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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~訳あり少女の意識の中で生き抜く異世界旅~  作者: うにかいな
第伍章 ~砂漠ノ王国~

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第88話 奇遇ナ再会

ルティーナは、ついに限界を迎えようとしていた。


長時間に及ぶ飛翔。

そして何度も繰り返した実験。


さすがの彼女も、強がって馬琴(まこと)に付き合っていたが、疲労は隠しきれない。


(がんばれルナっ)


翼を羽ばたかせるたびに背中が痛い。


「(こ、これぐらい平気よ……)」


喉は渇き、視界も少しぼやけ始めていた。

それでも街道だけは見失うまいと必死に飛び続ける。


それでも――。

帰れなくなれば洒落にならない。


ただ、その思いだけで飛び続けていた。


だが――。

もう限界だった。


「(マコト……ごめん)」

「(そろそろ本当に限界かも……)」


弱々しい声だった。

普段なら弱音を吐かないルティーナが、つい本音を漏らしてしまうほどに消耗していた。


すると馬琴は周囲を見渡しながら静かに言う。


(大丈夫だ)

(俺の予想が正しければ、この辺りは問題ない)


「(だって……着陸しても――)」


(大丈夫だ、降りていい)


ルティーナは馬琴(まこと)の言葉を信じ、恐る恐る高度を下げる。


そして――。

足元の砂を見つめながら慎重に降下する。


ふわり。


着地した瞬間――。

その場へ崩れ落ちるように座り込んだ。


「はぁはぁはぁはぁぁぁぁ……」


全身から力が抜ける。

予想通りだった。


足場は沈まない。

砂はしっかり体重を支えていた。


少なくとも、この辺りは普通の砂地らしい。


(やはりな……)


「(た、助かったぁ……)」


ルティーナは安堵したように砂の上で大の字で空を見上げる。


街道までは、もう一キロもない。

――その距離なら歩いて戻れる。


しばらく休み、ゆっくりとルティーナは立ち上がる。

時間はかかったが、なんとか街道まで無事にたどり着けた。


馬琴(まこと)は、日が暮れるまで休憩を提案する。

さすがにシャルレシカも魔力を使い過ぎ、睡魔が襲ってきていた。


ルティーナは早速、平野側の地面に手をついた。


(かま)


やがて四メートルほどの岩窯を作成する。

続いて太陽の反対側を確認し【(あな)】を描き、入口を作る。


そこへ潜り込み、さらに壁へ【(すずしい)】を転写した。


すると――。

ひんやりとした空気が流れ始める。


外とは別世界……簡易宿の完成だ。


「はぁぁ……」


思わず声が漏れる。


心地よい。

生き返るような感覚だった。


懐から寝落ちしたシャルレシカを取り出し、彼女にかけている漢字をすべて解除し元の大きさへ戻した。


そんなルティーナの苦労も知らずに――。


「むにゃぁ……」

「お菓子は別腹ですぅ……」


ぐっすり寝ていた。

完全に熟睡している。


(相変わらず、緊張感ないね)


馬琴(まこと)が呆れる。


「(むしろ、平常運転で安心するわ)」


ルティーナは思わず苦笑した。


そして、そのまま隣へ寝転がる。

――もう指一本動かしたくなかった。


(今日はここまでだな)


「(体力が回復したら、もう一回行くの……?)」


(いや――)


馬琴(まこと)は即答した。


(作戦は練り直しだ)

(飛ばなきゃあの場所には行けない)


「でも……」


(それに、もうすぐ日も落ちる)

(暗くなったら何も見えん)

(今回はここで終了だ)


ルティーナは少し残念そうに目を閉じて考えた。


本当は気になっている。

巨大反応の正体も。

遠くに見えた何かも。


だが――。

今の自分では無理だ。


それくらいは分かる。


「(……そうね――)」


小さく呟く。

そして、その返事を最後に意識が途切れた。


完全な寝落ちだった。


(ははっ)

(寝たか)


危険な砂漠の正体についても、いくつか仮説が立っている。


焦る必要はない。

日が沈めば暑さも和らぐ。


街道の往来も増えるだろう。

うまく旅人の馬車に便乗できれば、宿場町へ戻れる。


そう考えながら、彼もまた静かに意識を休めた。



そして――。

数時間後。


聞き覚えのある声がルティーナに呼び掛ける。


「おーい!」

「生きてるー?」

「ルナリカさん?」

「シャルレシカさん?」


「んん~……」


ルティーナは寝返りを打つ。


「リーナぁ~……」

「あと五分ぅ……」


完全に寝ぼけていた。


だが次の瞬間――。

はっと目を開く。


「ん?」


目の前には、居ないはずのエリアルの顔が眼前にある。


何度か瞬きを繰り返す。

視界がはっきりしていく。


そして――。


「えっ? えーーーっ!」


「エリアルさん!? なんでこんな所にぃーーーーっ!」


勢いよく飛び起きた。

目の前にいたのは、間違いなくエリアルだった。


「それは……僕の台詞なんだけど?」


エリアルは苦笑する。

お互い状況が理解できていなかった。


『なぜここにいるのか?』


どうして、こんな砂漠の真ん中で出会うのか?


