第十一話 昇格
第十一話です。
どうぞよろしくお願いします。
翌朝、朝食を終えた俺たちは、ギルドへと向かった。
「今日は、少し歯応えのある依頼にも、挑戦してみたくて」
ユイがそう切り出したのは、パンを食べ終えた直後のことだった。
「討伐、もう少しやってみますか」
「はい。リョウさんの考え方は尊重したいですけど、今日だけは、私に付き合ってもらえませんか」
その言葉には、以前とは違う、少し覚悟の滲んだ響きがあった。俺は頷いた。奪わない選択を貫きたい気持ちは変わらない。だが、時には、誰かの背中を押すことも、必要なのかもしれない。
ギルドに着き、掲示板を見比べていると、一枚の依頼書に目が留まった。
【角兎の群れ討伐】
報酬:討伐経験値(中)/銅貨100枚
難易度:★★
「これ、二人で受けたいんですけど」
俺がそう言うと、ミラが横から補足するように口を挟んだ。
「その前に、一つご提案があります。ユイ様と継続的に協力されるのであれば、まずフレンド登録を済ませておくことをお勧めします。パーティ制度を利用する際の前提条件にもなっています」
「あ、そういえば、まだ、ちゃんとした登録はしてなかったですね」
ユイが気づいたように言った。俺たちは、それぞれのプレイヤーカードを取り出し、ミラとカイの案内に従って手続きを進めた。
【フレンド登録が完了しました】
「ユイ」がフレンドリストに追加されました
「これで、正式に、ですね」
「はい、よろしくお願いします」
続けて、ミラがパーティ制度についても説明を加えた。
「フレンド登録が完了しましたので、パーティを組むことも可能になりました。パーティを組んだ状態で討伐を行うと、獲得した経験値が、貢献度に応じて自動的に配分されます。また、互いのHPやMPの残量を、簡易的に共有することも可能です」
「LPは、共有されないんですよね」
「はい。規約第9条により、LPに関する情報や数値そのものの共有・譲渡は、パーティ制度であっても許可されていません」
なるほど、と俺は思った。経験値やHPの共有はできても、LPだけは、あくまで個人のものとして扱われる。その線引きは、この世界の根幹に関わる部分なのだろう。
「パーティ、組んでみますか」
「はい、ぜひ」
【パーティが結成されました】
「リョウ」「ユイ」
視界の端に、新しい表示が加わった。互いのHP・MPバーが、簡易的なアイコンとして常時表示されるようになっている。
改めて、角兎の群れ討伐の依頼書を手に取り、カウンターへ向かおうとしたところで、受付の女性が申し訳なさそうに声をかけてきた。
「恐れ入ります。こちらの依頼は★★のため、現在Fランクのお二人には、まだ受注いただけません」
「そうですよね……」
肩を落としかけたところで、受付の女性が続けた。
「ですが、お二人の実績を拝見しますと、名声の蓄積や依頼達成状況が、通常のFランクの方よりかなり進んでいらっしゃいます。よろしければ、簡易的な昇格審査を、この場でお受けになりますか」
俺とユイは顔を見合わせた。まさか、こんな流れになるとは思っていなかった。
しばらくして、カウンターの奥から、初めて見る人物が姿を現した。がっしりとした体格の、白髪の男だった。腰には、使い込まれた大剣を提げている。
「わしがこのギルドの支部長をしている、ガラムだ。受付から報告を受けてな、直接、見に来た」
低く、よく通る声だった。ガラムは俺たちの記録を、手元の資料でざっと確認する。
「ふむ。採取、伐採、調合、討伐、住人の個人依頼――幅広くこなしとるな。名声の伸びも悪くない」
資料を閉じ、ガラムは俺たちを見据えた。
「二人とも、Eランクへの昇格を認める。今後は、★★までの依頼を、正式に受注できるようになる」
【冒険者ランクが上昇しました】
F → E
「ありがとうございます」
「礼はいらん。実力に見合った扱いをしとるだけだ。ただし、ランクが上がれば、それだけ厄介な依頼にも関わることになる。慎重にな」
その言葉には、単なる注意以上の重みがあった。俺は小さく頷いた。
改めて、角兎の群れ討伐の依頼を受注する。
【クエスト受注】
角兎の群れ討伐
村の西門を抜け、以前銀葉草を採取した草原よりも、さらに奥まった場所へ、俺たちは並んで歩いた。
しばらく歩くと、草原の一角に、白い毛並みに小さな角を生やした兎の群れが見えてきた。数えると、四体いる。
【解析中……】
【角兎】
LV:4
弱点:正面、額の付け根
俺たちは物陰に隠れながら、群れの端にいる一体に狙いを定めた。ユイが先に踏み込み、俺が援護に回る。
「今です!」
ユイの合図とともに、俺たちは同時に動いた。角兎が驚いて跳ねる隙に、ユイが弱点を狙って剣を突き立てる。俺はその隙を狙い、短剣で追撃した。
【角兎を討伐しました】
【討伐経験値を獲得しました】経験値:+22
(累計 182/220)
一体目は、思っていたよりもスムーズに倒すことができた。パーティを組んだことで、互いの動きが把握しやすくなっているのを、俺は実感した。
残りの角兎たちが、警戒するように距離を取り始める。俺たちは呼吸を合わせ、二体目に狙いを定めた。
「今度は、リョウさんが先に」
「分かりました」
俺は角兎の視界の外から回り込み、弱点を目掛けて短剣を振るった。一撃では倒しきれなかったが、続けてユイが追撃を加え、二体目も仕留めることができた。
【角兎を討伐しました】
【討伐経験値を獲得しました】経験値:+20
(累計 202/220)
「あと、少しですね」
残る二体は、こちらの動きを警戒してか、少し距離を取ったまま、なかなか近づいてこなかった。俺たちはじりじりと間合いを詰めながら、機を窺った。
三体目は、俺が単独で仕留めた。弱点を正確に捉えた一撃が、綺麗に決まった。
