表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第伍章 ~砂漠ノ王国~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
89/105

第89話 夜風ノ約束

エリアルにとって、それは予定外の寄り道だった。

本来なら、とっくに宿場町へ到着しているはずの距離。


だが彼は速度を抑え、背中に乗るルティーナへ気を配りながら馬を走らせていた。


夜風は心地よい。

砂漠の熱気も日が落ちたことで和らぎ、静かな街道がどこまでも続いている。


「エル一人だったら、もっと早く帰れたのに……ごめんね」


背中から申し訳なさそうな声が聞こえた。


エリアルは小さく笑う。


「気にしなくていいよ」

「本気を出せばもっと速く走れるけどさ」


そう言って愛馬の首を軽く撫でる。


「さすがにルナが振り落とされちゃうからね」


「うっ」


否定できなかった。


今のルティーナは飛行の疲労がまだ抜け切っていない。

もし全速力で走られたら、本当に落ちる自信があった。


「やっぱりエルって優しいよね」


「そうかな?」


少し照れたような声だった。


「でも、一人旅よりは会話相手がいる方が楽しいよ」


その言葉にルティーナは少し嬉しくなる。

エリアルはどこか人を安心させる不思議な雰囲気を持っていた。


強いのに偉そうじゃない。

優しいのに押し付けがましくない。

だから自然と話しやすい。


エリアルはそんな相手だった。


しばらく他愛もない会話が続く。

やがてエリアルが思い出したように口を開いた。


「そういえば……」


「うん?」


「ルナ達は、どうしてバルステン王国へ旅行するって決めたんだい?」


「あー、それね」


ルティーナは苦笑した。

――そして話し始める。


武闘大会の賞金で拠点建設が決まったこと。

完成まで一か月ほど掛かること。

だから旅行へ出ることになったこと。


そして――。


「ミヤがね……」

「葡萄酒を飲みたいって言い出したの」


数秒間。

エリアルは沈黙した。


そして――。


「はははははっ!」


盛大に吹き出した。


「えっ、そんなに!?」


「だって!」


腹を抱えながら笑う。


「「旅の理由が葡萄酒って!」

「サーミャさん、もっとしっかりした人だと――」


「酒浸りだよ、毎日」


「ぷっ」


エリアルが失礼と分かりながらも噴き出してしまう。


「でも楽しそうだね」


「うん」

「すっごく楽しいよ」


その言葉はルティーナの本心だった。

冒険者になってからの日々。


仲間達との時間。

全部が楽しい。

――だから自然と笑顔になる。


その様子を見たエリアルもまた、穏やかに微笑んでいた。


「うらやましいな……」


「あっ、そうだ!」


ルティーナが思い出したように言う。


「拠点が完成したら遊びに来てよ」


「うん、行ってみたい!」


エリアルも思わず笑顔になるた。


そして、ルティーナは以前から気になっていたことを切り出す。


「そういえばエル」


「ん?」


「エルって、なんで冒険者になったの?」


その問いに、エリアルは少しだけ表情を変えた。


夜風が吹き抜ける。

馬の蹄の音だけが静かに響く中、彼は小さく息を吐いた。


「……実はね」


ぽつりと呟く。


「武闘大会の会食の時、ノキア王の前で少しだけ嘘をついてたんだ……」


「嘘?」


「うん」


エリアルは苦笑した。


「この魔剣……祖父から譲り受けたって話――」


「あれ?」

「本当じゃなかったの?」


「半分だけ本当かな……」


そう言って、彼は夜空を見上げる。


「僕は捨て子なんだ」


ルティーナは思わず目を瞬かせた。


エリアルは静かに続ける。


バルステン王国の孤児院で育ったこと。

魔剣を託してくれたのは祖父ではなく、孤児院の院長だったこと。


そして――。

その恩返しをしたくて武闘大会へ出場したことを。


「去年と今年の優勝賞金は全部寄付したんだ――」


「全部!?」


ルティーナは思わず声を上げた。


「うん」


エリアルはあっさり頷く。


「皆に、少しでも良い食事をしてほしかったし」

「暖かい布団も増やしたかったからね」


あまりにも自然な口調だった。

――だからこそ、その言葉は重かった。


「なんか……」


ルティーナは頭を抱える。


「……私たち、旅行ではしゃいでて……ごめんなさい」


「いやいやいや!」


今度はエリアルが慌てる番だった。


