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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第伍章 ~砂漠ノ王国~

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第98話 王国ノ真実 ~後編~

ある日の深夜――。

孤児院の子供達が眠りについた後、フレーディルは二人を部屋に呼ぶ。


「ミレイユ、スウェン……あなた達にお話しがあります」


その声は静かだった。

だが、どこか覚悟を感じさせる響きがあった。


「あなた達には、この先も孤児院を守ってほしいのです」


ミレイユはフレーディルが何を言っているのか分からなかった。


「急にどうしたのですか、お母様?」


ミレイユは不思議そうに首を傾げる。

しかしフレーディルは微笑まなかった。


長い沈黙の後――。

ゆっくりと口を開く。


「スウェンには、まず真実を知ってもらわなければなりません」


その瞳は遠い過去を見ていた。


「私とミレイユは――イスガ王国の王妃と姫だったのです」


「――っ!?」


スウェンの目が大きく見開かれる。


当然だった。

突然、自分の妻が滅びた王国の姫だったと告げられたのだから。


そしてフレーディルは語った。

イスガ王国で起きた悲劇。


王の決断。

封印された王国。

そして自分達が生き延びた理由を。


ミレイユですら知らなかった真実を。

イスガ王国が何を作り上げていたのかを。


全て――。

語り終えた時。


部屋には重い沈黙が落ちていた。


そして目的を伝える。


「――これから私はイスガ王国へ戻ります」


静かな声だった。

だが迷いはない。


「彼の意思を果たさなければなりません」


「お、お母様……」


ミレイユの声が震える。

そんなミレイユの手を握りしめながら、フレーディルは続けた。


本来ならば封印後、一週間も経てば砂漠は消え大地へ戻るはずだった。


だが現実は違う。

何十年経っても砂漠は消えない。


つまり――。

何かが起きている。


イスガ王はその可能性を想定していた。


もし砂漠が消えなかった場合。

誰かが王都へ戻り、手動で停止させなければならないと。


「恐らく、魔物の襲撃で何らかの障害が発生、失敗したのだと思います」


フレーディルは静かに言う。


「それが私に残された最後の役目」


「でも……戻るって……」


ミレイユの顔が青ざめる。


「脱出に使った乗り物は、もう――」


「大丈夫よ」


フレーディルは優しく微笑んだ。


「実は王国へ入る方法は、もう一つあるの」


そう言って取り出したのは二本の鍵だった。


「これがその鍵です」


「鍵……?」


「この『鍵』を持って王国のあった場所に近づけば、王宮地下へ転移できるのです」


「転移……?」


スウェンが呆然と呟く。


「そんなことが本当に……」


「イスガ王国の高度な魔法技術は、他国には流出していません」

「この鍵は、出入りの転移するためと封印するための魔法に、1つ欠けた魔法を補うものなのです」


フレーディルは静かに頷いた。


そして鍵を一本握りしめる。


「私は王国へ戻り、砂漠を止めます」

「それが王妃としての最後の務めです」


その言葉に。

ミレイユは何かを察した。


「ま、待って……」


その表情に。

ミレイユの胸が締め付けられた。


「でも、もし――」


フレーディルはもう一本の鍵をミレイユに差し出す。


「……私が帰ってこなかったら――」


「お母様っ!」


ミレイユは必死に拒む。


「お願いだから……」


その声は優しかった。

だからこそ残酷だった。


「その時は、どんな手を使ってでも……イスガ王の姫として役目を果たして――」


「――そんなの嫌!」

「馬鹿なこと言わないで!」


ミレイユは首を振る。


「なんで、なんでなんですか! お母さまっ!」

「今、この世界は平和です! 封印する理由がわかりませんっ」

「これからも一緒に……」


一瞬、その言葉に心は揺れた。


だが――。

フレーディルは娘を抱きしめた。


「ごめんなさい」

「でもね、やっと――」


フレーディルは微笑む。

どこか懐かしそうに。


「……二十年近くも待たせてしまった」

「あなたにはスウェンがいます」

「私は、これで安心して――あの人の元へ行けるのです」


その一言だけだった。

ミレイユは母親の覚悟を理解した。



そしてその日の深夜。

フレーディルは孤児院を後にした。

イスガ砂漠へ向かって。


誰かを危険へ巻き込むつもりはなかった。


そして――。

帰ってくることはなかった。