【角兎を討伐しました】
【討伐経験値を獲得しました】経験値:+24
(累計 226/220)
視界全体が、淡い光に包まれた。
【レベルアップ!】
LV:3 → LV:4
(次のレベルまで:6/350)
「レベル、上がりました……!」
俺は思わず声を上げた。討伐でのレベルアップは、初めての経験だった。
最後の一体は、ユイが単独で仕留めた。弱点を正確に狙った一撃が、見事に決まる。
【角兎を討伐しました】
【討伐経験値を獲得しました】経験値:+26
「私も、なんとか……」
達成感の滲む声で、ユイが言った。俺は自分のLPを確認する。
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延命ポイント(LP):29.4日分(+0.1)
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今朝感じた不安が、完全に消えたわけではない。それでも、今回はきちんと想定通りの増加が見られたことに、俺は少しだけ安堵した。
村に戻り、俺たちはまっすぐギルドへと向かった。
【依頼達成】
角兎の群れ討伐
報酬を獲得しました
・討伐経験値:+40(達成報酬)
(累計 46/350)
・銅貨:100枚
・名声:+10
所持金を確認すると、これまでの積み重ねもあって、銅貨は210枚になっていた。
「ユイさん、装備、そろそろ見直してみませんか。俺も、ずっと支給品の短剣のままなので」
「賛成です。ちょうど、心許ないなって思ってました」
俺たちは並んで、北の鍛冶エリアへと向かった。
「おう、また来たか」
以前の店主が、俺の顔を見て軽く手を上げた。値段表を確認しながら、俺は迷わず一本の武器に手を伸ばした。
【鍛冶屋 値段表】
・鉄の短剣 銅貨120枚
・革のブーツ 銅貨25枚
・鉄の小盾 銅貨90枚
「鉄の短剣と、ブーツ、いただけますか」
「まいどあり」
銅貨145枚を支払い、俺は新しい短剣とブーツを受け取った。
【鉄の短剣を購入しました】
装備欄「武器」に設定可能です
【革のブーツを購入しました】
装備欄「足」に設定可能です
装備を整えると、視界にステータスの変化が表示された。
【装備を変更しました】
武器:鉄の短剣 STR:+3
足:革のブーツ AGI:+2
隣では、ユイも防具を新調していた。二人とも、装備を整え終える頃には、所持金はそれぞれ、心許ない額まで減っていたが、不思議と後悔はなかった。
「なんだか、ちゃんと冒険者になった気がします」
ユイの言葉に、俺も頷いた。
店を出て、ギルドに戻ると掲示板の方から、聞き覚えのある声がした。振り返ると、ガラムが、新しい貼り紙をしているところだった。
「お、早速Eランクの実力を見せてくれたようだな」
「はい、おかげさまで」
「実は、ちょうどいいところに来た。お前さんたちに、話しておきたいことがある」
ガラムは、貼り出したばかりの一枚の紙を指差した。
【隣町・カレナへの護衛依頼募集】
報酬:応相談(実績・貢献度に応じ大幅加算)
難易度:★★★
備考:Eランク以上、パーティ推奨
「これは……」
「隣町まで、定期的に商隊が行き来しとる。最近、道中の魔物が活発化していてな、護衛の人手が足りとらん。お前さんたちはまだEランクになったばかりだから、すぐにとは言わんが、経験を積んで、いずれ挑戦してみるのもいいだろう」
隣町――この村の外に、別の場所があるという事実に、俺は改めて、この世界の広さを実感した。ずっと村の周辺だけで活動してきたが、世界はまだ、その先に広がっている。
「隣町、って、どんな場所なんですか」
俺の問いに、ガラムは少し口の端を上げた。
「行ってみりゃ分かる。ここより、ずっと大きい街だ。今のお前さんたちには、まだ早いかもしれんが……そう遠くない未来の話だと思っておけ」
俺とユイは、その貼り紙を、しばらく見つめていた。この村での日々にも、少しずつ慣れてきたところだった。だが、世界はまだ、その先に広がっている。
「いつか、行ってみたいですね」
ユイの言葉に、俺は頷いた。
「はい。いつか、二人で」
三十日という数字は、まだ頭の中で、静かに動き続けている。それでも今は、この世界で見える景色が、少しずつ広がっていくことに、俺は確かな期待を感じ始めていた。
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:4(LV3 → LV4)
HP:23/23(+5) MP:14/14(+1)
STR:13(+6、内訳:レベル+3/装備+3)
VIT:9(+0)
AGI:12(+5、内訳:レベル+3/装備+2)
INT:8(+1)
延命ポイント(LP):29.4日分(+0.1)
所持金:銅貨65枚(装備購入145枚支出後)
名声:33(+10)
満腹度:58/100(低下中)
次のレベルまで:46/350
【冒険者ランク】
E(NEW、F → E)
【装備】
胴:革の胸当て
武器:鉄の短剣(NEW)
足:革のブーツ(NEW)
【所持スキル】
・痛覚遮断
・観察眼
・植物知識・初級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
【称号】
・一線を越えた者
【フレンド】
・ユイ(NEW)
【パーティ】
・ユイ(NEW)
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
ランクアップ、そして隣町という新しい目標が見えてきました。
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