表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第伍章 ~砂漠ノ王国~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
91/101

第91話 娯楽ト不穏

温泉施設――。

その言葉にサーミャ達はすっかり乗り気だった。


一方のルティーナだけは、どこか浮かない顔をしていた。


そう……馬琴(まこと)の存在である。


(俺?)


「(そうよ! どうしよぉ~……エルのあんな笑顔みちゃったらさぁ)」

「(断れないじゃんっ!)」


(まぁまぁ、たまにはいいじゃないかぁ~)


馬琴(まこと)は、いつになく冗舌になる。


「(最悪だぁ……この親父)」


そんなルティーナをよそに、エリアルに脱衣所まで案内されていた。


「温泉だ温泉だーっ!」


「どんなお風呂があるんですかね?」


「楽しみですぅ~」


(しゃあああっ! 温泉イベントっキタぁぁぁっ!)


「(何よそれっ!)」


馬琴(まこと)の異様なテンションに、ルティーナは頭を抱えたくなる。



そして――。

何の躊躇もなく服を脱ぎ始める仲間達。


「(えっ!? みんな恥じらいとかないの!?)」


ルティーナは思わず視線を天井へ逃がした。


(ルナ、なぜ上を見るっ!)


「ルナぁ? どうしたぁ?」


サーミャが怪訝そうに声を掛ける。


「つか、何やってんだ?」


「べ、別にぃ……」


「天井とにらめっこしてどうするんだよ」


「(だって見たくないんだもんっ!)」


(素直になっていいんだよ)


「(いつもの声じゃないっ! 最悪だぁ〜!)」


ルティーナの内心など知らないエリアルは、本気で心配していた。


「ご、ごめんねルナ」


「え?」


「やっぱり温泉は嫌だったかな?」


「ち、違う違うっ!」


慌てて否定する。

ここで断れば、エリアルを傷付けてしまう。


「ただ、その……」


ルティーナはヤケクソになる。


「わ、私ってさぁ……みんなに比べて貧相じゃない――」

「見比べたら虚しくなっちゃうって言うかさぁ~」

「(私は何を言ってるのよぉ)」


一瞬の沈黙。


そして。

サーミャが豪快に笑い出す。


「気にすんなって」

「ルナだって八年もすりゃこれぐらいにはなるさ」


「(だから、胸をちらつかせるなっ!)」

「ってか、八年後って二十七じゃないっ!!」


その言葉にルティーナは即座に反論した。

――しかし誰も聞いていない。


そしてサーミャは笑いながら、シャルレシカを両肩から掴んでルティーナの前へ押し出した。


「おい見ろよ! やっぱ国宝級だぞこれ!」


「ふにゃ~」


シャルレシカのたわわが咲きこぼれる。


「(げっ、もろに見ちゃったぁ)」


しかし――その瞬間。

馬琴(まこと)の思考が止まる。


(ぶっ――)


「(ぶっ? って何?)」


馬琴(まこと)の意識は完全に吹き飛んでいた。


「(マコト?)」


返事がない。


「(マコト!?)」


沈黙。

――完全沈黙。


「(まさか)」


よくよく考えれば半年以上の禁欲生活。

シャルレシカの裸体の破壊力は、馬琴(まこと)の精神を軽々と凌駕した。


結果――気絶。


「(嘘でしょ……)」


あまりにも情けない結末だった。


「(……なんか、腹が立つわ)」


呆れ半分。

笑い半分。

しかし同時に好機でもあった。


「(むふぅ)」


ルティーナは思わず口元を緩めた。


「ルナ?」

「なんか、顔が怖いぞ?」


「なんでもないわっ!」


ルティーナは突然、勢いよく服を脱ぎ捨てた。


「さぁ行くわよっ!」


先ほどまでの抵抗が嘘のようだった。

いの一番に湯殿へ飛び込む。


広大な湯舟。

立ち上る湯気。

身体を包む心地よい熱。


「はぁぁぁぁぁ……」


思わず声が漏れる。

疲労が溶けていくようだった。

そして、各々自由気ままに温泉を楽しみ始める。



「ルナぁ~、泳いじゃ駄目っ」


「いいじゃん、こんなにお風呂を満喫できるなんて久しぶりなのよ」


ロザリナの注意を聞き流しながら、ルティーナは湯の中をぱしゃぱしゃ進む。


それを見たサーミャも流れに乗る。


「なぁ、温泉って肌にいいんだよな?」


ザブーンッ!


「潜るなっ! おばさんみたいなことしないでっ!」


「ぶはっ!」


サーミャが勢いよく顔を出した。


「なんか言ったか?」


ロザリナが頭を抱える。

エリアルはその様子を見て笑っていた。


「みんな本当に仲がいいね」

「リーナって、皆のお母さんみたいだな」


「よく言われる……」


賑やかな笑い声が響く。


そんな中。

意外にも一番静かだったのはシャルレシカだった。


「ふにゃぁ~……」


肩まで湯に浸かり、完全にとろけている。


「極楽ですぅ~」


その姿を見た四人は。


(あれ、浮いてるの……?)

