第十三話 隊商、出発
第十三話です。
どうぞよろしくお願いします。
翌朝、俺とユイは、揃ってギルドを訪れていた。
「例の護衛依頼、正式に受けたいんですけど」
受付にそう伝えると、女性は少し驚いたような顔をしたあと、すぐに手続きの準備を始めた。
「カレナへの護衛依頼ですね。Eランクのお二人であれば、受注条件は満たしています。ただし、通常の依頼より拘束時間が長く、村の外に長時間滞在することになります。よろしいですか」
「はい、大丈夫です」
俺とユイは、顔を見合わせて頷いた。この数日、少しずつ積み上げてきたものが、ようやく次の一歩へと繋がる。そんな感覚があった。
【クエスト受注】
隊商護衛依頼(村→カレナ)
手続きを終えると、待ち合わせ場所として指定されたのは、村の南門の外だった。翌朝、俺たちはそこへ向かった。
すでに、数台の荷馬車と、十数人の商人、そして護衛らしき人影が集まっている。その中央に、見覚えのある顔があった。
「おう、来たか」
ガイが、軽く手を上げて出迎えてくれた。
「本当に来てくれるとは思わなかったぜ。まあ、心強い」
「よろしくお願いします」
「こっちこそだ。今回の隊商は、俺も含めて商人が八人、護衛は俺たちを入れて六人。お前さんたちで七人目、八人目ってわけだ」
護衛の中には、俺たちより明らかに経験を積んでいそうな者たちも混じっていた。大柄な男が二人、革鎧に身を包んだ女性が一人、そして、まだ若い、俺たちと同年代くらいの青年が一人。
「あんたらが噂の新人か」
大柄な男の一人が、値踏みするような視線を寄越した。
「よろしくお願いします」
俺が頭を下げると、男は少し意外そうな顔をしたあと、ふっと表情を緩めた。
「ま、ガラムの旦那が太鼓判を押したくらいだ、期待しとくぜ」
隊商が出発の準備を整える間、俺はミラを呼び出し、今回の道中について確認した。
「カレナまでは、どのくらいかかるんですか」
「通常の移動速度で、およそ丸一日から一日半です。途中、休憩を挟みながらの移動になります」
「魔物が活発化してるって、聞きましたけど」
「はい。特に、街道沿いの森林地帯で、複数種の魔物の目撃報告が増加しています。油断は禁物です」
準備が整うと、隊商はゆっくりと動き出した。荷馬車の車輪が、乾いた土を踏みしめる音が、規則正しく響く。俺とユイは、隊列の中ほど、荷馬車の脇を歩く形で、周囲を警戒しながら進んだ。
村を出てしばらくは、見慣れた草原の風景が続いた。だが、時間が経つにつれ、景色は次第に、鬱蒼とした森へと変わっていった。
「この辺りから、街道が森を抜けることになる。気を引き締めていけ」
先頭を歩く大柄な護衛が、そう声をかけた。
俺は観察眼を発動させ、周囲の気配を探った。
【解析中……】
【周辺環境】
生体反応:複数(中規模)
「何か、いますね」
俺の呟きに、隣を歩くユイの表情が引き締まった。
森の奥は、木々が密集し、日差しが遮られて薄暗かった。荷馬車の車輪の音以外、不自然なほど静かだった。
その静けさを破るように、突然、木々の合間から、複数の獣が飛び出してきた。
「来るぞ!」
護衛たちが一斉に武器を構える。俺の視界に、解析結果が浮かんだ。
【解析中……】
【灰狼】
LV:8
群れ:5体
これまで戦ってきた牙猪や角兎とは、明らかに格が違う相手だった。俺は短剣を構えながら、ユイに声をかけた。
「二体、こっちに来ます。連携でいきましょう」
「はい……!」
灰狼の一匹が、俺たちに狙いを定めて突進してきた。俺は横に跳んでかわしながら、観察眼で弱点を探る。
【解析中……】
【灰狼】
弱点:喉元
俺は間合いを詰め、狙いを定めて短剣を振るった。だが、一撃では致命傷にならず、灰狼は怒りを露わに反撃してきた。爪が肩をかすめる感覚があった――痛みはない。だが、視界の端で、HPの数値が動いた。
【HPが減少しました】
33 → 25
「リョウさん!」
ユイが叫びながら、灰狼の背後から斬りかかる。俺はその隙に、もう一度、喉元を狙って刃を突き立てた。
【灰狼を討伐しました】
【討伐経験値を獲得しました】経験値:+65
一体を仕留めたところで、俺は自分のHPを確認した。まだ余裕はある。だが油断はできない。