理解が追い付かない。


エリアルは、街道を移動中にこの奇妙な建造物を発見したらしい。


砂漠のど真ん中に巨大な窯。

怪しすぎる。

興味本位で近付いてみた

すると中で二人の少女が、無防備な姿で爆睡していたのである。


「そりゃ、誰だって驚くさ」

「しかも君たちだったなんて!」


エリアルが呆れた顔になる。


「えーっと……」


ルティーナは視線を逸らした。


説明しにくい。

ものすごく説明しにくい。


「ん、んん……仲間とは途中まで一緒だったんだけどね……」

「私達だけ別件で残ったというか……」


エリアルは言い訳しようとしているのを察し、それ以上追及はしなかった。


「それよりエリアルさんこそ……」

「どうしてここに?」


するとエリアルは肩を竦める。



武闘大会後、一度故郷のバルステン王国に帰ったこと。


「え、エリアルさんってバルステンの人だったのぉ?」


ルティーナとの約束を果たすために、再びノスガルドへ向かったこと。


「君に逢いに行ったけど、みんなでバルステンに長期旅行へ出発したって聞いてさ」


「帰郷すればどこかで会えるかもって……」

「まさか、こんなところで会えるとは思わなかったよ」


そう言って愛馬の首を撫でる。

太陽に照らされた毛並みが美しい馬だった。


「(うわぁ……馬だ……)」

「(か、カッコいい)」


ルティーナは少し考える。

そこから事情を説明する。


サーミャ達が先の宿場町で待機していること。

自分達も合流したいこと。


それを聞いたエリアルは少し困った顔になった。


「連れて行ってあげたいのは山々なんだけど……」


愛馬を見ながら言う。


「せいぜいあと一人しか乗せられないんだ」

「ごめんね」


「え?」


ルティーナは首を傾げた。


「乗せてくれるの?」


「いや、だから――話聞いてた?」


ルティーナはニコニコしながら、熟睡しているシャルレシカへ手を伸ばした。

何喰わぬ顔で、いつものように小さくし懐へ収納する。


「これで一人でしょ?」


「……」

「……えぇぇぇぇぇぇぇーーーーっ!?」


エリアルは頭を抱えた。


「シャルレシカさんが人形になった!?」

「相変わらず面白い能力だね……」


「それはお互い様でしょ?」

「エリアルさんの剣だって」


ルティーナが笑う。


「あはは」


エリアルも苦笑した。


「やっぱりそうだよね」


そして馬へ跨る。


「じゃあ移動しながら話そうか」

「今からなら深夜には宿場町へ着けるよ」


そう言って馬に乗りながら手を差し出した。


「おいで」


「ありがと」


ルティーナも後ろへ乗り込む。

懐のシャルレシカを潰さないよう慎重に体勢を整えた。


挿絵(By みてみん)


「手が痛くなったら言うんだよ」

「安全第一で行くから」


その気遣いに、ルティーナは少しだけ嬉しくなる。

だからこそ思った。


「そういえば他人行儀だよね? 同い年なのに」


「ん?」


「これを機に友達にならない?」


エリアルは目を瞬かせた。

少し意外そうな顔をする。


だが。

次第に柔らかな笑みへ変わっていった。


「いいのかい?」

「僕には友達ってあまり居ないから、どうしたら……」


「なら呼び方からよ」

「私のことはルナって呼んで」

「シャルはシャルでいいよ」


「わかった」


エリアルは小さく頷く。


「じゃあ僕のことはそのままエ――」


その時だった――。

ルティーナの懐から寝言が聞こえる。


「エルぅ~……」

「白馬の王子様ですぅ~……」

「むにゃむにゃぁ~……」


一瞬の沈黙。

二人は同時に吹き出した。


「エル――だって?」


エリアルが笑う。


「僕のこと?」

「……すごい略され方だ」


「私は好きよ? 嫌ならいいけどさ」


ルティーナも笑いながら言った。

だがエリアルは首を横に振る。


「いや、気に入った」

「僕のことは『エル』で」


そう言って微笑む。


「よろしく、ルナ」


ルティーナも笑顔で応えた。


「よろしくね、エル」


一瞬、心地よい風が吹き抜けた。

まるで、新しい絆が生まれる息吹のように。


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