った。
「俺のせいで、リョウさんたちまで、目をつけられちゃったかもしれません」
「タクトさんのせいじゃないです。俺が、勝手に割り込んだだけなので」
それでも、赤牙の視線が、明確な敵意を帯びているのを、俺は感じ取っていた。彼らは何も言わず、しばらくこちらを見つめたあと、やがて路地の奥へと姿を消した。
「今日のところは、絡んでこないみたいですね」
ユイが、少しほっとしたように言った。だが、俺の中では、小さな警戒心が、消えることなく残り続けていた。
奪う者たちと、奪わない道を選ぶ者たち。この街には、その両方が、確かに存在している。カレナという新しい舞台で、俺たちの選択が、これからどんな意味を持っていくのか――俺にはまだ、その答えが分からなかった。
「今日は、宿を探しましょうか。三人分」
「はい」
「よろしくお願いします」
三人で並んで歩く夕暮れの道は、村にいた頃とは、また違う重みを持っていた。三十日という数字は、まだ頭の中で動き続けている。それでも今、俺の隣には、確かに二人の仲間がいた。
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:6
HP:31/33 MP:21/24
STR:19 VIT:15
AGI:19 INT:13
延命ポイント(LP):28.7日分
所持金:銅貨180枚(+40)
名声:64(+6)
満腹度:50/100(低下中)
次のレベルまで:323/900
【冒険者ランク】
E
【装備】
胴:強化革の鎧
武器:鋭利な鉄の短剣
足:革のブーツ
装飾:魔力の指輪
【所持スキル】
・痛覚遮断
・観察眼
・植物知識・初級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
・小回復魔法・初級
【称号】
・一線を越えた者
【フレンド】
・ユイ
・タクト(NEW)
【パーティ】
・ユイ
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
新しい仲間タクト、そして赤牙の影。
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