一週間が過ぎても。

一か月が過ぎても。

砂漠の様子は変わらない。


広大な砂の海は、そのままだった。


それから約六十年。

フレーディルとの約束を果たせぬまま。


今日まで時が流れていたのである。




「「「「「……」」」」」


ミレイユの話を聞いた五人の間には重い沈黙が流れていた。


誰もすぐには言葉を発せない。


その中で。

最初に口を開いたのはルティーナだった。


「ミレイユさんは……イスガ王国の姫」

「そして、この鍵は――」


視線を鍵へ向ける。


「イスガ王が残した最後の希望なんですね」


ミレイユは静かに頷いた。


「はい」


その目に少しだけ安堵が浮かぶ。


「さすがですね、ルティーナさん」

「私が皆さんにお願いしたいことも……もう分かっているようですね」


一方。

エリアルは言葉を失っていた。


幼い頃。

前院長のスウェンから聞かされた昔話。


王国の話。

砂漠の話。

子供向けの作り話だと思っていた。


だが違った。


「全部――本当だったんだ」


ミレイユは自嘲するように笑った。


「今のイスガ砂漠は……私が何もしなかった結果なのです」


その声には深い後悔が滲んでいた。


六十年。

何も出来なかった。

いや――しなかった。

そう思い続けてきたのだろう。


馬琴(まこと)は、それが本当の理由なのかと違和感を覚えていた。


ルティーナが静かに口を開く。


「ミレイユさん」


「……はい」


「本当に何もしなかったんですか?」


ミレイユが目を背ける。


「行かなかったんじゃなくて、行けなかったんじゃないですか?」


「――」


「孤児院を残して」

「みんなを置いて」

「もし自分まで帰れなくなったら」

「そう思ったからでは?」


部屋が静まり返る。

ミレイユは目を伏せた。


そして苦笑する。


「……見抜かれてしまいましたね」


ミレイユは苦笑した。


確かに、それも理由の一つだった。

フレーディルが戻らなかった理由も分からない。

それなのに行く勇気もなかった。


しかし――。

本当は、もう一つ大きな理由があった。


スウェンに反対されたこと。

二人の間に娘が生まれたこと。

守るべきものが増えてしまったこと。


「(この事だけは……エリアルには言えない)」


それが決定的だったことを――。

だが、ルティーナの予想で上書きしていたのだった。



ルティーナは目を細める。


「私達が、その依頼を受けると?」



「――」

「ですよね……こんな身勝手な話」


ミレイユは俯く。


「忘れてください」

「私自身の問題です」

「皆さんを見ていたらつい……甘えてしまいました――」


エリアルは静かに立ち上がる。


「僕は行くよ!」


静かだった。

だが迷いのない声。


「僕は、ミレイユに恩がある」


「それに」

「僕は冒険がしたい……それが夢」


そして拳を握りしめ、揺るがない決断の目をしていた。


「一人でも行くよ」


「エリアル……」


ミレイユの瞳が揺れる。


すると。

サーミャが大きく笑った。


「何言ってんだエル?」

「一人で勝手に行くなっての」


「――!」


「面白そうじゃねぇか」

「それにさ」


サーミャは肩を竦める。


「あたいはエルを仲間だと思ってたんだが?」



「ミヤ……」



「そうですね」


ロザリナも微笑む。


「裸の付き合いもしましたしねぇ」


エリアルが真っ赤になる。

空気が少しだけ和らいだ。



「私はぁ~」


シャルレシカがのんびり言う。


「あの魔物の正体が気になってぇ、夜も眠れないんですよねぇ~」


「「「嘘つけ! 一番、寝てるくせにっ」」」

「「「「あははははは」」」」


ルティーナは全員を見渡す。


「――って事みたいですよ? ミレイユさん」


ミレイユは言葉を失った。



信じられなかった。

こんな危険な話だ。

普通なら断る。


――それが当然だ。


なのに。

誰一人引かなかった。


エリアルの声が震える。


「だから僕は、みんなが好きなんです」


「今さら遅ぇよ」


サーミャが肩を叩く。


エリアルは何も言えなくなった。


――その瞬間。

涙が零れた。



「じゃあ決まりね」


ミレイユはずっと頭が上がらなかった。

ルティーナ達は本当にエリアルの心の支えになってくれた。


本当は、エリアルに頼みたかった。

でも、一人で行かせたくなかった。

そこへ偶然、集まった頼りになる仲間達。


これも、きっと――父であるイスガ王の導きなのだと感謝した。


「(エリアル……王国を頼みます)」


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