第93話 要撃ノ準備
ルティーナ達は、孤児院で一日子供達と遊ぶフリをしながら事前調査をすることにしたのだ。
早速、エリアルの案内を受けながら孤児院の周辺を確認する。
正門。
裏口。
塀の高さ。
周囲の建物。
万が一に備え、侵入経路になりそうな場所を自然な会話の中で確認していく。
そんな時だった。
孤児院の中から、小さな足音が次々と聞こえてくる。
「あれぇ~?」
「エリアルお姉ちゃ~ん!」
「今日は、朝からどうしたのぉ~?」
気付けば数人の子供達が外へ飛び出してきていた。
「お外をうろうろしてるぅ~」
「ねぇねぇエリアルお姉ちゃん、この人達だれぇ?」
エリアルは子供達に囲まれながら苦笑いをする。
「あぁ、みんな……起こしちゃったかな?」
「この人達はね、僕のお友達だよ」
「お友達?」
「そう、今日は皆と一緒に遊びに来てくれたんだ」
「「「ほんとぉ~!?」」」
一瞬で子供達の目が輝く。
その中でも一番年上らしい少女が、ルティーナに近づく。
「私、フォルテ。あなたお名前は?」
「私より1つ? 2つ年下さんかな?」
「(げっ)」
ルティーナの表情が固まった。
彼女には悪気など一切ない。
純粋に同年代だと思っただけだった。
さすがに、いつものようにツッコめなかった。
「「「「ぷっ」」」」
その姿に周囲は噴き出す。
「わ、私はルナリカよ!」
「これでも、ちゃんとした十九歳なのよ」
必死の主張。
だが子供達は聞いていない。
「へぇ~エリアルお姉ちゃんと一緒なんだぁ」
「じゃぁ、ルナリカお姉ちゃんだぁ!」
「「「遊ぼう遊ぼう!」」」
あっという間に囲まれた。
その光景を見ていたエリアルは呆然としていた。
「い……違和感がない」
恐ろしいほど自然に溶け込んでいる。
まるで最初から孤児院の一員だったかのように。
「ルナさぁ」
「お前、子供達に混ざって護衛してた方が――」
「ミヤぁ?」
ルティーナが笑顔で振り返る。
その笑顔に。
ロザリナが慌てて止めに入った。
「ミヤ、それ以上は言っちゃ駄目です!」
「さぁさぁ! みんな~お姉さん達と遊ぼうね」
ロザリナは誤魔化すように子供達へ両手を広げる。
するとサーミャが突然――。
「おいっ! やんちゃ坊主共!」
「あたいが相手してやるからかかって来なぁ!」
「「「うわぁぁぁぁーい!」」」
男の子達がサーミャに一斉に群がる。
ロザリナも巻き添えにして。
――それから数時間。
孤児院は普段以上の賑わいに包まれていた。
サーミャとロザリナは男の子達と全力で走り、魔物退治ごっこで盛り上がる。
「あたいらを倒せるかなぁ? ガキ共がぁ」
「くそぉ~!」
「ぎゃははは!」
(なんだろ、悪人が似合ってるな……ミヤ)
気付けば男の子達がサーミャの後ろを列になって追い掛けていた。
一方。
シャルレシカは女の子達に囲まれていた。
「あやとりはぁ~こうやるんですよぉ~」
「「「「すごーい!」」」」
「シャルお姉ちゃんもう一回!」
こちらは女の子達に大人気だった。
そんな中。
ようやく子供達から解放されたルティーナは、エリアルと合流した。
「エル」
「昨日お願いした件は?」
エリアルは真面目な顔になる。
「予定通りさ」
「明日の朝に出国するって皆に伝えてある」
「でも僕が出る時はいつもみんなが門まで見送りに来るから、連中から見れば十分目立つはずだ」
少しだけ表情が曇る。
「……正直、利用するみたいで嫌だけど」
「仕方ないわ」
「あいつらを油断させるためだし」
ルティーナも真剣に頷いた。
「部屋の方は?」
「院長室の隣にある客間を使わせてもらえる」
「鍵付きだから子供達は入れない」
「完璧ね」
そこへ再び子供達が押し寄せてきた。
「「「「ねぇ、ルナお姉ちゃ~ん!」」」
「さっきの不思議なの見せてぇ~!」
ルティーナは苦笑する。
そして――。
「じゃあ鬼ごっこ!」
「お姉ちゃんが鬼だ!」
「逃げ切れたら見せてあげる!」
「「「うわぁぁぁぁぁ! 逃げろぉ~っ」」」
子供達は全力で逃げ出した。
ルティーナは足に【速】を描く。
そして容赦なく子供達を捕まえていく。
「ルナお姉ちゃん! また、ずるしてるぅ~」
「これが大人よ!」
(いやいや、ガキじゃん!)
