表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】王子を救うため再び異世界へ戻った不遇少女は、騎士団長に溺愛される 〜初恋の王子と一途な騎士団長の間で揺れる心〜  作者: 夜炎 伯空


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/15

7話『助けたいと思った理由に、やっと気づいた』

「また、この場所に戻って来たんですね、あたしたち……」


「ああ」


 迷宮の入り口――


 すべては、ここから始まった。


 この場所で、レオン王子とカイル団長に出逢って。


 あたしの“二度目の人生”が、動き出した。


「ふふ。あたし、最初はここを“死後の世界”だと思ってたんですよ」


「それは……笑えないな」


 呆れたような声。


 けれど、その視線はずっとあたしを捉えたままだ。


 あの頃と同じようで――少しだけ違う。


 言葉にしなくても伝わる距離。


 近すぎるわけでも、遠いわけでもない、その曖昧さが妙に落ち着かない。


 どうしてだろう。


 前は、こんなふうに意識したりしなかったのに。


「だって今のあなた、すごく怖い顔してましたから」


 その表情を和らげたくて。


 そんなことを自然に思ってしまう自分に、ふと戸惑う。


「一年前、言ってくれましたよね。焦るなって。……今は、あなたの方が焦ってるみたいです」


「ふ……そうだったな」


 ようやく緩んだ横顔に、張っていた息がほどける。


 ――よかった。


 たったそれだけで、胸の奥がじんわりと熱くなる。


 安心してしまう自分が、少しだけくすぐったい。


 あたしは、この場所に来るまで一年かかった。


 カイル団長の四年には及ばないけれど……


 それでも、ようやく。


 レオン王子を救うための出発点に――立てた。


   ◇


 迷宮攻略は順調だった。


 少なくとも、途中までは。


 けれど迷宮は、ほんの一瞬の油断さえ見逃さない。


 気づいたときには、もう遅かった。


 罠にかかった足場が崩れる。


 落下。

 衝撃。

 暗闇。


 そして――魔物の気配。


「……っ、痛い……」


 足に走る鈍い痛み。


 動けないほどじゃない。


 でも――逃げ切れるほど甘くもなかった。


 次々に襲い掛かってくる魔物たち。


 新しく覚えた結界魔法を維持するのに精一杯で、足を回復させるまで手が回らない。


 それに――


 今、この場には、カイル団長がいない。


 その事実が、胸の奥をざわつかせた。


 こんな状況なのに。


 魔物よりも、“あの人がそばにいないこと”の方が怖いだなんて。


 どうして――


 こんなにも不安になるの。


 魔力が削れていく。


 そんな時間が、容赦なく過ぎていく。


「このままじゃ……」


 終わる。


 そう思った瞬間――


「澪ーーーーーー!!」


 名前を呼ばれた。


 胸が、大きく跳ねる。


 視界に飛び込んできたのは――


 血に染まった、カイル団長の姿だった。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 鬼気迫る形相のまま、カイル団長が魔物を一蹴する。


 息を呑むほど恐ろしいのに。


 それでも、あたしには――


 どうしようもなく、安心できる姿だった。


「澪、無事か……」


 あたしへ向けられた声だけが、ひどく優しい。


「無事か、じゃないです……っ」


 震える声を、うまく抑えられない。


 カイル団長は全身に深い傷を負っていた。


「どうして、そんな身体になるまで……」


 こんな傷だらけになるほど無茶までして――


 あたしのところへ来てくれたの。


回復魔法(ヒール)!!」


 カイル団長に触れた瞬間、あたしは魔法を叫んだ。


 ――けれど、発動しない。


 魔力が、足りない!?


回復魔法(ヒール)……っ、お願い……!」


 焦りで、声が崩れる。


 どうして、今なの――


 一番、助けたい人なのに。


 届かない。


 気づけば、隣に立ちたいと思っていた。


 守られるだけじゃなく。


 この人を支えられる自分でいたいと。


 ちゃんと並んで歩ける存在になりたいと――


 ずっと、思っていたのに。


「……やだ……」


 こぼれた声は、小さい。


 けれど、自分でも驚くほど必死だった。


 この人を失うなんて、考えられない。


「澪……自分を責めるな……」


 かすれた声。


 もう余力なんて残っていないはずなのに。


 それでも、あたしを安心させようとするなんて――


「カイル団長……!」


 崩れ落ちる体を抱きとめる。


 重くて、熱い。


 こんなにも近くにいるのに――


 遠くへ行ってしまいそうで、怖かった。


「あたしなんかのために、どうして……」


 ううん、違う。


 胸の奥で、はっきりと否定する。


 “あたしのためにしてくれるから”じゃない。


 ――あたしが、この人を。


 そこまで考えて、息が止まった。


 気づいてしまった。


 ずっと目で追っていたこと。


 隣にいたいと願っていた理由。


 助けたいと思った、その本当の意味。


 これは――


「……だめ……」


 こんな形で、気づきたくなかった。


「まだ……なにも言えてないのに……」


 悔しさで、胸がいっぱいになる。


 涙が溢れて、止まらない。


 こぼれ落ちた雫が一滴。


 カイル団長の頬に触れた。


 その瞬間――


 淡い緑の光が、ふわりと広がった。


 やさしく包み込むような輝き。


 まるで、想いそのものが形になったみたいに。


 傷が、癒えていく。


「カイル団長……!」


「み、澪……?」


「よかった……っ」


 もう、堪えきれなかった。


 強く抱きしめる。


 離したくないと思ってしまう。


 ――その理由を、もう知ってしまったから。


「傷が……消えている……」


「奇跡、ですね」


 カイル団長が生きていてくれる。


 それだけでいいと、思ってしまうくらいに。


 それが――今のあたしの、全部だった。


「……いや、奇跡なんかじゃない」


 低く、静かな声。


「澪が積み重ねてきたものが、ここで届いたんだ」


「そんなの……どうでもいいです」


 思わず、言葉がこぼれる。


 きっと、らしくない。


 でも――止められなかった。


「あなたが無事なら、あたしの努力なんて……」


 一瞬だけ、迷う。


 それでも――もう、誤魔化したくなかった。


「カイル団長、あたし――」


「澪……魔術部隊が近くまで来ている。そろそろ――」


 遮られる。


 わかっていた。


 ここで言うべきじゃないことくらい。


 それでも――


「もう少しだけ……」


 無意識に、腕へ力が入る。


「このままで、いさせてください」


 沈黙。


 それから――


「……ああ」


 短い了承。


 その一言だけで、胸がぎゅっと締めつけられる。


 嬉しいのに、苦しくて。


 でも、その全てが――愛おしかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