↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「命を喰うレベルアップ ―僕は誰かの余命で強くなる―」  作者: 黒豚
第1章「三十日のログイン」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/72

第十話 わずかなずれ

目を覚ますと、窓の外は、うっすらと白み始めていた。


視界の端に、通知が浮かぶ。


【システム通知】

休息によりHP・MPが全回復しました


ようやく、傷が癒えたらしい。俺は自分の身体を確かめるように、両手を握ったり開いたりした。昨日感じていた、腕の芯に残るような違和感は、もうどこにもなかった。


なんとなく、ステータスウィンドウを開いてみる。習慣のように確認していたLPの数字に、俺は思わず目を細めた。


────────────────────

延命ポイント(LP):29.3日分

────────────────────


昨日の朝、確認したときは29.8日だった。一晩でおよそ0.5日分の減少。以前教わった換算では、もう少し緩やかな減り方になるはずだった。しかも昨日は、討伐にも二度関わっている。ミラの説明では、討伐にはごく僅かながら、LPを増加させる効果もあったはずだ。


「ミラ、聞きたいことがあるんですけど」


呼びかけると、視界の端に淡い光が集まった。


「はい、なんでしょうか」


「昨日、牙猪を二体分、討伐に関わりましたよね。討伐にはLPが微量増加するって、前に聞いた気がするんですけど、朝起きたら、思ったより減ってるんです」


ミラは、一瞬だけ、間を置いた。


「……確認いたします」


数秒の沈黙のあと、彼女は答えた。


「討伐によるLP微増分を加味すると、本来であれば、減少幅はもう少し小さくなるはずです。ただ、個体差や、体調に類する要因によって、多少の変動が生じることもあります。深刻な問題である可能性は、現時点では低いと考えられます」


「そうなんですね……」


この言い回しには、どこか慎重すぎる響きがあった。俺はそれ以上、深追いはしないことにした。今はまだ、判断材料が少なすぎる。


身支度を整え、俺は部屋を出た。一階に降りると、ユイが先に席に着いていた。


「おはようございます、リョウさん」


「おはようございます」


朝食を注文しながら、俺はさっきのLPの話を伝えた。ユイも自分のステータスを確認し、少し眉をひそめる。


「私も、少し多めに減ってます。誤差の範囲、ってことなんでしょうか」


「ミラは、そう言ってました。でも、正直、まだよく分からないです」


二人で顔を見合わせたが、それ以上、答えの出ない話を続けても仕方がなかった。俺たちは朝食を済ませ、ギルドへと向かった。


掲示板の前に立つと、以前より依頼の数が増えているように見えた。村に新しく到着したプレイヤーの数が、日を追うごとに増えているのかもしれない。


「今日は、何にしましょうか」


ユイの問いに、俺は掲示板を見比べた。


【薬草採取(追加分)】

 報酬:成長経験値(小)/銅貨50枚

 難易度:★


【フィールド周辺の魔物討伐(角兎)】

 報酬:討伐経験値(小)/銅貨70枚

 難易度:★


【行方不明の飼い犬を探してほしい】

 報酬:成長経験値(中)/銅貨60枚

 難易度:★★


最後の依頼書に、俺とユイの目が同時に留まった。


「これ、なんか気になりますね」


「はい。飼い犬を探すって、討伐でも採取でもない感じですし」


俺たちはその依頼書を受け取り、カウンターへと向かった。受付の女性が、内容を説明してくれる。


「北の森の外れに住む猟師の方が、飼い犬を探しています。数日前から森に入ったきり、戻ってこないそうです。難易度が★★になっているのは、森の奥まで足を延ばす必要があるためです」


「森の奥って、モンスターも出るってことですよね」


「はい。ただ、討伐が目的の依頼ではありませんので、可能な限り、犬の発見と保護を優先していただければと思います」


俺とユイは頷き合い、依頼を受注した。


【クエスト受注】

行方不明の飼い犬を探して


森へ向かう道すがら、俺たちは猟師の家に立ち寄った。白髪交じりの老人が、心配そうな顔で出迎えてくれる。


「クロという名前でな。茶色い毛並みの、中型の犬だ。森の奥にある、崩れた岩場の辺りをよく探検したがっていたから、その周辺から見てくれるとありがたい」


俺たちは礼を言って、北の森へと足を踏み入れた。以前、木材伐採で訪れた場所よりも、さらに奥まった一帯だった。


「観察眼、使ってみます」


俺は周囲に意識を集中させた。


【解析中……】

【周辺環境】

生体反応:微弱(複数)


「何か、いるみたいです」


森の奥へと進むにつれ、木々の密度が増し、光が届きにくくなっていった。ユイが、少し不安そうに俺の隣を歩く。


「こういう場所、まだ慣れないです」


「俺も、正直、慣れないです。でも、二人だと、心強いですね」


しばらく歩いたところで、崩れた岩場が見えてきた。老人の言っていた場所だろう。岩の隙間から、微かに、動物の鳴き声のようなものが聞こえた。


「あそこ、じゃないですか」


俺たちは岩の隙間に近づいた。覗き込むと、茶色い毛並みの犬が、片足を挟まれるようにして動けなくなっていた。


「クロ、だ」


犬は俺たちを見て、弱々しく尾を振った。俺は慎重に岩の隙間に手を入れ、少しずつ、足を挟んでいる部分の岩をずらしていく。


「観察眼、使えば、力の入れ方分かるかもしれないです」


【解析中……】

【岩】

推奨押圧方向:右斜め上


示された方向に力を込めると、岩が僅かに動いた。ユイも一緒に手を添えてくれる。


「せーの」


二人がかりで押し込むと、岩がずれ、犬の足が自由になった。犬は小さく鳴きながら、岩場から這い出してきた。


【クエスト達成条件を満たしました】


俺たちは犬を抱えるようにして、村への道を戻った。猟師の家に着くと、老人は目を潤ませながら、犬を受け取った。


「本当に、ありがとう……! こんなに早く見つけてくれるとは」


【依頼達成】

行方不明の飼い犬を探して


報酬を獲得しました

・成長経験値:+30(達成報酬)

(累計 160/220)

・銅貨:60枚

・名声:+10


想像していたより、名声の伸びが大きかった。ミラが補足するように言った。


「住人からの個人的な依頼を、良い形で解決した場合、通常より高い名声が付与される傾向があります」


猟師の家を出ると、日はすっかり高くなっていた。ユイが、犬を撫でた時の温もりが残る手を見つめながら、呟いた。


「今日は、討伐じゃない依頼で、こんなに達成感があるとは思いませんでした」


「はい。俺も、同じです」


朝、感じた小さな不安は、まだ完全には消えていなかった。だが、こうして誰かの役に立てたという実感が、その不安を、少しだけ和らげてくれている気がした。


「明日も、何か一緒に探しましょうか」


「はい、ぜひ」


俺たちは、夕暮れ前の村を、並んで歩いた。三十日という数字は、まだ正確な意味を摑めないまま、静かに動き続けている。それでも、今日という一日を、確かに積み重ねられたことだけは、疑いようのない事実だった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク・評価、応援よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。