第十二話 塔の魔術師
第十二話です。
どうぞよろしくお願いします。
それから数日、俺とユイは、ほとんど毎日のように顔を合わせるようになっていた。
朝、宿の食堂で落ち合い、ギルドで依頼を選び、村の周辺を駆け回る。時には採取や生産、時には討伐。奪わない道を選び続けたい俺と、着実に力をつけたいユイ。互いのやり方を尊重しながら、俺たちは少しずつ、この世界での歩き方を確立していった。
角兎の討伐依頼をこなし、隣町へ向かう商隊の下見手伝いを引き受け、時には迷子になった旅人の道案内もした。名声は着実に積み上がり、所持金も増えていった。
ある程度まとまった資金ができたところで、俺たちは改めて鍛冶エリアを訪れた。
「そろそろ、本格的に整えておきたいですね」
「はい。俺も、そろそろ胸当て以外も、新調しようかと」
店主に相談しながら、俺は硬化革を使った鎧に買い替え、短剣も、以前より重みのある一振りに替えた。ユイも同じように、自分の得意な戦い方に合わせた装備を選んでいく。
【装備を変更しました】
胴:革の胸当て → 強化革の鎧
武器:鉄の短剣 → 鋭利な鉄の短剣
新しい鎧に袖を通すと、以前より、身体がしっかりと守られているような安心感があった。
【システム通知】
プレイヤー「リョウ」がLV5に到達しました
【システム通知】
プレイヤー「リョウ」がLV6に到達しました
レベルアップの通知も、いつしか、以前ほど大きな感動を伴わなくなっていた。それは、この世界での日々が、俺の中で"日常"になり始めている証でもあった。
「リョウさん、そういえば」
ある日の午後、依頼を終えた帰り道、ユイがふと足を止めた。
「村の東の方に、塔みたいな建物、ありましたよね。あそこ、まだ行ったことないなって」
言われてみれば、村の東側には、他の建物とは明らかに違う、石造りの塔がそびえていた。俺もこれまで、特に気にも留めていなかった。
「なんの建物なんでしょう」
「行ってみません?」
俺たちは、その足で東の塔へと向かった。近づいてみると、塔の入口には、星や月をかたどった紋章が刻まれている。
「魔術師の塔、ですね」
ミラが補足するように言った。
「一定以上のレベル、または名声を満たしたプレイヤーに対して、魔法の手ほどきを行う施設です。これまでご案内していなかったのは、条件を満たしていなかったためです」
「条件、満たしたんですか、俺たち」
「はい。現在のレベルと名声であれば、入門は可能です」
俺たちは顔を見合わせ、扉を押し開けた。
中は、ひんやりとした空気に包まれていた。壁には、見たこともない文字がびっしりと刻まれ、天井近くには、淡く光る球体がいくつも浮かんでいる。
「よく来たね」
奥から現れたのは、フードを目深に被った、小柄な人物だった。声の感じからすると、老婆のようだったが、その動きは、年齢を感じさせないほど機敏だった。
「私はレイア。この塔で、魔法の初歩を教えている」
「あの、俺たち、魔法なんて使ったことなくて」
「ふふ、それが普通さね。誰でも最初はそうだよ」
レイアは、俺たちを塔の中央にある円形の広間へと案内した。床には、複雑な模様が描かれている。
「まずは、自分に適性があるかどうか、確かめようか。STATUSウィンドウを開いてごらん」
俺たちは言われた通り、ステータスを開いた。レイアは、それを覗き込むように見て、小さく頷いた。
「二人とも、INTの数値が、戦闘系のステータスに比べれば控えめだね。でも、ゼロってわけじゃない。基礎的な支援魔法くらいなら、十分に扱えるはずだよ」
「支援魔法、ですか」
「攻撃魔法は、それなりの適性と修練が必要になる。でも支援魔法は、比較的、誰でも扱いやすい部類さ。特に――」
レイアは、俺の方をじっと見た。
「お前さんは、痛覚遮断のスキルを持っているようだね。だとしたら、簡単な回復魔法を覚えておくといい。自分の状態が、数字でしか分からない以上、応急処置の手段を持っておくのは、悪くない選択だ」
俺は思わず、頷いていた。以前、鍛冶屋の主人からも言われた、痛みを感じないことのリスク。それを補う手段が、こんな形で見つかるとは思っていなかった。
「教えていただけますか」
「もちろん。ただし、タダとはいかないよ。銅貨80枚、それと――」
レイアは、少し悪戯っぽく笑った。