周囲を見渡すと、他の護衛たちも、それぞれ灰狼と交戦していた。大柄な男の一人が、大剣で一撃のもとに一体を仕留める。若い青年の護衛は、苦戦しながらも、なんとか一体を相手取っていた。
「あっちも、手が足りてない!」
俺は加勢のため、青年の方へと駆け出した。灰狼が青年に飛びかかろうとする瞬間、俺は横から割り込み、短剣で牽制する。
「助かった……!」
青年は肩で息をしながら、礼を言った。俺たちは二人がかりで、なんとかその一体も仕留めた。
【灰狼を討伐しました】
【討伐経験値を獲得しました】経験値:+40
戦闘が落ち着いたところで、俺は自分のHPが、思っていたより減っていることに気づいた。
【現在HP】
25/33
痛みがない分、実感が湧かない。俺は小回復魔法を発動させた。
「小回復……」
掌から、淡い光が生まれる。傷というほどのものはなかったが、HPの数値が、僅かに回復していくのが分かった。
【小回復魔法を発動しました】
HP:25 → 31
MP消費:3
「使えた……」
実戦で初めて使う魔法だった。想像していたよりも、確かな手応えがあった。
戦闘の後片付けが終わると、大柄な護衛の男が、俺の肩を叩いた。
「やるじゃねえか、新人。あの青いのの援護、助かったぜ」
「いえ、俺も必死で」
「謙遜すんな。実際、あの場面で動けるやつは、そう多くない」
護衛たちからの評価に、俺は少し照れくささを感じながらも、確かな手応えを覚えていた。
隊列を立て直し、俺たちは再び歩き始めた。しばらく進むと、森が開け、視界が一気に広がった。
遠くに、灰色の城壁に囲まれた、大きな街の輪郭が見えた。村とは比較にならない規模の建造物が、幾つも立ち並んでいる。
「あれが、カレナだ」
ガイが、誇らしげに言った。俺とユイは、しばらく、その光景に見入っていた。
「大きい……」
ユイが、思わず呟いた。俺も同じ気持ちだった。ずっと村の中だけで完結していた世界が、今、目の前で大きく広がろうとしていた。
「今日はここで野営して、明日の朝、街に入る。まだ油断はするなよ」
ガイの言葉に、俺たちは気を引き締め直した。夕暮れが迫る中、隊商は野営の準備を始めた。
焚き火を囲みながら、俺はふと、自分のステータスを確認した。
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延命ポイント(LP):28.7日分
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自然減少と、討伐による微増を差し引いても、ここ数日は、概ね想定の範囲内で推移していた。あの朝感じた違和感は、今のところ、繰り返されてはいない。それでも、頭の片隅から、完全に消えることはなかった。
「リョウさん、大丈夫ですか。ぼんやりしてますけど」
ユイの声に、俺は我に返った。
「あ、すみません。ちょっと、考え事を」
「明日、いよいよカレナですね」
「はい。楽しみです」
焚き火の炎が、静かに揺れていた。三十日という数字は、まだ確かに動き続けている。それでも今夜、俺はこの世界で、また一つ、新しい景色の入口に立っていた。
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:6
HP:31/33(魔法回復後) MP:21/24
STR:19 VIT:15
AGI:19 INT:13
延命ポイント(LP):28.7日分
所持金:銅貨140枚
名声:58
満腹度:65/100
次のレベルまで:315/900
【冒険者ランク】
E
【装備】
胴:強化革の鎧
武器:鋭利な鉄の短剣
足:革のブーツ
装飾:魔力の指輪
【所持スキル】
・痛覚遮断
・観察眼
・植物知識・初級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
・小回復魔法・初級
【称号】
・一線を越えた者
【フレンド】
・ユイ
【パーティ】
・ユイ
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
初めての遠征、そして灰狼の襲撃。
明日はいよいよ、カレナに到着します。
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