(凄いな……)

(リーナ……もいでいいぞ)

(了解っ!)


最終的に全員同じ結論に至った。


「今日はぁ、皆さんの目が怖いですぅ~」


シャルレシカだけが理由を理解できていなかった。

そして四人に無茶苦茶にされた。



そして温泉を満喫した後――。

五人は浴衣姿で休憩所へ移動した。


挿絵(By みてみん)


その頃。

ようやく馬琴(まこと)の意識が復活する。


(くっ……何が起こった?)


「(あっ、起きた)」


(ルナ、俺は何してた?)


「(ぷっ、本当に覚えてないの?)」


(何がだ? それより、温泉はどうなった!)


本人は心底悔しそうだった。

ルティーナは吹き出しそうになる。


「(シャルの裸を見て、意識が落ちたみたいよ)」


(何も覚えてない)

(し、死にたい)


「(あはははっ)」



そんなやり取りをしている間、エリアルはシャルレシカの水晶玉を気にしていた。


「そういえばシャル」


「はいぃ?」


「それ、お風呂の中でも持ってたよね?」


「この子は家族ですからぁ」


シャルレシカは大切そうに抱きしめる。


「赤ちゃんの頃から一緒なんですぅ」


「そうなんだ」


エリアルは微笑んだ。


その瞬間だった。

温泉帰りの和やかな空気に、ほんの僅かな違和感が混じる。


誰も気付かなかった。


いや――。

一人だけ気付いていた。


「……ふにゃ?」


シャルレシカの表情が僅かに変わる。


「どうしたの?」


ロザリナが尋ねる。


シャルレシカは何気ない顔のまま小声で呟いた。


「身近に悪意を感じますぅ」


エリアルはどういうことかを問う。

するとルティーナは、シャルレシカの能力の説明をする。


彼女は、索敵魔法を展開していなくても周囲二十メートル以内ならある程度の状況が察知ができると。


「(だから、大会の時に戦いながら僕の位置がわかったのか)」



温泉帰りの穏やかな空気が一瞬で冷える。


「どこ?」


「休憩所の奥ですぅ」


視線だけは向けない。

だが確かに感じる。


「(組織の連中?)」


(さすがに白昼堂々は……)


自分達へ向けられた悪意。

ルティーナは静かに立ち上がった。


「私、お手洗い行ってくるね」

「(シャル、あれを貸して)」


「(はいですぅ)」


(すける)


誰が見ても不自然ではない。

ただの離席――。


しかしその手には既に、透明化したシャルレシカの魔道具――小さな水晶が握られていた。


「おいおい、ルナ」


サーミャが適当に声を掛ける。


「おこちゃまだぁな~飲み過ぎたのか?」


「えへへ、そうかも~(ここぞとばかりにぃ~)」


ルティーナは苦笑いを返した。

そのまま何気ない足取りで歩き出す。


休憩所の奥。

二人組の男達。


視線は向けない。

あくまで自然に。


だが通り過ぎる瞬間だけ、男達の様子を確認した。


ほんの一瞬。

確実にこちらを見ていた。


(やっぱり怪しいな)


そして。

ルティーナは歩きながら透明化した水晶をそっと落とす。


音もなく。

誰にも気付かれないように。


男達の席のすぐ近くへ。


――設置完了。


そのまま何事もなかったかのように、お手洗いへ向かった。



数分後――。

ルティーナは席へ戻ってくる。


「ただいまー」


満面の笑み。

完璧な演技だった。


「遅ぇぞ」


「ごめんごめん」


そして席へ腰掛ける。


「(シャル)」

「(盗聴できてる?)」


シャルレシカは小さく頷いた。


既に水晶と感覚を繋げている。


その様子を見たエリアルが小声で尋ねる。


「何をしたんだい?」


「盗聴さ」


サーミャが代わりに答える。


「シャルの小さい水晶はそういう使い方が出来る魔道具なんだ」


「凄いな……」


エリアルは苦笑した。

もう今さら彼女達の規格外さに驚くつもりもなかった。


「後は、あいつらの会話が始まるのを待つだけさ」


サーミャが葡萄酒を口に運ぶ。


見た目は完全に雑談中。

しかし全員の神経は張り詰めていた。


奴らは何者なのか。

なぜこちらを見ていたのか。


偶然ではない――。



その時だった。

もう一人の男が現れ、合流する。


そして三人は周囲を確認すると、小声で会話を始める。


「アイツらの顔を覚えるんだ……」


男達の低い声が、水晶越しに届く。

その言葉に、ルティーナ達の表情が僅かに変わった。


もちろん――。

この時の彼女達は、まだ知らない。


その悪意が向かう先が、エリアルの大切な居場所であることを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