「この塔の書庫にある、古い魔法薬草の在庫が、少し心許なくてね。西の森の奥に自生している『月光苔』を、十個ほど採ってきてくれるなら、その分、授業料を割引してあげよう」
「わかりました」
俺とユイは、それぞれ銅貨を支払い、簡単な魔法の基礎を教わることになった。レイアの指導のもと、俺たちは呪文の詠唱と、意識の集中の仕方を、少しずつ学んでいった。
【新スキルを習得しました】
「小回復魔法・初級」
【小回復魔法・初級】
自身、または対象のHPをわずかに回復する
MP消費:3
初めて発動させた魔法は、掌から淡い光が生まれ、小さな傷を癒すという、ごく簡素なものだった。それでも、俺にとっては、初めて手にした、この世界における新しい力だった。
修行の証として、レイアは俺たちに、小さな装飾品を手渡してくれた。
「これは、魔力の通りを、少しだけ良くしてくれる指輪さ。餞別代わりに、持っていきな」
【魔力の指輪を入手しました】
装備欄「装飾」に設定可能です
「これで、少しは安心材料が増えましたね」
ユイも同じ魔法を習得し、満足そうに掌を見つめていた。
塔を出ると、日はすでに傾きかけていた。レイアに頼まれた月光苔の採取は、また後日、時間のある時に受けようと、俺たちは決めた。
村への道を戻る途中、ふと、俺たちは見慣れない人影に出くわした。旅装束に身を包んだ、長身の男だった。手には、大きな荷物を背負っている。
「おや、珍しいな。この村で、Eランクの巡礼者を見かけるとは」
男は、こちらのステータスを一目見ただけで、そう言い当てた。
「観察眼、というより……随分、手慣れた様子ですね」
俺の言葉に、男は小さく笑った。
「俺はガイ。隣町カレナから来た、行商人だ。この村と、カレナの間を、定期的に行き来している」
隣町、という言葉に、俺とユイは思わず顔を見合わせた。
「カレナから、ですか。俺たち、ちょうど、その話を聞いたばかりで」
「ほう。ガラムの旦那から聞いたか。だったら話は早い」
ガイは、荷物を軽く担ぎ直しながら続けた。
「近々、また商隊を組んで、カレナに戻る予定だ。護衛の人手を、まだ探している。もしお前さんたちに興味があるなら、ギルドを通して、話を持ちかけてみるといい」
その言葉に、俺の中で、何かが動き出す予感がした。ずっと村の中だけで完結していた日々に、初めて、外への扉が開かれようとしていた。
「考えて、みます」
「気が向いたらでいい。急かすつもりはないさ」
ガイはそう言って、軽い足取りで村の方へと去っていった。
俺とユイは、しばらく、その後ろ姿を見つめていた。
「リョウさん、どう思います?」
「正直、まだ迷ってます。でも――」
俺は、自分の掌に残る、さっき覚えたばかりの魔法の感覚を、確かめるように握りしめた。
「少しずつ、準備は整ってきてる気がします。装備も、スキルも、仲間も」
「私も、同じです。行くなら、リョウさんと一緒がいいです」
夕暮れの光が、村を橙色に染めていく。三十日という数字は、まだ確かに、頭の中で動き続けている。それでも今は、その数字だけでなく、この世界で出会った人たちと、これから見るはずの景色にも、俺の意識は向き始めていた。
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:6(LV4 → LV6)
HP:33/33(+10) MP:24/24(+10)
STR:19(+6) VIT:15(+6)
AGI:19(+7) INT:13(+5)
延命ポイント(LP):28.9日分
所持金:銅貨140枚
名声:58(+25)
満腹度:71/100
次のレベルまで:210/900
【冒険者ランク】
E
【装備】
胴:強化革の鎧(更新)
武器:鋭利な鉄の短剣(更新)
足:革のブーツ
装飾:魔力の指輪(NEW)
【所持スキル】
・痛覚遮断
・観察眼
・植物知識・初級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
・小回復魔法・初級(NEW)
【称号】
・一線を越えた者
【フレンド】
・ユイ
【パーティ】
・ユイ
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
魔法の習得、新しい出会い、そして隣町への予感。
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