「全然そういうつもりじゃないから!」

「本当に! ごめんごめん……」


エリアルの必死な様子に、ルティーナは思わず吹き出す。


やっぱり真面目だ。

真面目すぎる。


エリアルは困ったように笑った。


「今の院長からも良く言われるんだ」

「『もっと肩の力を抜きなさい』ってさ」


「正解だと思う」


「あはは……」


二人は顔を見合わせて笑った。


それからエリアルは心配事を相談した。


最近、孤児院周辺の治安が悪化していること。

今は冒険者として自由に動くより、孤児院を守る方を優先していること。

今回も護衛団へ依頼して、ようやく外出できたことを語った。


「本当はさ……」


エリアルが少しだけ寂しそうに笑う。


「ルナみたいな冒険者に憧れてるんだ――」


「そうなんだ……」


仲間と旅をして。

好きな場所へ行って。

好きなように笑う。

そんな生き方が羨ましいのだと。


ルティーナは少し驚いた。

何もかも持っているように見える人にも、悩みはあるのだと初めて知ったからだ。


「(だから去年優勝してから、ギルドに顔を出してなかったんだ)」


(納得だな)


馬琴(まこと)も静かに頷いた。


やがて話題は魔剣へ移る。

だが、その答えは予想外だった。


「正直に言うと……」

「僕にもよく分かっていないんだ」


「え?」


「願ったら出来た――」

「それだけなんだ」


「雑っ!?」


ルティーナが即座にツッコむ。


エリアルは肩をすくめた。


「本当にそれしか説明できないんだよ」

「火の魔法が使いたいと願うと、剣先が燃えるみたいな……」


「――なにそれ怖い」


「僕もそう思う」


二人は思わず笑ってしまう。


理屈が分からない力。

それはルティーナも同じだった。


お互いが力の謎を話し合いながら、笑いあえた。


だから少しだけ安心できた。

自分だけじゃないのだと。

同じ悩みを抱えている相手がいるのだと。



そして――。

前方に宿場町の灯りが見え始めた頃だった。


「あっ」


ルティーナが思い出したように口を開く。


「エルって、イズガ砂漠の噂とか知らない?」


エリアルは一瞬だけ目を細めた。

おそらく察したのだろう。

なぜルティーナが砂漠の真ん中にいた理由を――。


(例の件は伏せるぞ)


「(うん)」


短いやり取りの後、エリアルは口を開いた。


「院長から聞いた昔話ならあるよ……」


そして語り始める。


今からおよそ八十年前。

イズガという小国が存在していたこと――。


砂漠に囲まれながらも、高い技術力を誇っていたこと。

だが、ある日突然現れた巨大な魔物によって壊滅したこと。

そして研究者たちが王国ごと砂漠の下へ沈めたという。


「その話を聞いて宝探しに向かった連中もいたらしい」

「でも――」


エリアルは肩をすくめる。


「――誰一人として帰ってこなかったそうだよ」


ルティーナは黙って聞いていた。


(砂漠じゃなくて……海だったからか)


馬琴(まこと)は仮説が真実に辿り着く。


だが今は口にしない。

まだ情報が足りなかった。


そうこうしているうちに宿場町へ到着した。

検問所では既にサーミャ達の宿泊先が伝えられており、一行は迷うことなく合流する。


そして――。

布団の上で熟睡していたシャルレシカが目を覚ました。


「あれれぇ~?」


きょろきょろと周囲を見回す。


「ギンさんとミヤとリーナがいるぅ~?」

「ルナもエリアルさんもぉ~?」

「なんでぇ~?」


「――おいおい」


エリアルが苦笑する。


「僕はエルじゃなかったのかい?」


「あっ」


シャルレシカが固まった。


「そうでしたぁ~」

「エルですぅ~」


「おい待て」


今度はヘギンズが反応する。


「今、ワシのこと『ギンさん』って呼ばなかったか?」


「あー」


ロザリナが楽しそうに笑う。


「ぷっ……一応、『さん』付けなのね」


「勘弁してくれよ……」


部屋に笑い声が広がった。

張り詰めていた空気が一気に和らぐ。


そしてエリアルは立ち上がる。

孤児院へ戻らなければならない。


「僕は先に戻るけど、バルステンへ着いたら孤児院へ寄ってほしいな」


「うん」

「絶対行く」


ルティーナは力強く頷いた。

エリアルも穏やかに笑う。


「待ってるね」


そう言い残し。

彼は夜の街へと消えていった。


再会は偶然だった。


だが――。

その短い時間は、確かに互いの距離を縮めるには十分だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