エリアルは、その光景を静かに見つめる。
本当は下見のために来たはずだった。
それなのに――。
四人は心から子供達と遊んでいる。
演技ではない。
義務でもない。
純粋に楽しそうだった。
「エリアル」
後ろから声が掛かる。
振り返ると、ミレイユが立っていた。
そして視線を子供達へ向けた。
そこにはいつも以上の笑顔があった。
エリアルの笑顔。
子供達の笑顔。
そして友人達の笑顔。
「まさかねぇ……」
「友達なんて出来ないと言っていたあなたが……」
ミレイユは少し涙目になる。
「こんなに素敵な仲間ができるなんて」
エリアルは照れ臭そうに笑った。
「最高の友達ですよ」
その答えに。
ミレイユも微笑む。
その夜――。
ルティーナ達は皆と食事をし、孤児院を後にした。
翌朝。
孤児院の門前。
「「「「えぇぇぇん!」」」
「「「「エリアルお姉ちゃぁぁぁん!」」」」
子供達は大号泣だった。
「また出掛けちゃうのぉ~!」
「寂しいぃ~!」
エリアルは苦笑する。
「フォルテ」
「みんなの事は頼むよ」
「任せて!」
フォルテは胸を張った。
「私が一番お姉ちゃんだから!」
そしてエリアルは愛馬に騎乗する。
「みんな、いい子にしてるのよ?」
「「「は~い!」」」
その様子を。
孤児院を見下ろせる建物の二階から監視していた。
「へへっ」
「エリアルが出ていくなら好都合だ」
「あとはあの冒険者共が居なくなれば終わりだが……何日滞在するんだか」
だが――。
その一時間後。
ルティーナ達は一般の馬車を利用しバルステン王国から出国する。
その姿を目撃したタッセは大喜びだった。
「ちょろいじゃねぇか……」
「何日張り込まされるかと思ったぜ」
「兄貴に連絡だぁ」
――もちろん。
それも全て計画通り。
数時間後、ルティーナ達とエリアルは砂漠入口の宿場町で合流していた。
そこには、既にヘギンズの馬車も待機していた。
「これで、あいつらは私達が全員出国したと思ってるわね」
「ところでルナリカ」
「いきなり、昨日の朝にここで待機しててって言うから、何事かと思ったぜ」
ルティーナが真剣な顔になる。
そこから最終確認が始まった。
「まずは、私達は全員透明になって、ギンさんの馬車でバルステンに戻るわよ」
ヘギンズは頷く。
「ちゃんと知人の家に一部屋使わせてもらうって話はつけてあるぜ」
「ありがとうございます」
「一旦、ギンさんの知人の家に拠点を構えます」
「そういえば、僕の馬はどうすんだい?」
「とりあえず、小さくして暴れないように眠らせておくけどいい?」
「あぁ、それがいいかもしれないね」
作戦は単純だった――。
拠点ではサーミャとロザリナが留守番する。
ルティーナとエリアルとシャルレシカは、深夜、人気が少なくなったころに消えたままで孤児院へ向かう。
裏口から孤児院に入り、客間で待機することになる。
「私はぁ、深夜の間索敵しますぅ」
シャルレシカが胸を張る。
そしてサーミャ達との連絡手段。
敵に動きがあった時、サーミャの手の甲が光るよう事前に【光】を描いている。
シャルレシカが敵を察知し、ルティーナがそれを発動させれば開戦の合図。
――サーミャとロザリナが外から挟撃する。
「玄関側はあたいが潰す」
サーミャが拳を鳴らした。
「私は裏口を担当します」
ロザリナも負けじと拳を鳴らす。
二人ともやる気満々である。
ルティーナは襲撃に備え、子供達全員へ【眠】を使用し恐怖を与えない。
さらに【硬】で安全を確保する。
もちろん子供達はその事は知らない。
知られてはならない。
「ルティーナが準備している間は、僕が玄関で仁王立ちすればいいんだね?」
「うん」
「(顔が怖い……)」
「最後は俺だな」
ヘギンズが口を開く。
「サーミャ達が出て行って三十分ぐらいしたら警備隊へ通報し、連れてくる」
ルティーナ達はお互いを見つめあう。
「完璧ね」
「さぁみんな」
「悪党退治の時間よ!」
「「「「「「おおっ!!」」」」」」
決戦前とは思えないほど。
全員の士気は高かった。




